題名:「ADVENT」

第2話「白き渚の少女」

 

「消息は判ったのですかっ!」
豪奢なベッドに横たわる女の憤怒に満ちた声。周囲の男たちは震え上がる。
「て、手を尽くして探させておりますが、い、いまだ連絡はなく......」
「ええいっ、そろいも揃って一体何をしているのですかっ!小娘一人見つけられぬ
とは!」
怒声が部屋を震わす。男たちは立っていることすらできず、全員がひれ伏す。
部屋に二人の人影が入ってくる。若い神父と、白衣の医師。
「ベルゼバブ様......お体に障ります。どうか気をお静めください。」
若い神父の心配そうな声に、ようやく女が自分を取り戻す。
「おお......フォラスですか。はしたないところを見せてしまいましたね。」
「いえ...お気遣いなく。お加減はいかがですか?」
女は強いて笑顔を作り、かろうじていつもの余裕を取り戻す。
「ほっほっほ......この私の命に関わるような傷ではありませんよ。今も起きて退院
しようかと思っていたところです。」
白衣の医師が近づいてきて、気障たらしい声を出す。
「なりませんぞ。3,4日は絶対安静にしていただきませんと、命の保障はしかね
ますぞ。」
「心配性ですねえ、パラケルスス先生。ところで......小娘達はどうしました。」
「全ての力を使い切っておりましたてな......皆死にました。」
女のこめかみに太い血管が浮き出る。
「許さぬ......許さぬぞ!高貴な私にこれほどの傷をつけながら......安らかな死な
ど与えぬぞっ!!」
「ベ、ベルゼバブ様......どうか、どうか安静に......!」
慌てる医師に、女が声高に命じる。
「パラケルスス!いかなる手段を弄してでも、小娘達を甦らせなさいっ!必ず
っ!」
一瞬、医師の眼鏡がキラッと光る。
「いかなる手段をも......使って構わぬので、ございますね?」
妖しい笑みを浮かべた医師の表情を見た女は、再び平静を取り戻す。
「ほっほっほっ。知っていますよ、先生の実験狂いは。構いません。あらゆる実験
を許します。必ず小娘達を甦らせなさい。」
「ははっ、ベルゼバブ様。前の実験成果を元に、ゴッドサイダーにやってみたいこ
とがございましてな......それでは小生はこれよりすぐ......」
興奮を抑えることができず、パラケルススはいそいそと部屋を出て行く。
「......よろしいのですか?」
やや心配そうな若い神父に、媚を含んだ笑顔を見せる。
「ほっほっほ...いいのですよ。それよりフォラス。ブロケル...流璃子は何としても
捕らえねばなりません。あなたが指揮を執って捜索してくれますね?」
「ははっ。ご命令とあらば無論。」
「おお、愛しい人。"鬼哭忍軍"の使用を許可します。存分に手腕を振るい、手柄を
お立てなさいな。」
「ベルゼバブ様の切り札を......。ベルゼバブ様、貴女様への愛に誓って必ずや。」
ほっほっほっほっほっ......すっかり上機嫌になった女の哄笑が部屋中に響き渡っ
た。

フォラスが人気の無い広場に立つ。中央の壇上で高らかに命じる。
「ベルゼバブ様に代わって命ずる。聞けい、鬼哭忍軍!もったいなくもベルゼバブ
様の暖かいご配慮により地獄に迎えられし、貴様ら一族に連なる流璃子が、ことも
あろうにゴッドサイダーと手を結び、ベルゼバブ様に手傷を負わせて逃走した!こ
れは許されない裏切りであるばかりでなく、貴様達一族全体の不祥事でもある。即
刻流璃子を捕縛、連れ帰れ!」
ざわっ。風の応え。急速に去っていく気配で、漸く何者かが存在したことが感じら
れた。

頭が忍たちに命じる。
「帝国領内に居れば既に発見されているはず......おそらく辺境地帯まで逃れたの
であろう。早期発見を厳命された以上、全員散開して捜索する。」
「御意!」
頭が次々と配下に指示を下す。
「......慎悟は庚、眞耶子は兌、以上。散!」
一斉に影が散る。

「マーヤ。一緒に行こう。」
慎悟と呼ばれた若い忍者が、眞耶子と呼ばれたくの一に声を掛け、併走する。
「その呼び方はやめて......私は一人で大丈夫よ。」
無表情のくの一が冷たい声で答える。
「そう言うな。どうせ似たような方向なんだ......。しかし流璃子って、巫女の血筋
の...だろ。まさか彼女まで地獄に来ていたとはな。」
「......地獄を選択しておきながら、ゴッドサイダーなどと手を組むとは......許せな
いわ。」
眞耶子の声が熱を帯びる。冷たい仮面の下に憤怒のマグマが渦巻く。
「マーヤ......君はまだ......」
「......慎悟、忘れたの?私とあなたの運命を狂わせたゴッドサイダーを......」
「......忘れは、しない......」
(......マーヤ。君の心の傷は今も癒えることはなく、血を流し続けているのか......
俺には、君を救うことができないのか......)

3年前。

草叢の中から凶悪な瞳が覗く。
「おおっ、今日は二人だけだ!」
「チャンスだぜ。どうする、青沼さん...?」
年嵩の優男の少年が、ニヒルな表情で背後に控えるリーダー格の大柄な少年を振り
仰ぎ、にやりと笑う。
「やるか......ようし、散れっ。俺の合図で一斉にかかるぞ。」
邪な囁きは、だが周囲の樹木に隠されて届かない。

秋の山中。深い森の中、ぽっかりと空の見える草地で、少年と少女は、果実を摘ん
でいた。
「二人だけで来て、本当に良かったのかしら......。」
少女が心配そうな声で、周囲を窺う。
ずっと誘い続け、今日ようやく獲得した二人きりの時間。有頂天の少年は、幸せに
酔い続けている。
「大丈夫、大丈夫。危ないことなんかないよ。僕達ももう大人さ。僕がマーヤを護
るから。」
明るく答えて胸を張る。
「もうっ、慎悟ったら。」
幼さの残る虚勢に思わず少女が微笑む。

次の瞬間。突如周囲から降って湧いたように現れた5、6人の少年達が一斉に二人
に襲いかかる。大柄な少年の不意の一撃に少年は殴り倒され、素早く大木に縛り付
けられる。
悲鳴を上げた少女は、少年たちに柔らかな草の褥に押し倒され、手足を押さえつけ
られる。
抵抗する少女の服が裂け音が鋭く耳を衝く。露わにされた胸が、ほの暗い闇の中の
白い花のように咲く。飢えた野獣のような少年たちの瞳が吸い寄せられる。
「や、やめろっ!」
縛られた少年が意識を取り戻して絶叫する。が、たちまち数人が薪や石で殴りかか
り、悶絶させる。

「けっ!汚らわしい呪われた一族が。殺されないだけありがたく思え。」
大柄な少年-青沼静磨が毒づき、すぐに身体を広げられた少女の方を振り返る。
初めて見た時から憧れていた。いつも大人たちと一緒にいるので、遠くから眺める
しかなかった美貌がそこにある。黒目がちのつぶらな瞳一杯にあふれんばかりの涙
を湛えて。
(......よいか、静磨。あの連中に近づいてはならん......)
少年が住む村の長老の声が胸に甦る。
(おぬしは栄えあるゴッドサイダー。人々を悪魔から守り、正義のために戦う聖な
る戦士。村の誇りじゃ。あの一族は神にも悪魔にも見捨てられた哀れな存在......。
打ち捨てておくのじゃ。)
幼くして示した数々の奇瑞により、少年は周囲からちやほやされ、甘やかされ、崇
められて育ってきた。賛美、自惚れ、阿諛、追従。それらはいつの間にか少年を夜
郎自大に増長させていった。
少年は村の少年達のリーダーとなり、連日野山を駆け巡っていた。
そしてある日、偶然その少女を見てしまったのだ。一目惚れだった。

(俺はゴッドサイダーだ。汚れた一族は俺の手で粛正すべきなんだ。これは正義の
戦いだ。)
勝手な理屈と邪な肉の欲望が、わずかに残った良心を捻じ伏せる。
「......俺が呪いを払ってやる。ありがたく思いな。」
少年は、手下たちに四肢を抑えられた少女をまじまじと見つめながら、熱病にかか
ったように震える唇で訴えた。彼には恋の告白のつもりだった。
華奢な身体はまだ少女そのものだったが、胸や腰には女に成熟していく気配を色濃
く見せていた。
少女の恐怖にこわばった表情。涙を浮かべて見開かれた瞳。どうしてこんなにも美
しいのか。

少女の衣服に手をかける。乱暴に引き裂く。下着姿になった少女に、周囲から淫ら
な視線が絡みつく。
「す、すげえ......。」
「白いなあ。綺麗だなあ。村にはこんな娘いないぜ。」
少年たちの熱く淫らな視線に曝され、少女が上気した頬を激しく振っていやいやを
する。口は掌で覆われて、くぐもった声しか出ない。
「ようし、皆、よく見とけよ。」
そういいながら少年は少女の下着をも剥いでいく。目が欲望にぎらつく。
少女の白い肌。思いもかけぬ豊かな胸。伸びやかな脚。優しい曲線だけで描かれた
輪郭に包まれた裸体。
見つめる少年はもう欲望を抑えることができなかった。
「しっかり押さえとけっ!」
大柄な身体が、少女に荒々しく覆いかぶさっていく。荒い息を吐きながら、唇が、
舌が、がつがつと清らかな首筋を、うなじ、頬を漁る。両手が少女の全身を這う。
少女の身体が震える。我が身に起きた信じられない事態に、大きく見開かれたつぶ
らな瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「!...や、やめろ、貴様らっ......マーヤッ!マーヤッ!」
弱弱しく叫ぶ縛られた慎悟。傍にいた年嵩の少年から恐るべき威力の一撃を受け、
呻き声だけになる。さらに、凄まじい打撃を頭に受け、気を失う。

「執金剛神の化身・青沼静磨が呪いを清めてやる。あ、ありがたく頂戴しなっ!」
いっぱしを気取ってはいたが、経験は全くなかった。少女の両膝を抱えると、反り
返るように屹立した分身を、双脚の狭間に突き入れようとする。何度も失敗する。
が、遂に少女の清らかな花弁に凶器を押し付けることに成功する。身に迫る危機。
少女の最後の抵抗。四肢に精一杯の力がこもる。喉の奥から悲鳴が漏れる。が、少
年達の凶悪な拘束はびくともしなかった。
青沼は、焦りとほとばしる欲情から、思いやりのかけらもなく、湿り気のない少女
の幼い花園を一気に貫く。

突然の激痛。少女は華奢な背を大きく仰け反らせ、苦悶の声を漏らす。青沼もまた
強引過ぎる挿入に苦痛を感じる。
鮮血が滴る。それが潤滑油の役目を果たし、ようやく動けるようになった少年は、
腰を激しく使い始める。初めての女体への侵入に、感極まった少年は、いくらもた
たないうちに、あっけなく頂上に達してしまう。
「う、あっ、ああっ......う、うわあああッ......!」
あえぎ声とともに少女の清らかな胎内に腐った欲望をしたたかに放つ。
奪われた純潔。胎内に注がれる熱い粘液の感触。少女は、昨日までの日々の輝きが
二度と戻らないことを知った。ぎゅっと堅く目を閉じる。それでも涙が止まらない。

青沼は、少女の身体にがっくりと覆い被さったまま、しばし初めての射出の余韻に
呆然としていたが、やがて名残惜しそうに柔らかい体から身を離した。
身体中を駆け巡っていた欲望は去り、大事な物を壊してしまった取り返しのつかな
い後悔の念が押し寄せてくる。

「おいっ、安!お前もやれよっ」
罪の意識を追い払うように、参謀格の少年を呼ぶ。慎悟をいたぶっていた年嵩の少
年-安生竜が、にやりと笑って、力なくぐったりと横たわった少女に近づいていく。
静かに寄り添うように横たわって身体を密着させると、少女の乳房を柔らかく捏ね
回し、可憐な乳嘴を弄ぶ。首筋から始めて、体中に口づけていく。手馴れた巧みな
物腰に、周囲の少年たちが驚愕する。少女は呼吸が弾んでしまうのを抑えることが
できない。
その声に、青沼は再び硬度を増していくのを抑えられない。
若い欲望に捧げられた美しい生贄。儀式はまだ始まったばかりだった......。

「ここで別れましょう。私が必ず流璃子を捕らえるわ。」
眞耶子の抑揚のない声に慎悟は我に返る。
「......な、なあ。一緒に行動しないか。その方が流璃子を捕らえやすいと思うんだ
......」
「頭の命令よ......私は一人で大丈夫。」
冷たい声を放ち、方向を変えて走り去っていく眞耶子。慎悟は立ちつくして見送る
しかなかった。

襤褸に身を隠した流璃子は、街道のような大きな道を西に進んでいた。どれほど歩
いたことだろう。ここまで、無数の、様々な姿の奇怪な住民や生物達に遭遇してき
たが、鬼哭一族の隠形術により、無事にここまでたどり着いた。不思議に、西に進
むにつれて生き物の数が次第に減ってきたことも幸いした。
微かに潮の匂いがする。大きな丘を越えると、眼下に海が広がっていた。白い砂の
渚がどこまでも続いている。海は、暗い藍色に広がり、水平線を形作っている。生
き物の動く影はどこにも見つからない。
渚の先に、奇怪な建築物が見える。蜃気楼のようにゆらめいていて、形は定かでは
ない。陽炎のせいか、柔らかそうに見えるシルエット。見つめる流璃子に何かの力
の気配が伝わってくる。
(お姉様の言ってらした大物のデビルサイダーはあそこかしら......)
髪をなびかせて立ち尽くす流璃子を、眞耶子の氷の瞳が捉えていた。
(......見つけた。ゴッドサイダーと結託した流璃子......許さない......)

安生は眞耶子の体に覆いかぶさり、執拗かつ丁寧な愛撫を加え続けていた。青沼と
は違い、少女の扱いには余裕が見て取れる。残酷な優しさ。
「へっへっへっ...伊達に村の後家の相手を勤めているわけじゃないぜ。」
ニヒルな雰囲気を持つ安は、優男の顔を歪めるようにして笑うと、右腕で少女の幼
さの残る乳房を揉みながら、右の乳嘴に口付ける。一瞬、少女の体が震える。
「女ってのはなあ......楽器と同じよ。いい音で鳴かせるには優しく扱ってやらなき
ゃな......こういう風によ......」
周囲を囲み、興奮に満ちながらも真剣な面持ちで見つめる少年たちに、長々と能書
きを垂れながら、安生は少女をゆっくりと辱めていく。
左手が腰から下腹部に降りていき、痛みの残る花弁に触れる。びくっ、と少女の体
が硬直する。
「大丈夫。優しくしてやるって......」
含み笑いをしながら、吐息とともに甘く耳に囁きかける。思わず少女の幼い表情に
情感が漲る。頬が赤らんでいく。
やがて安生は少女の唇を盗み取りにかかる。青沼が興奮のあまり手をつけていなか
ったのを見逃していなかった。それに気付き、青沼が地団駄を踏む。
(......し、しまった...。畜生、安の野郎......!)
必死に唇を閉ざす少女。だが、安生の舌は焦ることなく少女の唇を静かになぞり、
ゆっくりと侵入の機会を窺っている。右手が弄ぶ乳房は熱を持ち始め、乳嘴が硬く
起立し始めている。下肢で優しく蠢く左手は、少女の真珠を見つけ出し、包皮の上
から刺激を加え始める。
「んあっ......」
遂に、鼻のみでの呼吸に困難を感じた少女が、切なげなため息を漏らす。その瞬間
を逃さず、安生の舌が美しく並んだ歯列をかいくぐって内部に侵入していく。安生
の舌は驚くほど長く伸び、少女の可憐な舌を求め、清らかな口腔を縦横無尽に躍る。

唇、乳房、花弁。三箇所から同時に加えられる甘い刺激に、少女の意識が朦朧とな
っていく。安生が少女の耳に口付け、囁く。
「ほうら、濡れてきた......。気持ちいいだろう?」
耳の穴深く侵入してくる安生の舌に、少女が呻き声を上げる。か細い首が仰け反り、
美しく長い黒髪が乱れる。安生は優しく少女の髪をかきなでてやり、再び唇を重ね
る。無抵抗となった少女の口中に、静かに唾液を注いでいく。安生の唾液に満たさ
れた少女の口腔。逃げ場を失った少女は、反射的に喉を鳴らして飲んでしまう。
「んんっ...こくっ...ん...こくっ...」
可愛い喉の動きを見つめ、安生の瞳に淫靡な征服の喜びが燃え上がる。

青沼は、嫉妬に苛まれていた。
(...くそっ、あんなやり方があるのか。早く代わりやがれ、安!......今度こそたっ
ぷりと......!)
だが、自分から命じた以上、ことが終わるまで待つしかなかった。
「......けっ!野郎でもいたぶってくるか......」

安生の巧妙な手管に、少女の両脚は少しずつ開き始めていた。可愛いよ、綺麗だよ
という歯の浮くような台詞が絶えず耳に囁きかけられ、少女は半ば催眠状態に陥っ
ていく。いつの間にか、問われるままに自分の名前も告げてしまった気がする。

全身に十分に唇と舌を這わせて少女の身体を堪能した後、安生は少女をうつぶせに
し、腰を高々と持ち上げ、獣の姿勢での挿入を試みる。いつも村の後家がせがむ姿
勢。少女には抵抗する気力も失われている。
「さあ...入るよ...眞耶子。」
優しく囁いて、安生は静かに腰を突き入れる。
再び花園に侵入してきた異物。眞耶子の背中がきゅっと反らされる。両手で身体を
支える。
「んんっ...ああああっ...」
再び痛みが襲いかかる。しかしそれだけではなかった。これまで経験したことのな
い言い知れない感覚が押し寄せてくる。
「あはっ......あああんっ......」
その切なさに喘ぐ眞耶子。両腕が力を失い、かろうじて肘で身体を支える。
「ん...いい...いいよ...眞耶子...」
安生が背後から甘く囁いてくる。両の乳房を捉まれ、揉みしだかれる。
「ああっ...ああん...あっ、あっ...あふっ...」
安生の巧みな腰の動きに自在に身体を揺さぶられながら、眞耶子が声を上げる。そ
れは、悲鳴と呼ぶにはあまりに甘く切ない響きを持っていた。
安生の腰が浅く深く、緩慢に、急速に、右に、左に、奔放に動く。その動きに翻弄
されながら、眞耶子は今までに感じたことの無い強い感覚が迫ってくるのに怯える。
「ああっ...やっ...あんんっ...やあっ...んんんっ...」
激しく首を振り、感覚の接近を拒もうとする。だが、安生の腰の激しい動きに、眞
耶子は肘でも身体を支えられなくなり、横顔を大地に擦り付ける。頬が少年の動き
に合わせて前後する。
「あふッ...やあッ...く、来るッ...いやあッ...な、何かが...来るのッ...あああんッ...」
眞耶子の発する官能の喘ぎに、周囲の少年たちの下半身は痛いほどにしこっていく。
「いいよ、眞耶子...いきそうだ...さあ、眞耶子...一緒にいこう...」
「あはああんッ...あああッ...き、来ちゃうッ...来ちゃうのッ...ああああッ...!」
「ううっ...いくよっ、眞耶子、眞耶子の中にッ...うあああッ!」
「!!......ああああああッ...!」
繋がった二人が同時に背を反らせる。安生の腰が弾け、青臭い白濁の滴りが眞耶子
の胎内に大量に迸っていく。
初めての絶頂を教えられた眞耶子が全身を震わす。
二人は同時に脱力し、草の褥に倒れこんでいく。
ようやくゆっくりと身体を離す安生。代わって、残った少年たちが一斉に眞耶子に
挑みかかっていく。

「......きろよ......おら、さっさと起きろっ!」
顔を強く叩かれ、慎悟は意識を取り戻した。体の自由が利かない。あちこちがひど
く痛む。朦朧とした目の前に、青沼の憎憎しげな顔がある。
「けっけっけ......お前、あの女といちゃつくつもりだったんだろうが......残念だっ
たなあ......先にいただいちまったぜ......けっけっけっ......」
青沼が慎悟を嘲弄する。
「な...なんだとっ...!」
強まった目の光に青沼が狼狽する。
「生意気なんだっ、おらあっ!」
光に包まれた青沼の拳が、慎悟の左頬を力任せに殴り飛ばす。
「ぐはっ......!」
慎悟の切れた唇から鮮血が滴る。
がっくりと首を伏せた慎悟にようやく安心して、再び嘲弄しにかかる。
「けっけっけ......いただいたぜ。確かに処女だったなあ......いい声で鳴いてたぜ。」
呻き声を上げながら、再び慎悟が顔を上げる。
「マーヤを...マーヤを放せ...!」
「あーん?呪われた汚らわしい一族が偉そうじゃねえかよ。」
唾を吐きかける青沼。背後から安生が近づいてくる。
「へっへっへ。何やってんです?青沼さん...」
「お、安。やっと終わったのかよ。」
「楽しませてもらいましたよ。連日の年増相手に嫌気がさしてたところでね。新鮮
な身体に歓びを教えてやりましたよ......へっへっへっへ。」
「けっけっけ......じゃあ、また俺が......」
「今は連中がやってます。一斉に寄ってたかってね。」
「ちっ!......しようがねえなあ......そうだ、けっけっけっけ...!」
生意気な少年を懲らしめる名案に、青沼が会心の笑みを浮かべる。
「安っ!連中をここに連れて来い。こいつの目の前でやらせてやろうぜ。目の薬に
なるだろうぜ。」
「へっへっへ......わかりました。」
安生を見送った青沼が慎悟に振り向き、いやらしい笑みを浮かべて猫なで声を出す。
「面白れえものを見せてやるよ。汚れた呪いを清めてやってるんだぜ......感謝しな
......けっけっけっけっけ。」

両手を取られて、力の無い四肢を引き摺るようにして、眞耶子が連れて来られる。
全裸の眞耶子が少年の前に曝される。下肢に伝う無残な鮮血の筋。そして白い粘液
の描くもう一つの筋。
「マ、マーヤ......!」
「い、嫌っ...見ないでっ!見ないでえっ、慎悟っ!」
涙で濡れた顔を背ける眞耶子。
「けっけっけ......感動の再会のところ申し訳ないが、こっちは快感の再開といこう
ぜっ!」
青沼の声に、奇声を放つ少年達が再び眞耶子を押し倒し、一斉に襲いかかる。両側
から乳房に吸い付く二人の少年。唇を覆う少年。そして、股間に顔を埋める少年。
「や、やめろっ!やめろ、貴様らあっ!」
蒼白な表情で叫ぶ慎悟を小気味よさそうに見つめる青沼と安生。
「けっけっけ...悔しいだろう?憧れの彼女が寝取られちまってよう。」
「へっへっへ......初めてなのに、女の歓びまで教えられちまったからなあ。」

外の人間には関わるな。慎悟も一族の宿命と厳命については常日頃から聞かされて
いた。
(......決して人間たちに危害を加えてはならぬ...我々は兄弟なのじゃからな......)
今わの際の長老の言葉が胸を打つ。
(......こんな状況でも......これでも耐えろというのですか......?長老......!!)
涙に曇る瞳で嬲られる眞耶子を見つめる。だが、眞耶子に変化が生じた時、その目
は怒りに燃えさかり始めた。
「あ...はあんっ...はあっ...」
熱っぽい喘ぎ声。それが漸く解放された眞耶子の唇から発せられていると気付くま
でには時間がかかった。今まで慎悟が聞いたこともない眞耶子の淫らな嬌声。驚愕
のあまり思考が働かなくなる。
唇を離した少年は、眞耶子の火照った耳に何かいやらしい事を囁いている。胸を貪
る二人の少年は、相変わらず両側から眞耶子の乳房に蛭のように吸い付いて離れず、
交互にふいごのような鼻息を立てている。股間を責め続けていた少年は、身体を起
こし、硬く屹立した陽物を眞耶子に擦り付けている。
「あッ...!あああんッ...!」
再び聖なる花園が灼熱の欲望の侵入を受け、眞耶子の体が大きく仰け反る。
唇を占領していた少年も、硬直した己自身を眞耶子の頬に寄せていく。眞耶子は顔
を背けたが、可愛い鼻を摘まれ、思わず開いた可憐な唇に、硬く熱い凶器が押し込
まれていく。

「ん...んふッ...ふううんッ...んんッ...はふッ...」
眞耶子の喉から、苦しげな呻きが漏れる。
執拗に胸や腋を汚していた二人の少年は、眞耶子の華奢な腕を取り、細い指を己自
身の元に導いていく。両手の指が同時に獣欲の化身に触れる。慌てて引こうとする
手をがっちりと捉えられ、無理矢理握らされる。上下へのスライドを強いられる。
やがて、眞耶子の両腕は、自ら二本の男根を優しく握り締め、擦り始めていく。
眞耶子の心は真っ白になり、思考ができなくなる。快感に身も心も狂わされる。下
肢を荒々しく蹂躙され、揺すりたてられながら、同時に口腔を喉奥まで征服される。
二本の細く美しい腕も奉仕を強いられる。肉欲の生贄と化した哀れな奴隷。
やがて、快絶の喚き声とともに、両手の中の二本の熱棒が同時に弾ける。眞耶子の
華奢な身体を、欲望の白いマグマが降りかかり、汚していく。

信じられない光景に、慎悟の憤怒が白熱する。狂気の爆発。
「ぐっ、ぐおおおおおっ...!」
身体を縛める太いロープを引きちぎり、慎悟が立ち上がる。驚きの表情を浮かべる
青沼と安生の顔に、炎をまとった神速の拳が叩き込まれる。青沼が吹っ飛ぶ。安生
の首が嫌な音を立て、ありえない方向に顔を向けさせる。
背後の気配に驚いた少年達が、怒りのオーラに包まれて近寄ってくる慎悟を見つめ
る。
その恐怖が引き金になったか、口腔と股間を征服していた少年達も、同時に絶頂に
達し、獣欲を解放し始める。
「あっ、ああああああっ......!」
同時に眞耶子も歓喜を迎え、悲しい快楽の頂点で身体を仰け反らせて失神する。
既に放出を終えていた二人の少年が逃げ腰で立ち上がるが、慎悟の一撃を受け、頭
部を吹っ飛ばし、胸に大穴を空けて吹き飛ぶ。恐怖に震えながらも、それでもイマ
ラチオを続ける眞耶子の口と下肢の少年達。慎悟が咆哮する。鋭い手刀が、二人の
首を胴体から斬り離す。鮮血を眞耶子に降り注ぐ彼らの身体は、なおぴくぴくと前
後に動き、眞耶子に最後の一滴まで放出して、ようやく倒れ伏した。

獣のように咆哮する慎悟の背後でよろめき立ち上がる影。輝く鎧を纏った青沼が近
づいていく。
「て、てめえ......ついに本性を出しやがったな......青沼静磨が成敗してくれる!」
鋭い金剛杵を振りかざし、慎悟に突きかかる。残像を残して慎悟が消える。一瞬に
して青沼の背後に回った慎悟が、いつの間にか両手に持った炎の短剣を、同時に鎧
に突き入れる。
「ぐおわっ...!!」
背中から心臓と肝臓に深々と一撃を受けた青沼が崩れ落ちる。
動くもののない森の中。黄昏に暗さを増していくその中で、慎悟はいつまでも咆哮
を続けていた。

流璃子が建物の方向に足を踏み出したその時。殺気が流璃子を包み込む。凄まじい
速度で飛来した細く長いものが何本も流璃子の身体に突き刺さる。鋭い氷柱。流璃
子は声もなく倒れ伏す。
現れたのはくの一。漆黒の髪を後ろに束ね、赤い縁取りのある黒い忍装束を纏って
いる。顔の大部分は黒布で覆われていたが、目元ははっとするほど美しい。短い刀
を抜く。とどめの一撃。が、それは抜け殻の襤褸に過ぎない。
「くっ...変わり身!」
慌てて周囲を見渡す。背後に気配。振り向くと、天女の羽衣のような衣装を纏った
流璃子が立っていた。

「あなた...誰?どうして私を狙うの?」
「私は鬼哭忍軍、氷の眞耶子。流璃子...これ以上一族の恥を曝さず、神妙に縛に付
け。」
感情の篭らない声が流璃子の耳を打つ。
「!!...き、鬼哭って...?それでは、あなたは鬼哭一族の...?」
「そうだ。地獄帝国に仇なす者は、同族といえど容赦はしない!」
刀を振りかざし、女が襲いかかる。
「ま、待って!聞きたいことがあるの!」
襲撃を紙一重で避けながら、流璃子が叫ぶ。
「大人しく捕まれば、いくらでも話は聞いてやる!」
眞耶子は身軽に身体を回転させながら、矢継ぎ早の斬撃を次々と見舞う。
繰り出される攻撃の早さに、流璃子は大きく後方に跳躍する。女は着地点に氷柱の
手裏剣を放つ。羽衣でそれを払った流璃子は、間合いを求めてさらに跳躍する。眞
耶子の鋭い出足に距離を開けない。
「お願い!話を聞いてっ!」
「問答無用!鬼哭氷舞凍陣!」
無数の氷柱が一斉に飛ぶ。ほとんどを羽衣で打ち払ったものの、遂に一本の氷柱が
流璃子の脇腹を掠める。
「...くっ!」
浅い傷から血が滴る。バランスを崩して倒れこむ流璃子。立ち上がろうとして、眩
暈に襲われる。
「こ、これは...!」
「鬼哭忍軍秘伝の毒が塗ってある......動けまい。」
眞耶子がゆっくりと近づいてくる。威力には絶対の自信。刀も鞘に収める。
闘いの中、二人は知らずに陽炎のようにゆらめく建築物のそばに来ていた。
周囲に何者かの気配が立ち込める。
「ま、待って!」
気配に気付いた流璃子が叫ぶが、身体が動かない。
突如、二人の周囲の砂が立ち上がる。内部から半透明の壁がせり上がり、二人を覆
っていく。
「くっ!」女が刀で切りつけ、氷柱手裏剣を投げつける。が、斬ったそばから壁は
元に戻り、氷柱は音もなく飲み込まれてしまう。
完全に二人を覆った壁は、再び砂の中に沈んでいく。
数秒後、周囲は元の静かな渚に戻っていた。

どれくらい時が経っただろうか。
意識を取り戻した眞耶子が、ゆっくりと目を開く。既に正気に戻っていた慎悟が、
覗き込んでいた。
「マーヤ......俺、掟をやぶっちまった......。人間を殺しちまったよ......耐えられな
かった......」
「慎悟......私のために......ごめんなさい」
「俺が悪いんだ......俺が誘いださなきゃ......マ、マーヤに取り返しのつかないこと
を......」
「......慎悟のせいじゃないわ......」
慎悟が涙を拭って立ち上がる。
「どこに行くの......?」
「......もう村には戻れない。俺は人間に絶望した......もう何の希望もない......」
「......私も村には戻れないわ......あんな男がゴッドサイダーなんて......許せない
......」
ややよろめきながら、眞耶子が立ち上がる。
「......二人であてもなく彷徨って、死に場所を探すか......それでもいいのか?」
「ええ......」
悲しみと怒りと絶望に満たされた二人は、静かに森の中に姿を消した。後には少年
達の無残な死体だけが残った......はずだった。

ぴくりとも動かなかった安生の身体が動き出す。痙攣のような震えが激しくなると、
突如服を裂いて異様な姿に変貌する。
「へっへっへっへ......危ねえ危ねえ......」
蝙蝠のような羽を広げる。首が音を立てて正常な向きに戻ると、長く長く伸びてい
く。
「一つの村にゴッドサイダーと鉢合わせに生まれてきちまうなんてなあ......」
頭から巨大な角が生え、奇妙に捻れていく。身体が黒い剛毛に覆われていく。
「パラケルスス先生の指示で、少しずつ洗脳して、もう少しで堕とせるところだっ
たんだが......」
枝分かれした四本の腕から鋭い鍵爪が伸びる。
「へっへっへ......鬼哭一族か......珍しい奴らだぜ......地獄に引き摺り込めば手柄
になるな。早速報告するか......。」
太い尻尾が地面に触れる。安生だったものは周囲を見回すと、青沼の死体を見つけ
る。
「即死かよ......情けねえ。所詮は雑魚か。ま、何かの役に立つかもしれねえ。先生
のところに持っていってみるか。」
怪物は青沼の死体を抱えると、翼を広げ、一気に大地を蹴る。遥かな高みに上った
巨体は、手近な"地獄通り"を目指して一路飛翔していく。

仄暗い床に倒れていた流璃子は意識を取り戻した。脅威の治癒力で、既に傷は跡形
もなく、毒も中和されていた。女の姿はない。広い空間だった。正面に淡い燐光を
放つ人形の「もの」がいる。
《覚醒...?》
頭の中に直接伝わる思考。
「あなたは...?」
《我古王。堕者呼"えでぃあえる"......》
「『堕者』?あなたはデビルサイダーなの?」
《堕者手下否。堕者約我続行統治。故王也...》
「『堕者』とは、堕天使...悪魔のことですか?」
《堕者転落神下僕...》
会話の困難さに耐え、流璃子は続ける。
「やはり......。あなたは、何者なのですか?」
《我古王...》
「...教えてください。ここは、この地獄は悪魔...つまり『堕者』が支配する世界な
のではないのですか?」
《堕者支配領域称地獄。領域外称魔界》
「魔界......。では、あなたは悪魔より遥か以前からこの世界に存在するのですか。」
《...過去神捨擲多数生命...。神放我最初...》
「!...神に見捨てられて...?あなたはかつて地上に居たのですか?」
《神育命於創造地。背神意沿失敗作、投捨魔界。長時流、神反復繰失敗...》
魔界とは神の意に沿わぬ生命の屑篭。不完全なコミュニケーションから得られた情
報に戸惑う流璃子。
《...汝有神祝福。我欲知悉汝...》
燐光が揺らめき、人形が接近する。
本能的に感じられる危険に、流璃子が後ずさりする。

眞耶子は目を覚ました。立っている。だが地に足が着いていない。そして気付いた。
薄暗い空間の中、半透明な壁の中にすっぽりと閉じ込められていることに。眞耶子
の身体は、壁に塗り込まれたように、粘度の高いゼリー状の物質中にすっぽりと包
まれていた。身体がほとんど動かない。眞耶子は自分が呼吸していない事実に気付
き、狼狽するが、窒息する気配はない。緩やかな振動が身体中に伝わる。眞耶子は
驚愕の中、理解した。口腔も、肺も、胃も、腸も、耳も、鼻も、毛穴も、膣も、子
宮も、およそ外部と繋がる全ての体内にゼリー状の物質が大小の触手と化して侵入
していることを。
眞耶子の覚醒に気付いたのか、壁の振動が速くなる。そして、眞耶子は文字通り全
身をまさぐられ、あらゆる刺激を加えられる。苦痛、灼熱、極寒、そして様々な感
触。それらに対する眞耶子の反応の全てを、壁は記憶していく。
突如膣に加えられた新たな刺激に、眞耶子の身体が弓なりに仰け反る。快感。この
反応に興味を持ったのか、壁は類似の刺激を眞耶子の身体の各所に加え始める。
「かはっ......!」
声にならない声。眞耶子の口が大きく広げられる。肺に残ったわずかな空気が壁の
中に吸い込まれていく。
ゼリーの壁は、反応の強い部分に、さらに強い刺激を加えていく。眞耶子の内部か
ら熱いものが滲み出してくる。壁はそれを吸収し、分析していく。

《汝持神恵。汝力不可思議。我欲...》
「ま、待って下さいっ。もっと知りたいことが...」
《汝我生命形態隔絶。疎通伝達困難。我使用堕者付与端末。尚交流不全。我求直接
接触...》
迫ってくる燐光に壁際まで追い詰められる流璃子。羽衣が防御本能を発揮する。右
腕からするすると伸び、燐光を放つ人影のようなものに絡みつき、縛める。人影が
千切れ飛び、動きを止める。はっとして羽衣を戻し、近寄る流璃子。
「まさか......殺してしまったの?」
動きを止めるだけのつもりであったのに......。
だが先ほどの思考が再び流璃子に語りかける。
《我不滅永劫...》
「!」
燐光の人影が元の姿を取り戻している。千切れ飛んだ破片の姿はどこにも見当たら
ない。
《我調査汝形態...類似標本我手中有...》

眞耶子の全身は快感に絡め取られる。びくんっ、びくんっ。意志とは裏腹に全身が
痙攣する。身体のあちらこちらから様々な成分の液体が触手によって注入される。
その度に眞耶子の身体は官能にうち震える。
朦朧とする眞耶子の意識が、平和だった幼い時代に遡って行く。
村の長老だった優しい祖父の顔が浮かぶ。
「よいか、眞耶子。我々は里の者達と決して交わってはならぬのじゃ。」
「どうしてなの、おじいちゃま?」
「我々は呪われた一族なのじゃ。このままひっそりと世界から隠れて生きていかね
ばならぬ。我々には不思議な力があるが、それは呪われたものなのじゃ。よいか、
里の者に手出ししてはならぬ。もし出遭ったら逃げるんじゃよ......。」
眞耶子の頭を愛しげになでながら、なぜか祖父の顔はとても悲しそうだった。

眞耶子の身体が、あの時の記憶を取り戻す。激しく陵辱されながら、心ならずも歓
喜してしまったあの日の感覚。凍えた心と一緒に封印したはずのそれが、身体中か
ら溢れ出して来る。
(...そ、そんな......忘れたはず......断ち切ったはずなのにッ......!!)
全身が痙攣する。繰り返し襲いかかる快美感に、眞耶子は遂に屈する。限りない絶
頂感に意識が薄れていく。
震える壁は、眞耶子の全てを刻み込み、大きく震える。

最も忌まわしい記憶が甦る。
真冬の山中。吹きすさぶ吹雪の中、氷を割り、身を切る川の流れに白い裸身を浸す
眞耶子。
「マーヤ!やめろっ、危険だっ!」
川岸から絶叫する慎悟。
「来ないでっ!お願いだから来ないでっ!」
あれから生理がなかった。密かに恐れていた悪夢の予感が、今朝の悪阻で確信に変
わった。
(......妊娠......!!)
あの陵辱の際に、少年たちが胎内に放った夥しい精子の一つが、眞耶子の卵子を犯
し、子宮に宿ってしまったのだ。
身に宿した子供に罪は無い。それは判っていた。
「産んで、二人で育てよう。」
慎悟はそうも言ってくれた。だが、眞耶子にはその運命を受け入れることはどうし
てもできなかった。
あの日、快感に震え、今子供を育んでいる。自分の意志を裏切り続ける身体が呪わ
しかった。
(......許せない。あいつらの行為......!)
身体の感覚が失われていく。朦朧となっていく意識。だが、かろうじて立ち続ける
眞耶子。
(......許せない。あいつらの子供を宿すなんて......!)
無意識にゆっくりと身体が傾いていく。意識が消えていく。閉ざされた両目から流
れる涙。
(......許せない。罪のない子を殺す私自身が......!)
川の流れに倒れこむ眞耶子。慎悟の全速力で駆け寄っていく。

3日3晩熱にうなされ、人事不省に陥った。ようやく眞耶子が目覚めたとき、慎悟
から流産を告げられた。
覚悟の選択だった。だが、あまりにも重い十字架に、眞耶子の感情はその時、死ん
だ。
その後現れた地獄からの使者の誘いに、眞耶子はうなずいた。慎悟も行動を共にし
た。

背後に不穏な気配を感じて流璃子が振り向く。床がせり出し、半透明なブロックが
そそり立つ。その内部に眞耶子を見出した流璃子が驚愕の声を放つ。
「ま、眞耶子っ......!これは一体?」
《汝特有不可知力。然我完了標本分析。我知悉汝特徴。》
眞耶子の身体がぴくっ、ぴくっ、と痙攣している。やがてその美しい裸身の輪郭が
崩れ出すと、眞耶子の身体は壁の中に溶けるように消え去った。
「眞耶子っ...!眞耶子をどうしたのですかっ!返してくださいっ!」
《標本我一体化。永生共我。我欲汝力。共生内我...》
流璃子の周囲の床が一斉に立ち上がる。瞬間、飛び上がった流璃子だったが、天井
も同時に垂れ下がってきて、一体化したチューブ内に閉じ込められる。羽衣を飛ば
すが、壁にめり込むと外れなくなる。
みるみる押し寄せてくる壁。
「...み、弥勒冥界光っ!」
流璃子の胸の宝玉が輝き、強い光を放つ。それを受けた前面の壁は溶け崩れるが、
背後と両横の壁が流璃子に取り付く。狼狽した流璃子の注意が逸れた瞬間、前面の
壁も修復されて、流璃子を覆ってしまう。
壁の中に閉ざされた流璃子。ゼリー状の壁が、体内への侵入を開始する。おぞまし
さに流璃子の全身が震える。
唇をきゅっと噛み締める流璃子。しかし、耳や鼻から触手化した壁が侵入し、下肢
の二つの秘孔からも、触手が入り込む。自由に身体が動かせない流璃子は、その感
覚に慄然と
する。ついに、息苦しさに耐えられずに開かれた流璃子の可憐の唇からも、太い触
手が入り込んでいく。

流璃子は全身を犯されていた。肛門から入った触手と口腔から入った触手が、体内
で融合する。肺が満たされる。秘苑から入った触手は子宮から卵巣にまで侵入し、
そこを一杯に満たしてしまう。やがて毛穴や汗腺からも微細な触手が入り込んでい
く。
眞耶子に対し、あらゆる検査を行った『古王』。女の身体の構造を知悉した王の触
手が、やがて流璃子に官能を伝え始める。全てを知り尽くした王の責めに、流璃子
の身体が痙攣する。
同時に、王の思考が鮮明に流璃子の中に流れ込んでくる。
《さあ、官能の果てに我と一つになれ、流璃子。我は汝、汝は我。恐れることは何
も無い。》
(......あっ、はあっ...眞耶子は、眞耶子はどこにっ...?)
《眞耶子は悲しみに満ちていた。これよりは我と共に永遠の歓びの中を生きる。》
(......ああんっ...んあっ...あ、あなたはそうして全てを吸収してきたのっ...?)
《我は一にして全。全にして一。神はそれを気に入らなかったようだが...》
(......ふッ...あはあッ...だ、だってッ...そ、それは生命の多様性を奪うことだわッ
...)
《争いのない一つの世界。何が悪いのか。さあ、流璃子、汝も我となれ。快楽に忘
我となったとき、融合は完了する。》
(...だ、駄目ッ...わ、私にはまだすべきことがッ...あああッ...い、いやあッ...駄目
ッ...!)
全身を包む快感に目が眩む。流璃子はかつてない快感に陶然となる。
(...ああッ...ま、待ってッ...あはああッ...こ、このままじゃあッ...んんんッ...あふ
うッ...!)
《融合を開始する。流璃子、さあ、感覚を共に...》
『古王』の無数の触手が、流璃子の神経に接続されていく。流璃子の快感が奔流と
なって流れ込んでいく。

《!...こ、これは......!》
壁が、いや部屋が全体が激しく震える。
《ま、まさか、これほど凄まじい感覚とは......!》
流璃子の神経に接続し、流璃子の受ける快感を全て共有してしまった『古王』が打
ち震える。
《いかんっ...このままでは...!》
慌てて神経接続を絶とうとする。しかし間に合わなかった。
《う、うおおおおおッ......!!》
一瞬早く絶頂に達してしまった『古王』が、大量の原形質を流璃子の全身に放つ。
次の瞬間、流璃子も頂点を極める。
「あんッ...ああんッ...あああああああああッ...!!」
流璃子の全身が白熱し、まばゆい光に包まれる。その光は、やがて全てを飲み込ん
でいく。

陽炎のようにゆらめき、形の定まらない建築物。それは『古王』本体に他ならなか
った。それが内部からの光に包まれていく。『西の王』は、一瞬激しく揺らぐと、
巨大な光球の中に消滅していった。

やがて静かに消えていく光の中心部から、輝くような流璃子の肢体が現れる。
「......危なかった。もう少しで私も吸収されるところだった......」
呟いた流璃子は、眞耶子のことを思い出す。あたりを見回す。
波打ち際に倒れ伏す眞耶子。足を波が洗っている。駆け寄る流璃子。
「大丈夫?眞耶子...」
眞耶子が薄っすらと目を開き、抱き起こす流璃子の瞳を見つめる。
「わ、私は......?」
「『古王』に取り込まれていたの。でも、もう大丈夫...」
「...そ、そう...私は壁に包まれて、色々な感覚や記憶を呼び覚まされて、心も身体
も吸収されたんだわ......」
眞耶子の身体に力が戻ってくるのがはっきり感じられる。やがて眞耶子は流璃子の
助けを借りて立ち上がる。

「助けてくれたのね......あなたに襲い掛かった私を......」
「同じ鬼哭一族だし......助かったのはあなたが邪に染まっていなかったからよ...
...」
「邪に染まっていなかった...?私が...この手で自分の子を殺した、罪にまみれた私
が...。でも不思議......記憶はそのまま残っているのに......私を覆っていた悲しみも、
怒りも、憎しみも、絶望も......消えてしまったみたい。まさか......これがあなたの
力なの?」
流璃子は微笑んで首を振る。
「私にも良くわからないの......でも、ある人が言っていたわ。私には癒しの力があ
るって。そして、何か使命があるはずだって......」
「ああ......今なら私にも判る。あなたの力に触れれば、誰でも判るわ。」
眞耶子がうっとりと閉じていた目を開き、流璃子を見つめる。
「流璃子...さん。これからどうするの?」
「西に行けと言われてここまで来たの。確かに『古王』はいろいろ知っていたけど
......これからどうしたらいいか、わからないわ......」
力なくうつむく流璃子。風が長い髪を梳かしていく。

眞耶子がにっこりと微笑む。
「流璃子...姉さま......一緒に行きましょう。短い時間でしたが、私が『古王』と一
体化している間に、彼の記憶が私の中にも流れ込んできました......これからの旅に
必要な知識もあるようです。」
「本当、眞耶子?」
「はい......南に向かいましょう。そして、私同様、怒りと憎しみと悲しみ故に闇に
堕ちた鬼哭一族の民をも、どうかお救い下さい。」
「わかったわ、眞耶子。一緒に行きましょう。」

どこまでも続く白い渚を後にする二人。再び動くものの姿のなくなった沈黙の渚に
は、風と波の音だけが通り過ぎていった。

(第二話終了)

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