ノンタソさん

題名:「パズズ教団に潜む淫獣」

中編

第五章 それぞれの思い
  鬼哭寺が焼かれ、ゴッドサイダーたちはある場所に身を隠していた。
「私も行きます!流璃子さんを助けたいだけなんです!」
「やめなさいよ、危ないから。いくら紗耶香が空手やってたからって相手は人間じゃない
かもしれないのよ。」
「綾乃だって流璃子さんを助け出したいでしょ!私はここで待ってるだけなんてできない
よ。」
  紗耶香は行仁に詰め寄る。
「何もできない小娘の癖に、口だけは一人前の口を聞きよる。大体一度はわれわれを裏切
った流璃子だぞ。どうせもう仲間を売ってるに違いない。」
「なんてことを言うのよ!流璃子さんを助け出す気はないの!」
「誰もそんなこと言ってないじゃない。もう少し冷静にならないと。そんなんじゃ阿太羅
さんたちだって危なくなるかもしれないのよ。」
「そうだ、落ち着くんだ。まずは冷静に作戦を立てることが先決だ。」
  法粛はそう言うと、二人を別の部屋へ行かせた。そして行仁、阿太羅、法粛に加え数人
のラマ寺院の僧侶で作戦を立て始めた。

  流璃子を尊敬する二人の少女、麻生紗耶香と牧村綾乃。二人は幼なじみである。共に私
立女子高に通う17歳。紗耶香は雑誌の人気モデルでもある。活発な性格で、空手の経験も
あり、現在はバスケット部のエースである。一方綾乃は、おとなしくやさしい家庭的な性
格である。心配性であり、いつも紗耶香のことを心配している。裕福な家庭の生まれで気
品があり教養も高い。両親は紗耶香の両親がいた組織の援助もしていて、一人になった紗
耶香を引き取ったりもした。紗耶香と綾乃はお互いに思いやり、支えあった。どんなこと
があっても、二人の固い絆は変わらなかった。
  二人が流璃子と出会ったのは二年前のこと。紗耶香の両親がパズズ教団に殺害された後
である。フリーライターであった紗耶香の父は、パズズ教団に対して疑念を抱いていた。
それはやがて夫婦そろって抵抗運動に参加することとなる。二人は組織のリーダー的な役
割を担うようになり、そして教団に目をつけられていた。教団の真の目的を探ろうと取材
をしていたときであった。そのことに気づいた教団は、夫婦ごと殺害した。一人残された
紗耶香は、綾乃の呼びかけで生活を共にすることにした。事件を知った流璃子は、紗耶香
の元へと向かった。誰も悲しませたくないと言う流璃子の思いは、紗耶香にも届いた。や
がて私生活でも行動を共にするようになり、絆は深まっていった。流璃子は、二人を妹の
ように思い、そしてまた二人も流璃子を姉のように慕った。

「入るぞ。」
  扉を開け法粛は入ってきた。
「紗耶香、一緒に行くぞ!」
「ホントですか?!」
「本当だ。ただしこれを装備するんだ。」
  攻守に優れたレガース、ひじから下を守るガードに優れた籠手、破壊力を増すグローブ、
そして軽量で薄手のプロテクター、すべてラマ寺院で作られた聖なる力が宿ったものであ
る。
「ただし無理は禁物だ。相手の力は並みのものではないからな。」
  すべてを装着した紗耶香は、今すぐにでも飛び出しそうな様子だった。
「だめ!そんな・・あぶないよ。もし紗耶香に何かあったら私・・・」
  綾乃は今にも泣き出しそうであった。
「心配するな。そのために俺たちがいるんだ。」
  法粛は綾乃にそう言った。しかし本音は少しでも戦力がほしいと言うものだった。ただ
紗耶香を傷つかせることは何があっても避けたいとも思っていた。
「心配しないで、綾乃。必ず流璃子さんを助け出して帰ってくるから。」
  紗耶香は綾乃を抱きしめながら、そう誓った。自らを押しつぶすような恐怖を綾乃に悟
られるわけにはいかなかった。
「絶対だよ。きっと流璃子さんを助け出して・・・みんなで・・・みんなで帰ってきてね。」
  綾乃は涙をこらえることができなかった。流璃子が危険な目にあっているにもかかわら
ず何もできずに、さらには紗耶香まで危険にさらすことが悔しかった。自分に何かができ
れば・・・そういった思いが募るだけであった。
「そろそろ出発するぞ。」
「じゃ、行って来るからね。」
  紗耶香たちは出発した。
「きっと大丈夫だ、必ずうまくいく。」
  そっと現れた阿太羅は綾乃の方に手をかけながら言った。
「阿太羅さんも、これから出発するんでしょ。気をつけてくださいね。絶対に帰ってきて
くださいね。」
  綾乃の言葉に、阿太羅は無言で頷いた。

とある山中、霊気は気配に気づいた。
「遅かったな。」
「こちらもなかなか忙しいものでね。ところで用とは何のことかな。」
「パズズ教団壊滅のために手を組む・・・それでは不服かな?」
「流璃子様の救出も含めてではないのかな。」
  霊気に呼び出された男・・・その男とはラスネール伯爵であった。
「流璃子様が囚われたのはあなたのミスではないのかね?あの状況では仕方のなかったこ
とかも知れぬが・・・。」
「それでどうするのか?」
「本来考えられないことですが、サタン様の復活のためには手段は選んでられない・・・
と言ったところですか。」
「そうか、それなら話が早い。どういった手を打つつもりなのか?」
「まずは教団幹部・烏慶に接触することです。彼は元々デビルサイダー。記憶を失ったた
めに教団にいるだけのことです。彼の記憶を呼び戻すことができれば戦況は有利になるで
しょう。」
「そうか・・・まずはそうするか。」
  霊気たちは、戦いに向けての作戦を練り始めた。

  それぞれの思いが交錯しながら、流璃子救出、そして教団壊滅にむけて動きだした。こ
れからどのような運命が待ち受けているかを、誰も知ることはできない。それが悪夢だと
は誰も考えはしないだろう。

第六章 潜入・・・そして・・・
「ここからだな。」
  法粛は様々な情報から緻密な作戦を立てていた。ガードの固い教団本部にもかかわらず、
潜入に成功した。
  メンバーは法粛、紗耶香、亜漣、具漣の四人である。亜漣と具漣はラマ寺院の僧侶であ
り、二人は体術と気功術を得意としている。流璃子に体術を教えたのはこの二人である。
「ゆっくり進んでも親衛隊に見つかる数が多いだけだ。どうせ見つかるならすばやく目的
地を目指すぞ。そうして無駄な戦闘を避けるぞ。」
  法粛の予想通り、教団内部は親衛隊にあふれかえっていた。すばやく行動しても、次か
ら次に親衛隊が現れた。
「亜漣と具漣は道を切り開け。紗耶香は俺と一緒に二人をサポートしろ。」
  具体的な規則もなくただ向かってくるだけの親衛隊とは対照的に、法粛の的確な指示は
戦況を優位に進めた。
  法粛たちは地下につながる階段を発見した。その時だった。
「ここから先は行かせん!」
  瘴気のよろいを着たフォラスが駆け上がってきた。
「フォラス・・・てめえ生きていやがったのか。」
「けっ、法粛か。お前らなんぞ相手ではない!!」
  フォラスは瘴気弾を放った。
「ぐあああぁぁぁ・・・」
  最前線の亜漣の足を直撃した。
「くくく・・・まだまだこれからだぞ。ヒャヒャヒャヒャ・・・・」
  地面に拳を撃ちつけた。
「いったい何のまじないなんだ。」
  具漣が跳びかかったときだった。
「ぐええええぇぇぇぇ・・・」
  地面から衝撃波が放たれ、具漣は弾き飛ばされた。
「大丈夫ですか、具漣さん?」
  紗耶香は具漣に駆け寄る。
「やさしいねえ、お嬢ちゃん。でも人の心配をしてる余裕はないのだよ。」
  紗耶香の背後の地面にひびが入った。
「あぶない!!」
「きゃあーーーー・・・・・ぅぅぅぅ・・・・」
  衝撃波を受け弾き飛ばされた紗耶香は、壁にうちつけられた。
「あいつは普通の人間ではないのか!」
  フォラスは驚きを隠せなかった。
「くらえっ!!!」
  法粛は背後から後頭部に肘打ちを放った。
「ぐげぇぇぇぇーーー」
  後頭部を押さえたフォラスがのたうちまわる。
「大丈夫か、紗耶香。」
「ええ、プロテクターのおかげでどうにか。それよりも二人は・・・」
「俺たちなら大丈夫だ。これでもラマ寺院で修行した身だからな。」
  落ち着きを取り戻したフォラスは、激しく怒りながら言った。
「貴様ら・・・・許さんぞぉぉぉぉぉーーーーー!!くらえ!!瘴気亜空弾!!!!!」
  激しい衝撃波が四人を襲う。
「跳び上がるんだ!」
  紗耶香を抱えたまま跳びあがった法粛の指示で、四人は衝撃波を逃れた。着地すると同
時に反撃を開始する。
「亜漣、具漣、行くぞ!光刃旋回爆(フラッシュ・ナイフ・ドリラー)!」
  二人は激しく回転しながらフォラスに襲いかかる。
「うぎゃーーー」
フォラスの左腕を切断した。
「まだまだ!」
  紗耶香は滑り込みながら激痛に叫ぶフォラスの足を蹴り上げ転倒させた。
「くらえ!降魔義手円月輪!!」
  法粛は義手を取り外すと、回転させながら投げつけた。義手は激しく回転しながらフォ
ラスの首を切り落とした。
「ひっ・・・・」
  その様子を見た紗耶香は顔面蒼白でおびえていた。
「見るなっ。」
  遅いとわかりながらも法粛は紗耶香の目を隠した。
「亜漣、具漣、とどめを刺せ。」
  二人はフォラスの心臓を破壊した。
「紗耶香、すまない。でもこれが現実だ。あれが教団の正体なんだ。」
「・・・わかりました。」
  紗耶香の顔は、血色を取り戻しつつあった。
「さあ、先に進もう。」
  亜漣の声に、四人は階段を駆け下りた。

「うげぇぇぇぇぇーーーー」
  先頭で階段を駆け下りた亜漣の叫び声が聞こえた。法粛は急いで駆け下りた先には、心
臓を打ち抜かれた亜漣の姿があった。
「ま・・まさか・・・・死んでいる・・・」
  三人は驚きを隠せなかった。
「そんなところで何をしている。」
  壁際から声がした。
「と・・・得尊さん!生きていたのですか!」
  具漣は得尊に気づいた。
「だめだ!近寄るな!」
  法粛の声は具漣には届かなかった。得尊は具漣の頭をつかむと。力任せに引きちぎった。
「な・・・何が起こったの・・・。」
  紗耶香は地面に地面にへたり込んだまま、この状況を理解できずにいた。
「得尊・・・おまえ・・・どういうつもりだ。」
「貴様らに見殺しにされた復讐のつもりだがな。それにリリス様に仲間になれば力も与え
てくれると言われるとなあ。あの世にいたって仕方がないじゃないか。」
  得尊の体は以前よりもはるかに大きく、3メートルに届くかのような巨体だった。
「それじゃ、お前を殺すとするか。」
「得尊・・絶対に許さん!」
  二人の戦いが始まった。その戦いは激しく、熾烈を極めた。しかし徐々に得尊の優勢と
なっていく。
「俺は強い!強すぎる!もはやお前では相手にならんぞ!」
「しまっ・・・ぐあぁぁぁぁぁ・・・」
  得尊の真空波が法粛の左大腿部を切り裂いた。
「死にやがれ!」
  倒れた法粛とどめを刺そうとしたときだった。
「いっけぇー」
  紗耶香の跳び蹴りが得尊の横っ面に直撃し、得尊は倒れこんだ。
「このガキが!」
  襲い掛かる得尊を、まるで闘牛士のように華麗にかわしながら的確に攻撃を加えた。何
度もローキックを入れられた得尊は、後ろによろめいた。
「法粛さん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ・・・」
  法粛は、得尊を倒す方法を考えられなかった。。
「紗耶香、一度逃げるぞ!」
「そんな・・・もう少しなんですよ!流璃子さんを助けないで帰るなんて・・・」
「ベチャベチャ話してんじゃねー!」
  得尊が再び襲い掛かる。二人は分散したが、得尊の狙いは明らかに紗耶香だった。何度
か攻撃をかわすと、再び跳び蹴りで頭を狙った。
「隙あり!」
「かかったな。」
  跳び蹴りを撃とうとした紗耶香を捕まえると、そのまま地面にたたきつけた。
「うぐっ・・・ゴホゴホッ」
  背中からたたきつけられたため一瞬呼吸が止まり、咳き込んだ。
「手間取らせやがって。」
  うずくまる紗耶香を何度か踏みつけ、蹴り飛ばすと、今度は胸倉をつかんで持ち上げて
数発腹を殴った。
「うげっ」「うあっ」げぼっ」「ぐぅぅ・・・」
  激痛にうめき声を上げ、ぐったりとしている。
「普通の人間みたいだから、何もつけてない顔は手加減してやるよ」
「ひぃっ」「あうっ」「いぎっ」「ぶえっ」
  軽い平手打ちで紗耶香を嬲る。
「くらえ!」
  突如として法粛が義手を飛ばした。
「ぐぎゃぁぁぁ・・・・・」
  得尊は紗耶香を盾代わりに使い、義手を防いだ。盾にされた紗耶香は、衝撃に四肢をピ
ンと伸ばしたが、すぐに全身の力を失いぐったりしてしまった。
「もはやこれまでだな、法粛。」
  得尊の後ろから烏慶が現れた。
「この娘は・・・ほう、麻生の娘か。フフフ、使えそうだな。」
  法粛は、この状況を打破する方法が一つだけあった。
「やむをえん・・・」
  法粛は目くらましをすると、その場から姿を消した。
「あのやろう!捕まえてやる!」
「やめておけ。あの傷ではそう簡単に回復はしまい。それより娘をリリス様の元へ連れて
行くんだ。」
  得尊は紗耶香を肩に担ぎなおすと、烏慶とともにリリスの元に向かった。
(これから私、どうなるんだろ・・・綾乃、流璃子さんを助けられなかったよ・・・流璃
子さん・・・あたしも捕まっちゃった・・・)
  薄れ行く意識の中で、紗耶香はようやく状況を理解することができた。しかしこれから
自分にいったい何が起こるのか、そのことを考えるほどの気力はもう残っていなかった。

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