題名:「あんなに一緒だったのに」

第1話「Tomorrow never knows」

「んん.........」
体に重い倦怠を感じる中、智子は眠りから覚め瞼を開けると、
見慣れぬ暗い空間がそこにあった。
『ここは...』
その空間を探るため、手を動かそうとするが、
すぐにジャラリという鎖の音が鳴り、動きを封じられる。
智子の両手首は壁に繋げられた鎖によって吊るされており、
鎖に身を預けるようにして長く放置されていたのだった。
智子は何故自分がこのような状態に至ったのか考えを巡らせるのだが、
『いつものように夕食の準備をしながら、あの人の帰りを待ち、
そして、あの人に愛されて...』
記憶が曖昧で、そこでノイズが掛かったように途切れてしまう。
「あなた...気が付いたの...?」
唐突に掛けられた言葉に智子はドキッとし、闇に慣れ始めた目を凝らすと、
反対側の壁に自分と同じように鎖で繋がれた女性がいることに気づく
その声は、弱々しかったが、泉のように澄んでおり、
体も暗闇の中でも仄かに光っているように見えた。
その姿をまだはっきりと見ることは出来ないが、きっと美しい女性なのだろう。
「ねぇ、教えて? ここは一体どこなの? どうして、私はここに...」
同じ境遇の女性の存在に、智子は僅かに生気を取り戻し、その女性に次々と質問をする。
「ここは、フライシャトーと呼ばれる高級会員制クラブの地中深くに存在する石牢よ。
瀕死の重傷を負った貴方は、2日前ここに運びこまれて来たの。」
智子はこの時、初めて自分の格好の異様さに気づく、
身に着けていたのは、ゴッドサイダーとして戦う時のプロテクターで、
しかも、ボロボロに砕けているのだ。智子は何が何だか分からなくなる。
今の会話で分かったのは、その話しぶりと妖しげな牢獄に捕えられている事実から、
彼女はここで望まぬ仕事をさせられており、自分もそうなる可能性があることだけで、
逆に疑問が増える。
自分のこの姿を見れば普通の人間でないとは分かる筈なのに、
何故このような場に監禁したのか?
また、体は重く痛みも残っているが、
全く手当てをされた様子も無いのに傷が治っている。
「ここは一体何なの? ただのクラブではないのでしょう?」
その女性は暫く黙ってしまう。
「ねぇ、お願い教えて?」
「このフライシャトーはデビルサイダーや悪魔に与する人間達の社交場として、
また、人間社会では得られない快楽を提供する場としてベルゼバブ様が作った店なの。
そして、この牢獄はヘル・ストリートでベルゼバブ様の居城である
キングフライシャトーと繋がっているわ。」
「ベルゼバブですって...!」
智子は、これまで多くの悪魔と戦ってきた、だからこそ分かる自分と相手の力の差。
自力での脱出が、ほぼ不可能であることを認めざるを得ない。
そして、もう1つ智子を驚かせたのは、
その女性がベルゼバブのことを様付けで呼んだことだった。
その呼び方に敬意は感じられなかった。
きっと、そう呼ぶことが自然になるまで教育されたのだろう。
彼女もベルゼバブの呼び方の違いに気づき、深いショックを受けたようだった。
智子はこれ以上何も聞けなくなり、暗闇の中2人は沈黙してしまう。

そんな重く苦しい時間が30分程続いた頃、唐突に異変が起きる。
ゴゴゴゴゴゴ...!
張り詰めた空気が音を立てて部屋を揺らす。
「ぁ...ぁぁ...」
智子の反対側の壁に捕えられた女性も恐怖に哀れな声を漏らし始める。
『これは瘴気?』
今まで感じたことのない強大な力だったが、それが誰の物であるか分かった。
こんな相手に、今の弱った体で抗える訳無い。
いや、どんな方法を使っても逃げることさえ出来ないだろう。
牢の扉が開くと、壁に備えられた6つのランプに火が灯り、黒い外套に身を包んだ、
男とも女ともいえない中性的な妖艶さを持つ麗人が部屋に入ってくる。
『こいつがベルゼバブ...』
「あら、目が覚めたようね。
でも、先にこっちの子に用があるから、貴方は暫く待っていて下さいね。」
ベルゼバブに見据えられただけで智子の体は金縛りにあったように硬直し、
唯一動かせるのは視線だけになってしまう。
そして、ベルゼバブを追う瞳に、にわかに信じ難い光景を見た。
『なんて、綺麗なの...』
ランプの光が暗闇を消したため、
智子は一緒に捕えられていた女性の姿を初めて見ることになるのだが、
下着すらも与えられず全てを晒し出されたその女性のあまりの美しさに息を呑む。
艶やかで僅かな灯にもキラキラと輝く長い髪。
透き通るような白くハリに富んだ肌。
大き過ぎても小さ過ぎてもいない適度の膨らみを持つ形の良い胸と、
その頂点にある上品に上を向いた薄紅色の乳首。
小さく縦長の臍。
細く締まった腰から色気の詰まった臀部や太股を越えて
足首まで続く女性らしい魅力を余す所なく描く曲線。
悲壮な表情でさえも人目を惹く秀麗で整った顔。
その女性は男性の目からだけでなく、
同性である女性までも憧れる美しさを全て兼ね揃えていた。
智子も自分の容姿にそれなりの自信を持っていたが、
彼女を前にしたら、角張った肩などコンプレックスばかりが浮き彫りにされてしまう。
出来ることなら、彼女と並んで立つことは遠慮願いたいという考えまで浮かぶ。
彼女の美しさは人が持つことの許される美の領域を明らかに超えていた。
強い憧れと嫉妬を抱くのと同時に、智子の頭にある1つの推論が浮かぶ。
『彼女も自分と同じゴッドサイダーなのではないか?』
ベルゼバブの瘴気をこれだけ間近に受けて意識を保てていることから、
少なくとも普通の人間ではないことは間違いなく、
そして、彼女からはまるで礼拝堂に差し込む日の光のような
温かさと清らかさが感じられる。
また、智子自身の個人的な感情として、神々しいまでの美しさを持つ彼女が
悪魔側の者であって欲しくないという思いもあった。

ベルゼバブによって両腕に繋がれていた拘束を解かれると、
その女性は自分の体を支え切れず、その場に崩れるように座り込む。
「その様子だと、もう限界のようですね。」
弱々しくも美しい姿にベルゼバブは嗜虐心をそそられながら、
その女性の顎を指先で操り自分と向かい合わせる。
「どうしました? いつものお願いをしなくて良いのですか?」
「......」
その女性は答えに言葉を詰まらし、視線の端で一瞬智子の様子を伺った。
「なるほど、仲間である、あちらの方には見られたくないという訳ですか。」
「仲間?」
黙っているその女性に代わり、智子が声を上げてしまう。
「ホホホホ... そうですよ。貴方も薄々感づいていたと思いますが、
この子も貴方と同じくゴッドサイダー、それも十天闘神の1人なんですよ。」
その女性がゴッドサイダーであることは予想通りであったが、
流石に十天闘神だとは思っておらず、智子は大きな動揺を見せる。
「な... 貴方、ゴッドサイダーや人々を導くべき十天闘神ともあろう者が、
敵である悪魔の手に落ちたまま良い様に扱われているなんて、何をやっているの!」
仲間である智子に激しく叱責され、その女性の眉は哀れな程八の字に垂れ下がり、
悲しみで泣き出しそうな顔を俯かせる。
「ホッホッホッホッ! 貴方、随分と酷いことを言うのですね。
この子には、そうせざるを得ない事情があるんですよ。ねぇ、流璃子?」
ベルゼバブは流璃子と呼んだ女性の肩に手を当てて、穏やかな表情を向けると、
突然、その手から黒い稲妻を発した。
「キャアアアアア! お許しを! ベルゼバブ様! お許しを! アウァァァァ!」
流璃子のいう名の女性は、想像を絶する苦痛に許しを乞いながら激しく暴れるが、
ガッチリと肩を掴まれており、その責めから逃れることが出来なかった。
「死んでしまったら元も子もないので、この位にしておきましょうか。」
実際には10数秒であったが、その何十倍も長く感じる苦しみから解放された流璃子は、
ベルゼバブに尻を向けて床に倒れ込んだ。
「ウ...ウウ...」
流璃子の肩にはベルゼバブの手の形の火傷が鮮烈に残り、
毛細血管の破裂と共に肌が所々裂け血を滲み出させていた。
「ホッホッホッホッ! やはり貴方の苦しむ顔は、何にも勝る快楽ですね。」
衰弱しきった無抵抗の者相手にあれだけの責めをして
平然と笑うベルゼバブの残忍性に、智子は息を呑む。
そして、智子はこの後信じ難き光景を次々と目の当たりにする。

普通の人間はもちろん、ゴッドサイダーでさえ命を落としてもおかしく程の攻撃を受け、
半生半死で床に臥す流璃子の体を暖かな光が包み傷を見る見ると治していったのだった。
「ホホホッ まさか、まだそれだけの力が残っているとは。
流石私がペットとして見込んだゴッドサイダーと言うべきですね。」
ベルゼバブは流璃子の白くきめ細かな尻たぶらを撫で回してそう言うと、
ぴったりと閉じた秘芯に指を滑らせる。
「アッ!」
「でも、もう一度同じのを受けたら、貴方といえど、どうなりますかね?」
繊細な指使いで柔肉や包皮で覆われた宝珠に刺激を与え、
流璃子のオンナのコに熱を帯びさせていく。
「ぁぁ...ダメです。お許し下さい。ベルゼバブ様。ぁふぅ!
そんなこと...そんなことされたら私、死んでしまいます。どうかお許しを...。」
「大丈夫ですよ。流璃子。かつて私からあれだけの責めを受けたのにも関わらず、
命を落とさなかった貴方の力を私は誰よりも理解し、評価しています。
それに、大切なペットである貴方をみすみす殺すようなことはしませんよ。
だから、安心して苦しみなさい。」
そして、ベルゼバブは流璃子の淫裂を数回人差し指でなぞり、
その指を流璃子の中へゆっくりと潜らせるのだった。
「ヒャウゥゥ! どうか! せめて他の所に! お願い致します。ベルゼバブ様
どうか、ヒギィアアアアアアア.........!!!」
無様に媚びへつらった願いも空しく、
非情な雷が流璃子の最も大切な部分から全身を駆け巡っていく。
まるでジストニーを起こしたかのように四肢を痙攣させながら暴れる流璃子。
『もし、私があんな目に合ったら...』
そのあまりに壮絶な甚振られ方に、智子は恐怖を隠しきれず足をガクガクと振るわせる。

「...はぁ......はぁ......はぁ...」
ベルゼバブの足元で全身から蒸気を立ち昇らせて
仰向けに転がる流璃子の股はだらしなく開き、口からは苦しげな息が漏れていた。
「ホッホッホッ。まさに虫の息という所ですね。」
先程肩に受けた時のように流璃子の体を光が包むが、
それは傷を癒す前に一瞬で消え失せてしまい、
また、雷撃のダメージは肺の中まで及んでいるらしく、
流璃子の命は息と共に今にも消えてしまいそうだった。
「まだ死にたくないでしょう? なら、言うべき台詞は分かっている筈よ。
さあ、早く言いなさい。流璃子。」
「...ベ...ルゼ...バブ様...ど...どうか...ご慈悲を...
卑しくも...弱い...私に...どうか...ご慈悲を...下さい...ませ...」
神の傍らにいる者が悪魔に加護を求める。
決して起きてはならない光景に智子は自分の目と耳を疑う。
背徳の懇願に残された体力の全てを費やし、意識を失いかけている流璃子の上半身を
ベルゼバブは優しく抱き起こし、熱く唇を重ねた。
ベルゼバブのキスにより命を吹き返した流璃子は、
更なる寵愛を求めるように口を開き悪魔の舌を向かい入れた。
舌の裏側にまで唾液を塗りたくられた流璃子の可憐な喉がコクンと動くと、
流璃子の体を埋め尽くしていた傷が仄かな光を帯びながら消えていく。
命が尽き掛けている1人のゴッドサイダーを救ったのは、敵である悪魔の大幹部であり、
そして、その神の使いである女は瘴気を自らの力に変えたという事実。
「...貴方は...一体、何者なの...?」
信じ難き事象の連続に智子の思考は混乱するばかりだった。
ベルゼバブは全裸の流璃子を片手で抱きかかえながら悠然と立ち上がる。
「ホホホ、驚くのは無理ないでしょうけど、さっき言ったとおり、
この子は正真正銘、ゴッドサイダーのエリートとも言える十天闘神の1人ですよ。」
話題の中心である流璃子は、最も見られたくない姿を仲間に見られた悲しみに心を
支配され、今すぐこの場から逃げ出したい衝動に駆られるが、未だ体力は回復しておらず、
ベルゼバブの支えが無ければ立つこともままならない。
流璃子は智子の視線から弱々しい顔を逸らさせる。
「どうしました。流璃子。貴方からも何か言ってあげたらどうです?
ホホホ、随分と堪えたみたいですね。
人類を災厄から救う筈の弥勒菩薩の化身である貴方が
悪魔に媚を売っている所を見られたのだから、当然と言えば当然ですよね。」
愉悦に浸りながら語られるベルゼバブの言葉に、
智子はずっと頭の中で渦巻いていた疑問の抜け道を見つける。
「そういうことだったの。フフフフ。」
「何が可笑しいのですか?」
智子の笑い声にベルゼバブは部屋に入ってからずっと絶やさなかった余裕の表情を消し、
威圧的な瞳で智子を見据えた。
「気を悪くしたのかしら? いえ、だだ魔王に次ぐ実力者といっても
所詮は悪魔だと思ってね。」
「何?」
「私を謀ろうとしたみたいだけど、つまらないボロを出したわね。
弥勒菩薩を守護神に持つ十天闘神はこの私よ。大層な偽者まで用意してご苦労様。」
「ホーーホッホッホッ! これは傑作ですね。流璃子。彼女は貴方が偽者ですって。
貴方から彼女に真実の全てを教えてあげたらどうです?」
今まで以上に高らかに笑うベルゼバブに、今度は智子が不快さを顕にして睨み返す。
「あらあら、怖い顔ですね。確かに何も知らない貴方がそう思うのは
無理ないでしょうけど、この子は本当に弥勒菩薩を守護神に持つ十天闘神なのですよ。」
「見え透いた嘘を。そいつはゴッドサイダーでさえないのでしょう?
ゴッダサイダーにとって毒である瘴気を受けて逆に傷を治したしね。」
「ホホホ、面白いこと言うのですね。瘴気を自らの力に変えるゴッドサイダーが
いることを貴方が一番良く知っていると思ったのですが?」
『まさか、彼女も鬼哭一族なの?』
「そうそう、私が来る前に色々喋られたら厄介なので、
貴方の記憶を少し奪わせて頂いたのですが、いい加減返しますね。」
ベルゼバブはそう言って智子に向けて人差し指を向けると、光弾が智子の額に突き刺さる。
「はぅぅ!」
その光は智子を傷つけるものではなかったが、智子が先ほど思い出そうとしても、
思い出せなかった記憶が頭の中を満たしていく。
五芒星形により霊輝が魔王子として覚醒させられそうになるのを阻止するために、
身の投げ出し瀕死の重傷を負ったこと、
そして、微かな意識の中、おぞましい悪魔の胃袋に入れられて移送され、
何の手当てもなく、この牢獄に閉じ込まれたこと。
『そうだわ。あれだけの傷を負っていたのに、どうして私は生きているの?』
「ホホホホ、その様子だと、無事思い出して貰えたみたいですね。
ついでにもう一つ教えて差し上げると、流璃子は貴方の命の恩人なのですよ。
この子、戦闘は本当に大したこと無いのだけど、
回復においては、この私も舌を巻くほどでしてね。
手をかざせば傷だけでなくどんな難病も即座に治し、同じ空間にいるだけでも
ゆっくりとはいえ貴方のように虫の息だった者も救うことが出来るのですよ。」
ベルゼバブに言われて気づくのだが、深い昏睡の中で智子は
確かに何者かの温かいオーラにより癒されていたことを感じていた。
「貴方も、すべての生きとして生けるものを救う弥勒菩薩の化身と呼ばれる者に
これ程相応しい能力はないと思いませんか?」
単純な戦闘なら智子は流璃子に負ける気はしないが、
彼女が持つ能力は自分にはないものであり、
また、その能力の方が弥勒菩薩としての役割に適していると認めざるを得なかった。
そして、性質は異なるが、彼女の方がゴッドサイダーとしての力も上かもしれなかった。
「でも、弥勒菩薩を守護神に持つ十天闘神は彼女でなく私よ。」
それは智子が次々に突きつけれた数々の事実と疑問に揺らぎ始めている
自分の存在を保つために搾り出したなけなしの言葉だった。
「ホホホホ、別に私は貴方がそうでないとは一言も言ってないですよ。
貴方もこの子も弥勒菩薩を守護神に持つ十天闘神なのですよ。」
状況を飲み込めず唖然とする智子に、ベルゼバブは愉しそうに話を続ける。
「その様子だと、尊越は全部話している訳ではないようですね。
まあ、あの男もあまり知られすぎては都合が悪いでしょうからね。
今、私や貴方がいるこの世界とは違う宇宙で、悪魔と神、そして愚かな人類、
全てを巻き込んだハルマゲドンをも超える大きな戦いがありましてね。」
『この悪魔が言っている大きな戦いというのが、以前、尊越様から霊輝を見張る任を
仰せつかった時に話されていた別次元の戦いなのね。
そして、その戦いのキーマンだった者の魂を持つ生まれ変わりが霊輝だと。』
「その戦いを影で操り、次元そのものを支配していた永劫回帰惑星を滅ぼしたことにより、
それまであった宇宙が全てリセットされ、新たな世界に創り変えられていくのですが、
その際、ケルベロスの顎に堕ちた私も復活を果たしましてね。
そこで、この高貴な私をそんな目に合わせたこの子にお礼をするため、
物質や命が新たな世界に移行する寸前に、
この流璃子の魂を半分程奪い取っておいたのです。
その結果、不幸にも流璃子は転生を果たせず、しかも、その奪われた魂も
前の世界で採取した流璃子の卵子をホムクルス溶液で培養した肉体に入れられ、
私に飼われているんですよ。
そして、流璃子が転生できなかったことにより、貴方は彼女がなる筈だった
弥勒菩薩を守護神に持つ十天闘神という存在を手にしたということです。」
ベルゼバブの語る真実に、智子は激しい動揺と驚愕を見せる。
『そ、そんな... それじゃあ...』
伝説として語られる別次元の戦いにおいて、数々の巨悪を滅した神と悪魔の子、鬼哭霊気。
そして、その鬼哭霊気を誰よりも愛し愛され互いに支え助け合ってきた鬼哭一族の巫女。
『それが、彼女だというの...?』
自分の存在の全てを揺るがされるような不安が智子を恐怖に落としていく。
「そう言えば、彼女がいないお陰で手にしたのは十天闘神だけでなかったわね。
この子が今も思い出を引きずりながら愛し続ける
レイキさんの妻の座も得れたのですよね。」
ベルゼバブの言葉に今度は智子でなく、流璃子が驚きを顕にしてベルゼバブを凝視し、
「あの女は貴方がして貰えなかったことをレイキさんに沢山して貰っているんですよ。」
嫉妬や喪失感など様々な感情がない交ぜになった哀しそうな顔を智子に向ける。
「ホホホホ、悔しいでしょう。流璃子。その気持ちを思う存分彼女にぶつけて上げなさい。」
ベルゼバブは流璃子を支える腕の位置を腰に移し、
流璃子の乳房が顔の横にくるよう持ち上げて、その愛らしい乳首を口に含んだ。
「お止め下さい! ベルゼバブ様! これ以上注がないで下さい!
これ以上されたら、私が...! 私で...!」
鬼哭一族の流璃子でも御しきれない大量の瘴気が乳首から全身に流れ込み、
苦しそうに体を捻らせる。
「もうお許し下さい。このままでは、また、あのもう1人の私が目覚めてしまう。
アゥゥ! ダメ! もう抑え切れない... イヤァァァァァァ!」
許容量を超えた瘴気が黒い天衣となって体の外に放出され、
そして、次の瞬間には、流璃子の体の各所に纏われ、違う物質へと変換していく。
縁にレースのフリルが付いた手袋、エナメルのハイヒール、
ストッキング、ガーターベルト、そして、乳房を覆う部分の無いブラジャー。
黒一色で揃えられた装飾品は、女性の大切な部分を何も隠していなかったが、
見っとも無いという印象は全くなく、逆に気品すらも醸し出し、
完璧と言える流璃子の肢体の美しさを際立たせるには十分過ぎる程の役目を果たしていた。
「おはようございます。姫。」
ベルゼバブにそう呼ばれ床に下ろされた流璃子の表情は、
先程までの全ての者を穏やかにさせる可憐さは無くなり、
全ての者を魅了する妖艶さに満ち、湧き上がる瘴気によって長い髪を揺らめかせながら、
鋭い眼光で智子を見据え、ゆっくりと近づいていくのだった。
「この私から霊気を奪った罰をしっかりと受けて貰うわよ。」

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