題名:「ADVENT」

第4話「蒼き沼の悪夢」

  パラケスルルの研究室。扉が開かれると、満面の笑みを浮かべたパラケルススが
出迎える。
  「いやいやいやいや......お疲れ様でしたなあ、フォラス殿」
  肩で荒い息を吐くフォラスは、傍らの部下を顎で指図する指示する。大きなガラ
ス容器が台の上に置かれる。中には醜い色彩を纏った内蔵状の物体が詰め込まれ、
びくびくと怪しく蠢いている。
  満足そうに覗き込むパラケルスス。部屋の外遠くから騒ぎ声が伝わってくる。
  「いやはや、壮観ですなあ。三十個もの躯妄虫の心臓とは...」
  大きなため息をついて、フォラスは、精も根も尽きた様子でぐったりと傍らの椅
子に身を沈める。
  「流石に...これほどの数は...」
  「そうでしょう、そうでしょう。フォラス殿以外に一体誰ができましょうか。フ
ォラス殿の真摯な忠誠、必ずやベルゼバブ様のお心に届きますぞ...」
  外での騒ぎが一段と大きくなる。突如扉がノックされると、返事も待たずに乱暴
に開かれる。息せき切った医師が駆け込んでくる。
  「たた、大変ですパラケルスス先生!シズマ・ユニットがまた暴走を...!」
  「なんだと。いつものように鎮静剤を投与せぬか。」
  「そ、それが今回は...いつになく激しい暴れようでして...と、とにかく病院から
出ようとして言うことを聞きません!」
  「...ふむ。鬼哭の波動でも嗅ぎつけたか。...アンジョーンを呼べ。それまでは押
さえろ。」
  「...は、はいっ!」
  ばたばたと駆け去る医師。
  「何事ですか?」
  身を乗り出すフォラス。
  「お恥ずかしいところをお見せしまして...。いや、以前ゴッドサイダーの死体を
入手しましてな。雑魚でしたが、何しろゴッドサイダーは滅多に手に入らぬ貴重な
研究素材......様々な実験を施してきたのですが...どうも最近動作が不安定でして
ね。」
  「...ゴッドサイダーを!?あの『女達』よりも前にですか?そんな話は聞いてお
りませんが...」
  「いやいや、雑魚したから報告の必要もないかと...。」
  「......まあいいでしょう。で...?」
  「実験というのは、今回『女達』にも施した措置の基礎となるものでしてね。各
種固有能力の大幅な向上を図りながら、精神操作を施すという...しかし、どうも精
神操作がうまく行きませんで......そこで今回ホムンクルスを組み込んで操作させ
るという方法を開発した訳ですが......試作の瘴気増幅装置を組み込んでみたとこ
ろ...」
  「せ、精神操作ができない段階でですか!?先生は何をお考えか...!」
  「いやいやいやいや...そうお怒りあるな。奴には絶対の安全装置があるのです
よ。」
  扉がノックされる。
  「来たようですな...入り給え。」
  魔尉の階級章を付けた若いデビルサイダーが扉を開ける。
  「先生。お呼びですか。」
  「おお、良く来たアンジョーン。フォラス殿、彼はアンジョーン魔尉と申しまし
てな。アンジョーン、こちらはベルゼバブ様の側近であらせられるフォラス将軍
だ。」
  かちっと見事な敬礼を行うアンジョーンに答礼するフォラス。
  「アンジョーン。シズマ・ユニットがまた暴れてね。どうも仇の波動でも嗅ぎつ
けたのではないかと思うのだよ。」
  「ほう...そういえば、あの二人は鬼哭忍軍に加入しているとか......。シズマのセ
ンサー能力向上が仇となりましたか。」
  「うむ。ちょうどいい機会ではある。君、シズマ・ユニットを実践運用してくれ
んか。」
  「やっと奴の出番が来たと言うわけですね。了解しました。」
  おもむろに出て行くアンジョーン。呆然と見送ったフォラスは、再びパラケルス
スを責める。
  「どういうことです。説明願いましょう。」
  「もちろんですとも。アンジョーン魔尉は地上出身でしてね。たまたま私が地上
探索を行った時に幼少の彼と出会いまして、以後連絡を取り合うようになったので
すが...なんとそばに覚醒不十分なゴッドサイダーがいることがわかりましてな。」
  「さ、先ほど言っておられたゴッドサイダーの死体とはもしや......」
  「ははは。そのとおりなのですがね...。面白いのでアンジョーンに色々ちょっか
いをかけて貰っていたところ...ある日鬼哭一族と遭遇し、戦闘となったのです。」
  「ま、まさか、新加入の鬼哭一族とは...」
  「お察しのとおり、人間のふりをしていたアンジョーンと奴...シズマ・ユニット
の原型である青沼とかいうゴッドサイダーを殺害し、その後鬼哭忍軍に加わったと
いうわけです。アンジョーンは死んだふりをしただけでしたが。」
  「ぬう...」
  「そういう経緯もあって、アンジョーンはシズマ・ユニットを完全に操れます。
ところでフォラス殿......風の噂では、どうやら鬼哭忍軍は全員消息不明となったと
か...」
  「!!...ど、どうしてそれを...」
  「はっはっは。タネ明かしをしては手品もつまりませんがね...。再起動に先立っ
て『女達』の各種センサーのテストを行っているのですが、なかなか性能がよろし
くて...色々と面白い情報が取れるのですよ。」
  「そ、そうか...先生は、『女達』の記憶も手に入れていますな。だから色々と...」
  「はっははは。まあ、ささやかな役得とお考え下さい。それよりも...」
  パラケルススがフォラスに顔を近づけ、囁く。
  「ご覧になりますかな?『女達』の再起動実験...」
 
 
  鬼哭一族は東に向かっていた。
  「益々気高くおなりのようですな...巫女殿は。」
  剛蔵が感に堪えない様子で丁寧に流璃子に話しかける。
  「確かに慎悟の勘は外れていないようだ。この高貴さ......確かにあなたなら我々
の運命すら変えられる...今なら俺にも信じられます。」
  剛蔵の言うとおり、南の王を滅した後の流璃子の姿には、神韻縹渺たる気配が漂
っていた。
  「...今度は東の王を倒すことになるのかしら。ねえ、眞耶子?」
  哀華がそ知らぬ顔で剛蔵の横腹をつねると、傍らの眞耶子に尋ねる。
  「そ、それはわかりませんが...東の王の居場所は、もうさほど遠くはないはずで
す。西の王は、東の王を不可解だと考えていたようです。自分とは相反する存在だ
と...」
  「どういうところが相反するんですの?」
  最年少の忍である璃音が小首を傾げて尋ねる。
  「ごめんなさい。私にもよく判らないわ。西の王の思考はあまりにも私たちと異
質で...」
  「......まあ、いいってことよ。しかし、眞耶子もずいぶん変わったな。やけに巫
女殿そっくりになってないか?」
  剛蔵がしげしげと眞耶子を見つめる。
  「そ、そうかしら?」
  剛蔵の言葉によって周囲から集中する視線に眞耶子はどぎまぎして顔を赤らめ
る。
  「じ、自分ではよく判らないけど...」
  「いや、お頭の言うとおりだ。眞耶子はだんだん流璃子さんに似てきたよ。まる
で...」
  慎悟が眞耶子に笑いかける。
  「黒髪の流璃子さん、て感じかな。ちょっと幼いけど。」
  「姉さまに似てるっていうのは光栄だけど...幼いって言い方はないじゃない。若
いとか言ってよ。」
  「それじゃあ流璃子さんが若くないみたいじゃないか。」
  「そ、そんなことは言ってないでしょ...」
  剛蔵があきれ顔で二人を遮る。
  「何だなあ、お前達......ずいぶんさえずるようになったじゃないか。昔と随分違
うなあ。まあ、それはさておき...目的地が近いとなると、そろそろ配置をしておか
ないとな。」
  剛蔵の指示が飛ぶ。
  「慎悟と眞耶子は引き続き巫女殿の護衛を。哀華、璃音。先発して前方の様子を
探って来い。牙守人と寧那は俺と一緒に来い。地獄帝国に潜入するぞ。連中の情況
を知りたい。刃弦と冥火矢と旬太郎は枝を払いつつ、北の山へのルートを探索・確
保しろ。」
  「はっ」
  一同がうなずく中、慎悟だけが疑問を発する。
  「お頭...北の山って...?」
  「慎悟。頭ってのは先の先を考えておかなきゃいけねえ。西、南、東と来たら...
後は北しかないだろう?」
  「そ、そうか...まだ東の王にも会っていないから、つい...」
  「そいつは巫女殿の仕事さ。お膳立てを整えておくのが俺たちの仕事よ。哀華と
璃音は巫女殿と合流後は慎悟の下に付け。散っ!」
  忍達は瞬時に消え去った。
 
  沈むことのない黒い太陽。だが、一日の半分は青白いコロナが消え、周囲は暗闇
に覆われる。背の高い草叢の中で野営する一行。哀華と璃音が合流する。
  「巫女様。前方には確かに大きな湖沼があります。巨大な気配を感じますので、
おそらくそこに...」
  哀華が淡々と報告する。
  「ここからですと、ゆっくり進んでも半日もあれば到着すると思いますの。周辺
には特に危険なものはありませんでしたの。」
  やや舌足らずに璃音が続ける。
  「ご苦労さん。二人ともゆっくり休んでくれ。今眞耶子が周囲を哨戒している。
俺が途中で交代する。流璃子さんも、そろそろお休みください。」
  「わかりました。お疲れ様でした、二人とも。」
  慎悟が焚き火を小さくすると、皆横になる。
  「哀華さん、女忍ばかりになっちゃっいましたの。」
  「お頭の配慮よ、璃音。巫女様のお側近くにでお守りするには女の方がいいも
の。」
  「でもぉ、慎悟さんは男性ですの。」
  「それは前から巫女様のお側にいるんだもの...」
  囁く声もじきに絶え、辺りに静寂が訪れる。
 
 
  「どうしたい、青沼さん。......ふんふん。連中の気配を感じるのかい。あっちの
方かい?じゃあ、俺が連れて行ってやるよ。行こうぜ、青沼さん。」
  巨大な翼が開く。巨大な荷物を吊り下げた異形の影が、病院の中庭から飛び立つ。
力強いはばたきはやがてつんざくような音に代わり、高速飛行に移っていく。天空
で黒々と眠る太陽を横切っていく影。それを窓越しに見つめるパラケルスス。
  「...ふふふふ。アンジョーン、シズマ・ユニットの管理は任せた...」
  にやりと笑う顔に、眼鏡が冷たく光った。
 
 
  翌日。一行は無事、深い森に囲まれた大きな沼のほとりに到着した。蒼黒く澱ん
だ水は波一つ立たず、周囲は静まりかえっている。
  水面を見つめる流璃子。
  「確かに気配が...水の中かしら。」
  「油断するな、皆。」
  慎悟達が周囲を警戒する。
  突如、水面が泡立ち、浮き上がってくる影。身構える一行の前で、優美に水面に
立ち上がったその姿は明らかに人の姿をしていた。
  「お待ちしておりました、流璃子様。ご一行の皆様方。」
  鈴をころがすような声の主は、絶世の美少女だった。空色の髪。青い瞳。群青の
優雅なドレス。息を呑む慎悟。
  「...あ、あなたが、東の王なのですか?」
  ややあって、驚きから覚めた流璃子が尋ねる。
  「いいえ。私はただの使いです。お出迎えにあがるべきところ、使いを送る無礼
をお許し下さいとの、主の言付けでございました。」
  にっこりと笑って首を振り、優雅に答える美少女。
  「それは構いませんが...それでは、王のおられる場所にご案内いただけます
か?」
  「もちろんでございます......あら、何かしら......」
  美少女が小首を傾げて見上げる空を慎悟も見つめる。
  「......何だ!?早いっ!皆、警戒をっ。流璃子さんは早く東の王の許へ。マーヤ、
護衛は任せたぞ!」
  慎悟が身構えながら指示を出す。
  空の彼方に小さな黒点が生じると、みるみる巨大化していく。凄まじい速度で飛
来したそれが、一行めがけて何かを投下する。
  「危ないっ、散れっ!」
  一行の立っていた場所に落下した物体が轟音とともに落着し,地響きとともに凄
まじい土煙を巻き上げる。地面に穿たれた巨大な穴から飛び出す巨大な影。
  「...ス...ロス...コロス...コロース...ブッコロース!」
  先端の尖った巨大な杵のようにな武器で武装した巨人は、全身に輝く鎧を纏って
いた。
  「な、なんですのこいつ?ゴッドサイダーですの?!」
  「ま、間違いないわ。どうしてこんな処に...それに、この殺気...!」
  璃音と哀華が忍刀を抜き放つ。
  「こ、こいつは...!」
  「ま、まさか...!」
  愕然とする慎悟と眞耶子。以前とは大きく異なる姿だったが、間違いなくその気
配は、三年前に遭遇したゴッドサイダー青沼静磨のものだった。しかし...。
  「な、なんて闘気なの!」
  「波動が変ですの。」
  「二人とも下がってくれ。こいつは俺がやるっ!」
  叫びつつながら、戸惑う哀華と璃音の前に出る慎悟。右手に陽炎が揺らめくと、
みるみる炎の剣が現れる。
  そこへ、巨体が振り上げた拳から巨大な独鈷杵が放たれる。三方に散る忍達の中
央に突き刺さると、大地を抉りながら土中を前進し、十数メートル先で再び飛び上
がる。
  「な、何だあの武器は?」
  「きっとあいつがコントロールしてるんですの。あっ、もう一本持ってますの
っ!」
  璃音の言うとおり、巨人は左手に掲げたもう一本の独鈷杵を投げつける。二本の
独鈷杵が交互に飛来して三人を襲う。飛び来る独鈷杵に刀を合わせた哀華が吹き飛
ばされる。
  「哀華さんっ!」
  衝撃を予想していた哀華は、空中で体を回転させて体勢を整えると、優雅に着地
する。
  「大丈夫よ...やはりあの大質量を止めるのは難しいわね。」
  慎悟は、ちらと頭を回して、流璃子と眞耶子が使者の美少女に導かれて沼に入っ
ていくのを確認すると、二人の仲間に声をかける。
  「哀華さん、璃音。とりあえず奴を沼から引き離そう。森には入ったら二人で奴
を牽制してくれ。その間に俺が奴の間合いに入る。」
  「ええ、わかったわ。」
  「危険ですの。気をつけて慎悟さん。」
  二人の声を背後に聞きながら、慎悟が森に向かって疾走する。
 
 
  蒼い沼の水面には、いつの間にか蓮の葉が飛び石のように浮き、三人のための道
を作っていた。
  「どうぞこちらへ...」
  先に蓮に乗った美少女に促され、流璃子もそっと蓮に立つ。蓮の葉はびくともせ
ずに浮いている。
  「さあ、眞耶子も...」
  流璃子が背後の呼びかけたその瞬間、眞耶子の背筋を強烈な悪寒が走った。
  「あ、ああ...!」
  背後の気配。それは眞耶子のよく知っているものだった。
  「...眞耶子?」
  小首を傾げる流璃子に、青ざめた眞耶子は囁くような小声で告げる。
  「ごめんなさい...姉さま。私、行けない...。私は...運命と...戦わなきゃ...ならな
い...」
  思いつめた眞耶子の表情に眉をひそめる流璃子。同時に背後の気配に気づく。
  「まだ...敵がいるのね。あれが...眞耶子の運命なの?」
  流璃子に背中を向け、こくりと小さく頷く眞耶子。
  「わかったわ...。眞耶子、私は大丈夫。...勝つのよ、必ず...」
  「はい。すぐに...すぐに行きますから...姉さま......」
  「流璃子様。主がお待ちです。お急ぎ下さいませ。」
  涼しげな声を美少女に促され、流璃子は眞耶子に気遣わしげに一瞥した後、沼の
中央に歩みを進める。その水面には深い穴が穿たれ、水壁の中、螺旋の階段が奥底
まで続いていた。美少女に先導されて降りていく流璃子。その姿が完全に消えるの
を見守った眞耶子が、きっと眥を上げ、木立を睨む。
  「くっくくく...ようやく二人きりになれたな...三年ぶりだぜ眞耶子...恋焦がれ
てたか?」
  アンジョーンが姿を見せる。
 
 
  足元の大地に突如亀裂が走り,大きく裂ける。空高く跳躍したシズマは,突風に
態勢を乱され,着地姿勢を大きく崩す。哀華と璃音が作った機会を慎悟は見逃さな
かった。
  「うおおおおっ!喰らえっ、鬼哭連弾紫砲炎!」
  慎悟の左手からいくつもの紫の火球が放たれる。その全てが無防備なシズマの体
に命中する。爆発し、飛び散る炎。だがシズマの鎧は無傷で光輝いている。
  「...キ...コク...キコク...コロース...ブッコロース!」
  慎悟が炎の剣の間合いに詰める。シズマが大きく右腕を振りかぶる。その拳には
巨大な独鈷杵が握られている。炎の剣と独鈷杵が激突する。閃光とともに巨大な爆
発が生じ、爆風に吹き飛ばされる慎悟。
  「!......慎悟っ、大丈夫?」
  哀華が慎悟に駆け寄る。
  「鬼哭暴竜陣幕!」
  璃音はシズマを囲んで大きな竜巻を作りだす。大量に巻き上げられていく土砂。
やすやすと竜巻を突き破るシズマだったが、視界を妨げられた僅かな隙に三人は姿
を消していた。
  「お、俺の剣をまともに受け切るるなんて......!」
  「ただの独鈷杵じゃないってことね。おそらくゼウスの牙でできているわ。」
  「それは、天界の最硬物質ですの。やっぱりゴッドサイダーですの?」
  「そうだ......あいつはゴッドサイダーだ。俺と、マーヤがここに来る原因を作っ
た......三年前に殺したはずのゴッドサイダーだ!」
  周囲を見渡していたシズマが、気配を察知し、三人の潜む木立に向けて独鈷杵を
放つ。三方に飛ぶ影。シズマの目は、正確に慎悟を捉え、もう一つの独鈷杵を投げ
る。着地点に迫る巨大な影に、慎悟は迷わず炎の剣を投げつける。狙い違わず空中
での衝突する両者。だが、閃光の中から現れたシズマの独鈷杵は、うなりを上げて
慎悟に迫る。慎悟の体を貫くと、独鈷杵は再びシズマの手に戻っていく。
  「し、慎悟!」
  「慎悟さんっ!」
  二人の女忍の悲鳴が重なる。
  「だ、大丈夫だ...きゅ、急所ははずした...」
  吹き飛ばされた慎悟が、右の横腹を押さえ、よろめきながら立ち上がる。
 
  眞耶子の手に、雷の槍が現れる。
  「くくく...ずいぶん強くなったようだなあ、眞耶子。とても敵いそうにないぜ...
だが...」
  笑みを浮かべたアンジョーンが顎で後方を示す。
  「あの戦いの音が聞こえるか?シズマが暴れてるんだ。覚えているか?お前の処
女を奪った奴だよ。あいつは手強いぜ。いろんな改造や実験を受けてるからな。お
かげで頭はおかしくなっちまったが...。」
  嗤いながらゆっくりと眞耶子に迫るアンジョーン。妖しい瞳が爛々と眞耶子の瞳
を見つめる。みるみる瞳の輝きが強まると、その醜怪な姿が次第に歪んでいく。
  「...俺が憎いか...お前を優しく扱ってやった俺が...女の悦びを教えてやった俺
が...」
  アンジョーンの姿が変貌していく。にやけた二枚目の優男...かつて眞耶子を辱め、
快感の絶頂を味わわせた男...安生竜の姿。人の姿に変わりながらも、その瞳の妖し
い輝きは一層強くなっていく。その輝きに捕らえられた眞耶子の瞳が釘付けになる。
  「くくくく...眞耶子。快美を...歓喜を...教えてやったのは誰だ?また抱かれたく
なったか?」
  「...だ、黙れ!」
  静かに歩み寄る安生。激しい眩暈を感じ、左手で頭を押さえる眞耶子。雷の槍を
握る右手がぶるぶると震える。
  「...なあ。俺の子はどうした?...あのとき一緒に作った俺たちの赤ん坊は...どう
したんだ?」
  安生の声が低く、静かに響く。眞耶子は安生の瞳の輝きから目が離せない。不意
に記憶のフラッシュバックが眞耶子を襲う。雪深い山奥の渓流。身を切るように冷
たい渓流。下半身を浸した少女。大声で叫ぶ慎悟の声。
  「...流しちまったのか?...なんてことを...俺の子だったのに...子供には何の罪
もないのに...」
  「...ゆ、許せなかった...あなた達の子供を産むなんて...絶対...許せなかった...」
  「恨むなら...俺を恨め...俺を殺せ...子供に罪はない...赤ん坊に怒りをぶつける
のは間違いだぜ眞耶子...」
  安生は眞耶子の正面に立ち、顔を突きつける。眞耶子の瞳が急速に光を失ってい
く。焦点が合わず、虚ろに開く瞳孔。
  「なぜ殺した...無垢の魂を...なぜ...奪ってしまった...嬰児の未来を...」
  眞耶子の体ががくがくと震え始める。それに気づいた安生は、密かな笑みを浮か
べると、口調を一転させる。
  「...眞耶子。心配するな...償うことはできる...また子供を作ろう...俺達の子を...
もう一度...」
  安生は眞耶子の側に寄り添うように近づき、漆黒の黒髪をそっとかき分けて可憐
な耳を露わにすると、そっと囁き続ける。邪悪な甘さを湛えた深い声が、眞耶子の
理性を急速に奪っていく。眞耶子はいつか焦点の合わない目を彷徨わせ、体を預け
てもたれかかる。
  『くくくく...先生が授けてくれた精神攻撃能力は...抜群だぜ...』
  安生は、優しく眞耶子の体を抱きしめると、そっと甘く囁く。
  「...眞耶子...また...作ろうな...二人の子供を...一緒に...」
  眞耶子の顔をそっと上げると、ゆっくりと唇を奪う安生。甘美な唇をたっぷりと
味わいながら、虚ろな瞳をぼんやりと投げかけている眞耶子の体を静かに横たえて
いく。
 
 
  蒼い美少女の後について果てしない螺旋階段を下る流璃子は、遂に底までたどり
つく。蒼い水がそのまま凝固したかのような床と壁が延々と続く回廊。
  そこにはもう一人の少女が待っていた。にこやかに頭を下げる。二人になった案
内者が奥に誘う。二人の顔や背格好はまったく異なるが、共通するのは、二人とも
怖ろしいほどに美しいことだった。回廊の奥、巨大な扉が音もなく開くと、大広間
があった。燭台の明かりにぼんやりと照らされ、絨毯が伸びる先に、玉座が見えた。
その両脇には様々な美少女達がずらりと並び、流璃子の姿を見ると一斉に頭を下げ
た。
  「ようこそいらっしゃいおいました...主はあちらにおいでです...」
  玉座には細身の青年が座っていた。青白い肌、蒼い髪、青い瞳の凄絶といってい
いほどの美貌。
  「ようこそいらっしゃいました、流璃子。私が、東の王と呼ばれるものです。」
  静かに立ち上がり、穏やかな微笑みで一礼する。吸い込まれそうな澄んだ瞳に見
つめられて、思わず流璃子が頬を赤らめる。美少女達が運んできた華奢な椅子を、
優雅な挙措で勧める青年。流璃子は操られるように座ると、東の王と対座する。
  「いずれ来られることは承知しておりました。西の王、南の王を葬ってこられま
したね。」
  「あ、あの...あなたのお仲間のことは...決して私の本意ではなかったのですが
...」
  あくまで穏やかな東の王の声に、流璃子は自責の念すら覚える。
  「いえいえ...彼らは自らの行いに対する報いを受けたまでのこと。あなたが気に
病むことは何もありません...。」
  東の王は美しい首を振って静かに微笑む。
  「...あの怖るべき南の王は、私について何か言いましたか?」
  流璃子の胸に甦る南の王の最後の言葉。『東の王も...ともに...倒すが...いい』だ
が、流璃子はそれを告げることはできなかった。
  「い、いいえ...特には。」
  「そうですか......」
  天井を仰ぐようにやや首を上向きに傾げた東の王が瞑目する。しばし静止したそ
の姿は大理石の神像を思わせる。佇む美少女達は寂として声もない。
  「それで...私の命も、ご所望ですか...?」
  目を閉じたまま独り言のように呟くその姿は儚げだった。
  「そ、そんな。違います。お力を...お力を貸していただきたいだけです。」
  ようやく開かれた東の王の瞳が湛える悲しげな色。流璃子は慌てて否定する。東
の王は弱々しく笑う。
  「ははは...私の力など、堕天使達の帝国からすれば取るに足らぬものです。私は、
彼らの慈悲によりようやく生きながらえているようなものです。」
  「そんな...」
  反論しようとする流璃子をそっと遮り、儚げな笑顔のまま、言葉を続ける。透き
通った蒼い視線が流璃子の瞳を捉えて放さない。流璃子の瞳に薄い靄がかかってい
く。
  「私の侍女達...どうご覧になりますか?」
  「え...ええ、皆さんとても美しくて...驚きました。魔界にこのような人たちがお
られるとは...」
  「ははは......美しくて当然です。あの娘達は,堕天使達にその身を捧げるために
生まれてきたのですから...」
  「!な、なんですって......」
  「私が生み出したのですよ、あの娘達を。私の保身のためにね。」
  甘いため息。俯いた眼差しにかかる長い睫毛。
  「少々長くなりますが...私の話を、お聞きになりますか、流璃子...?」
  憂いをたたえた瞳。吸い込まれるように流璃子がうなずく。
  (東の王の話は、補遺 Monologue"Deep Blue" 参照)
 
  催眠力を伴う深みのある声が流璃子の心身にまで染み渡っていく。
  「......流璃子。美しいあなたの頼みに私の積年の計画は吹き飛びました。例え、
あなたにして差し上げられることが...共に戦い、共に滅ぶことであろうとも......」
  玉座から立ち上がった東の王は、ゆっくりと流璃子に歩み寄る。流璃子の心の奥
底まで覗き込むような深い瞳。流璃子の瞳孔が開ききり、その視線は何ものをも捉
えられなくなる。
  「...あ...」
  ふらりと姿勢を崩す流璃子。
  「...私は構いません、流璃子。あなたの為に死ねるなら本望です。我が命...あな
たに差し上げましょう...」
  正面に寄せた顔。そっと囁く東の王。
  「...ああ...」
  喘ぐような深いため息とともに、流璃子が陥落する。全ての力を失い、がっくり
と崩れ落ちようとする優美な身体。細い両腕でそっと支える東の王。
  「...行きましょう、我が寝室へ。愛し合いましょう、静かに......」
  美しい侍女達が音もなく開く扉。一斉に叩頭する侍女の列を抜け、流璃子を抱え
あげた東の王はゆっくりと寝室に向かう。
 
 
  「慎悟、意地を張っているときではないわ。三人で協力して戦いましょう。」
  「そうですの。力を合わせますの。」
  よろめく慎悟を庇って、哀華と璃音がシズマに立ち向かう。
  「鬼哭蔦絡根縛陣!」
  哀華が両手を地に付く。波動が大地を奔ると、シズマの足元から長く太い根が現
れ、みるみる両足に絡まっていく。哀華に向けて独鈷杵を投げるシズマ。
  「鬼哭暴歪風圧壁!」
  璃音の周囲から巨大な風の障壁が生じ、独鈷杵の軌道を乱す。
  「慎悟!」
  慎悟は両手を合わせ、一際青白く光る炎で長剣を作り出す。間合いに入るや、気
合いとともに一閃する。
  「いやあああぁっ!鬼哭炎殺一文字剣!」
  シズマの右足を、絡まった根とともに切断する。シズマの巨体が後ろにゆっくり
と倒れていく。
  「ガッ...ガガッ...コロスッ...コロースッ...ブッコロースッ!!」
  立ち上がろうともがくシズマに、続々と地中から現れる根や蔓が巻き付き、動き
を妨げる。
  「とどめだっ!」
  慎悟が上空高く跳躍し、シズマの心臓めがけて炎の剣を投げつける。
  ブシッ!!
  鎧を貫いた剣が、正確に心臓を貫く。
  「グオオオオッ......!!」
  シズマの口から鮮血が迸る。
  「やったわ...!」
  「やりましたの、慎悟さん!」
  勝利を確信した哀華と璃音が着地した慎悟に駆け寄る。その時。
  「...自我...崩壊確認...シズマ・ユニット再起動...」
  明らかに今までと異なる機械的な音声がシズマの口から漏れると、体に絡まる根
や蔓を引きちぎって、シズマが上体を起こす。右手で左胸に刺さった炎の剣を無造
作に抜くと、投げ捨てる。切断された右足を見つけると、切断面を接合する。
  「ま、まさか...」
  たちまち右足を復元し、何事もなかったかのように起きあがるシズマ。
  「...再起動成功確認...シズマ・ユニット自動戦闘モード...瘴気レベル最大...」
  シズマの目が赤く輝きだす。周囲に濃厚な瘴気が立ちこめていく。
  「な、なんですの?ゴッドサイダーなのに、瘴気が吹き出てますのっ!」
  「危険よ。下がって、璃音、慎悟!」
  なおもシズマに迫ろうとしていた根や蔓が次々と腐り落ちていくのを見て、哀華
が叫ぶ。
  黒々とした瘴気の渦の中、シズマが佇立する。が、突如残像を残して消え去り、
驚愕する哀華と璃音の目前に出現すると、目にも止まらぬ高速の拳を叩き込む。吹
き飛ばされた二人は、大木に体を打ちつけて地面に倒れ伏すと、そのまま動かなく
なる。
  「なっ...!」
  驚く間も与えず慎悟に迫るシズマ。貫手が右横腹の傷口を正確に捉える。
  「がっ...!」
  血を吐く慎悟。シズマは貫通した拳を握り締め、慎悟を逃がさない。傷口から鮮
血が迸る。シズマを包む瘴気の渦が腕に集中していくと、慎悟の体内に流れ込んで
いく。その激痛に慎悟が激しく身悶えする。
  「!ぐはっ!ぐ...ぐああああっ!があああああっ!」
  炎を纏った拳でシズマを叩く、足で蹴りつける。だが、微動だにしないシズマは、
なおも瘴気を送り込み続ける。
  慎悟が白目を剥き、泡を吹いて失神する。
 
 
  邪悪な笑みを顔に張り付かせたまま、いたぶるようにじわじわ眞耶子の衣服を剥
いでいく安生。
  「くくくく...うまそうに熟れてきてるじゃねえか...たっぷり楽しませてもらう
ぜ...」
  大きく虚ろに開かれた眞耶子の瞳は、いたずらに安生の笑みを写している。安生
の指が眞耶子の身体を這い始める。三年ぶりに触れる身体の様子を点検するかのよ
うな丹念な動き。髪や顔からゆっくりと撫で回していき、眞耶子の身体が少しでも
反応を見せるや、執拗にその部分を責め続ける。眞耶子の性感を引き出すことに暗
い情熱を傾ける男の手が、眞耶子の優美な双丘の麓にたどり着く。焦らすように螺
旋を描きながらゆっくりと登っていく指先。頂上近くの桃色の乳暈にたどり着くと、
指先が触れるか触れないかという微妙な感触で、乳暈の周りで執拗に円を描く。
  「ん...んん...あう...」
  眞耶子の呻き声とともに、乳暈が粟立っていく。そして、その中央では野苺のよ
うな可憐な乳嘴が紅を増しながら、徐々に立ち上がっていく。間近でその光景を堪
能していた安生は、辛抱できずに唇を近づけると、野苺を口に含む。舌と唇で丹念
に吸い、舐め、転がして賞味を始める。遠くに絶叫が響き渡った。
  「くっくくく...シズマ・ユニットは自動戦闘モードか......その方が優秀なようだ
な...」
  独りごち、なお乳嘴に対する口唇愛撫に没頭する安生。そのため、絶叫が響いた
瞬間、眞耶子の瞳が光を取り戻し、喘ぎ声をあげるために軽く開かれていた唇から、
白い靄のようなものが出て行くのを見落とす。靄は眞耶子の身体から抜け出すと、
森に向けて飛んでいく。眞耶子は魂が抜けたように静かに瞳を閉じると、その身体
は安生の与える刺激に一層素直に反応していく。
  「あふ...んん...ふうっ...はあっ...」
  「くくく...ずいぶん色っぽい声を出すじゃねえか...堪らねえぜ...」
  安生の細い指が滑らかな下腹を滑り、ゆっくりと秘苑へ忍び込ませていく。
 
 
  豪奢にして青系統で統一された落ち着いた寝室。流璃子は東の王に抱きしめられ
ていた。アポロンのような美青年の優しく、暖かく抱擁に、うっとりと瞳を閉じて
しまう。
  「流璃子...素敵な人だ。綺麗ですよ...流璃子...」
  囁く東の王の吐息が耳をくすぐる。ぴくっと首を仰け反らせる流璃子。
  「ふっ......は...あん...」
  「何と可憐な声...さあ、もっと聞かせてください...あなたの愛らしい声を...」
  「い...いけませ...ん...こんな......は、話を...もっと話をしなくては...」
  首を振って肩を押し返そうとする流璃子。だがその抵抗はあまりに弱々しかった。
  「私が待ち望んでいた方...これは運命なのです...」
  深い陶酔をもたらす東の王の声に、流璃子の心は止めようもなく傾いていく。
  「...で、でも...!ふあっ...あはあっ...だ、駄目えっ...」
  耳を軽く噛まれ、熱い吐息を吹きかけらる。しなやかな舌が耳穴に差し込まれ、
流璃子の身体がぶるっと震える。
  「流璃子...愛しい人...私のものにしたい...」
  東の王は、流璃子の身体を寝台へ誘う。金の縫い取りのある深い海の色がしみこ
んだような群青のシーツに、流璃子がそっと横たえられる。
  「...いけません...駄目です...ま、待って...下さ...い...」
  純白のワンピースに王の手がかけられると、流璃子の両腕が妨げるように添えら
れる。
  「さあ...あなたの肢体の全てを...私に見せてください...流璃子...」
  東の王の手がそっと流璃子の腕を握り、その手の甲に口づける。
  「あふうっ...!」
  体を走りぬける甘美な疼き。流璃子の抵抗が儚く止むと、両腕を頭上で一つにま
とめ上げられる。
  東の王の指が流璃子のワンピースをなぞるように動くと、ワンピースは触れられ
るそばから白い布片と化し、はらはらと流璃子の身体から舞い落ちる。
  「流璃子...さあ、私の愛を受け止めてください...」
  東の王の端正な顔が流璃子に覆い被さっていく。静かに触れ合う唇。甘い痺れが
全身に走り、うっとりと目を閉じてしまう流璃子。やがてその口づけは、次第に濃
厚なものへと変わっていく。
 
 
  深い闇の底への墜落。慎悟の意識は果てしない暗黒の底へ向かってと沈んでいく。
意識が闇に溶けようとしたその瞬間、光を纏った眞耶子の姿が現れる。
  「慎悟...堕ちては駄目...目覚めて...慎悟......」
  その呼びかけに慎悟の目が開く。
  「マー...ヤ?マーヤなのか...ここは...?」
  「ここはあなたの心の奈落......身体に注がれた瘴気によって、あなたは闇に堕ち
ようとしている......」
  「...そうか......あのゴッドサイダーに...マーヤ!君は...どうやって...ここに
...?」
  わずかに微笑む眞耶子。
  「...ま、まさか...幽体...離脱...?そんな...それは巫女だけの......」
  「聞いて...慎悟...私の体は今、安生というデビルサイダーに自由にされているわ
...」
  「!な、なんだって...!」
  「3年前に...私が...私が殺してしまった赤ちゃん...あいつは...そこにつけこん
で...私の表層意識を支配してしまった...」
  「...ま、待ってろ!今、俺が助けに行くから!」
  「...いいの...私は必ずあいつを倒す...そうすれば、ゴッドサイダーのコントロー
ルは解けるはずよ。...慎悟、意識を現実に戻して...あなたの体は激痛に苛まれてい
るでしょうけど...お願い...耐えて。そして、待っていて...」
  「...ああ、判ったよ、マーヤ。奴を倒して、すぐに君を助けに行く!」
  慎悟の魂が彼方の微かな光へと上昇に転じる。
  「必ずだ!必ず助けるから!」
  上方の光に溶け込むように消えていく慎悟の魂を見送って、眞耶子の幽体も静か
に消えていく。
 
 
  眞耶子の幽体が戻った時、安生の技巧により、眞耶子の全身はすっかり燃え盛っ
ていた。眞耶子の双脚の間に顔を埋めた安生は、指と舌と唇とを巧妙に使って眞耶
子の官能を責め苛んでいる。眞耶子はかっと瞳を見開き、凄まじい快感に激しく喘
ぐ。
  「!!うッ...はああッ...んああああッ...はあああッ...!」
  「ふふふふ...ずいぶん色っぽく泣くじゃねえか...堪らねえぜ」
  顔を上げた安生は、眞耶子の上気した切なげな表情を確認すると、唇を曲げて嗤
う。
  「...俺も最近はいい女にありついてねえからな...」
  濃厚なキスで唇を、口腔を思うさま蹂躙する。
  「んふッ...むう...んむう...ふうッ......はあああッ...」
  ようやく解放された眞耶子の唇から、熱いため息がこぼれる。安生は眞耶子の上
半身を起こすと、仁王立ちで,そびえ立つ雄渾を突きつける。
  「さあ、おしゃぶりの時間だぜ...」
  眞耶子の唇を割り裂くように、怒張を押し込んでいく。
  「...む...くぅ...くふ...」
  喉奥まで挿入され苦しげな表情を楽しみながら、眞耶子の頭を押さえ、ピストン
運動を開始する。
  「どうだ...うめえか...ふふふふ...うぉっ...」
  しなやかな舌が巻きつく感触に思わず声を上げる安生。蕩けるように暖かい口腔
をたっぷりと楽しむ。
  「最高の入れ心地だぜ、眞耶子...もう...いきそうだ...」
  眞耶子の頭を両腕でがっちりと抱え込むと、激しい律動を加える。
  ジュボッ...グジュッ...グチュ...
  苦しげな呻き声とともに、肉ずれのような淫猥な音が響き渡る。
  「おおッ...いくぞッ...眞耶子ッ...いくッ...!」
  安生は背を大きく反らすと、激しい発作とともに、欲望を眞耶子の口内に解き放
つ。
  「う、ううむッ...の、呑むんだッ...全部ッ...!」
  快感に引きつれた男の命令に、眞耶子は首を大きく仰け反らせ、噴射された夥し
い粘液を喉を鳴らして飲み干していく。
 
 
  「そろそろ...とどめといくか...」
  快感の余韻に一息ついた安生。すでに欲望の猛りは回復し、天を衝いてそそり立
っている。白く伸びやかな双脚を抱え、眞耶子にのしかかっていく。熱く硬い猛り
が花弁に押し当てられる。眞耶子の体がびくりと跳ね、腰がわななく。一気に貫い
ていく安生。熱い猛りを受け入れ、激しく体を仰け反らせる眞耶子。
  「ふッ...ふうううううッ!...はッ...はあッ...ああんッ...」
  巧妙な男の技巧に翻弄される眞耶子。安生は、深々と眞耶子を貫き通したことを
確認すると、両足を肩から下ろし、眞耶子の身体を抱きしめ、可憐な耳にいやらし
く囁く。
  「どうだ...いいか...眞耶子...」
  「ああッ...いいッ...いいですッ...安生さん...はああッ...!」
  荒い息づかいの間に、操られるように返答する眞耶子。
  「どこがいいんだ...言ってみろ...」
  「あんんッ...やッ...恥ずかしいッ...んあッ...!」
  羞恥に全身を桃色に染める眞耶子。安生は、黒髪を優しくかきなで、腰にひねり
を加えながら、卑猥な返事を強要する。
  「お×んこだろ?おま×こがいいんだろう?おまん×がいいって言ってみろ、眞
耶子」
  「んはあッ...やッ...ふうんッ...あふうッ...!」
  必死に首を振って抵抗する眞耶子。安生の腰から絶え間なく送り込まれる官能に、
背骨を貫かれ、全身を揉み抜かれるような快感に酔い痴らさせる。
  「言ってみろ...眞耶子...!」
  快感とともに加えられる暗示のような安生の囁きに、遂に眞耶子ははしたない言
葉を口走ってしまう。
  「んんッ...あうッ...い、いいのおッ...お、おま×こッ...いいッ...あああッ...やあ
ああッ...!」
  自分の発した言葉のもたらす羞恥に激しく身悶える眞耶子。安生は満足そうに微
笑み、さらにピストン運動を早めながら、言葉責めを続ける。
  「ふふふ...どうだ、眞耶子...俺は最高だろう...」
  「ああんッ...あ、安生さんッ...い、いいッ...いいですッ...はああああッ!」
  「何がいいんだ...眞耶子を可愛がっているものの名前を...いってみろ...」
  「あああッ...オ、オチ○コ、安生さんのオ○ンコですッ...うあああッ...やあああ
ッ!」
  猛烈な恥辱が眞耶子の全身を焼き尽くす。
  「ふふふ...俺の名は竜だ...竜いくわっていってみろよ...」
  「はあああッ...りゅ、竜さんッ...いいッ...いいッ...ま、眞耶子はッ...い、いって
しまいますッ...ふああああああッ!」
  「...赤ちゃん欲しい...俺の赤ちゃん欲しい...さあ、言ってみろ」
  「あッ...ふあああッ...あ、安生さんのッ...あ、赤ちゃんッ...ほ、欲しいッ...ひあ
ッ...やあッ...んんんッ!」
  安生の思うがままに操られ、屈辱の言葉を口走る眞耶子。
  「ふふふふっ...そろそろいくぞ...膣内(なか)に出してほしいか...ふふふ...」
  「あんッ...くふッ...な、中はッ...中だけはッ...!」
  「欲しいんだろう、眞耶子...」
  腰を激しく捻る。
  「んんんんんッ...は、はいッ...中にッ...中に下さいッ...!」
  「...よおし、いい子だ...ものすごく濃くて熱いのを...たっぷり出してやる...さあ、
いこう、一緒にッ!」
  安生の腰が前後左右に掻き回すように動き、ピッチが一段と上がっていく。眞耶
子の両腕は安生の背に回され、爪が食い込んでいく。
  「眞耶子...眞耶子ッ...ああッ、いくぞッ...ああッ眞耶子ッ!」
  「あ、安生さんッ...だめッ...いやッ...い、いくッ...いきますッ...あああああッ...
い、いくううううぅぅッ!!」
  眞耶子の背が弓のようにしなり、ブリッジを形作る。安生は、眞耶子の中心部に、
滾りたった欲望を叩きつける。
  ビュルッ...ビュクッ...ビュビュッ...ビュクンッ!!
  力尽き、がっくりと眞耶子に覆い被さる安生。眞耶子の両腕が優しく安城の体を
抱きしめる。だが。次の瞬間、眞耶子の下腹部に小さな白い光が生じると、みるみ
る輝きを増して膨れあがっていく。
  「な、なんだっ!これはっ!」
  慌てて起きあがろうとする安生だが、眞耶子の両腕が放さない。
  「は、放せっ!」
  腕をふりほどこうとする安生だが、すぐにその体は白光に飲み込まれていく。
  「馬鹿なっ!精神攻撃ですべての能力は封じた...はず...な...の...にっ...!ば...
ばか...な...」
  安生は光の中にその存在を溶け込ませ、白く消滅していく。巨大な光球が消えた
後には、よろめきながら立ち上がった眞耶子の輝くような美しい裸体だけがあった。
 
 
  慎悟は覚醒した。だがそこには、巨大なシズマの腕に横腹を貫かれ、瘴気を注が
れ続ける地獄のような苦痛だけがあった。
  「がっ!!がああああっ!!」
  絶え間ない激痛にもはや言葉を発することすらできない唇から、絶叫とともに鮮
血が迸る。あまり痛みに狂うことも許されない意識が、逃げ場を求めて再び闇の底
に沈み込もうとする。
  『だ......だめだ......約束したんだ......マーヤとっ!!』
  かろうじて繋ぎ止める慎悟の意識だが、苦痛によりのその思考はたちまち四分五
裂していく。
  「!......慎悟!」
  ようやく意識を取り戻した哀華が、目の前の惨状に息を飲む。
  「いけないっ!あれ以上瘴気を注ぎ込まれては......!」
  形の良い頭を激しく振って意識を統一すると、右手を大地に添える。
  「鬼哭忍法......地の奥義!尖岩槍天衝破!」
  哀華の腕から放たれた波動が地に深く染み込んでいく。突如、シズマの足下から、
鋭く尖った岩が槍のように突き出される。狙いたがわずシズマの右腕を捕らえた岩
槍は、ぶちぶちと音を立てて右腕を食いちぎりながら天を衝く。投げ出された慎悟
の体が崩れ落ちる。
  「慎悟!慎悟!しっかりっ!」
  奥義の発動に消耗した哀華がよろめきながら立ち上がり、慎悟に近づこうとする。
  「哀華さんっ、危険ですのっ!あいつまだ......!」
  上半身を起こしただけの璃音が指を指す。右腕を失ったシズマは傷口から瘴気を
噴出していたが、黒い煙のようなそれはみるみる物質化し、新たな右腕を形作って
いく。
  「そ...そんなっ!」
  青ざめた哀華のそばによろよろと近づいた璃音が、激痛に地面をのたうつ慎悟に
叫ぶ。
  「慎悟さんっ!それ以上は危険ですのっ。仮死の術をっ!撤退しますのっ」
  風の奥義を放つべく、両腕を天に掲げた璃音を、慎悟が制する。
  「がっ...はっ...ま、待て......璃音......待って......くれ......」
  慎悟は横腹に突き刺さるシズマの腕を力任せに引き抜く。出血が噴水のように噴
き出す。あまりの激痛に七転八倒し、全身を海老反らせて痙攣される慎悟。それで
も言葉を続ける慎悟。
  「マ、マーヤ......や、やくそく......か、かならず......たお...す......」
  その時、森の彼方から白い光が差し込む。光は強度を増して膨れあがっていく。
  「あれは......あれは、なんですの!」
  「あ、あいつの動きが......!」
  白い光が森を覆うほどに膨れ上がると、新たな右腕で慎悟にとどめを刺そうとし
ていたシズマの動きが止まる。
  『これだ!マーヤのくれたチャンスだ!』
  右手で横腹を押さえながら、蒼白の表情の慎悟が立ち上がる。塞いだ右手を染め
て、瘴気を浴びたどす黒い血が音を立てて地面にこぼれ落ちる。慎悟は両手を上空
に掲げ、上段の構えを取る。青白い炎が激しく吹き上がり、長剣を形作っていく。
  ずるっ......!傷口から内臓がはみ出していく。苦痛を忘れ、渾身の跳躍を行う慎
悟。シズマの頭上高く飛び上がるや、脳天に長剣を振り下ろす。
  「火の奥義!紅蓮灼尽斬!」
  ズッ...ズズッ......ズズズズッ......!
  シズマの体を縦に両断した炎の剣が股間までを切り下げる。シズマの体は二分さ
れ、朽木のように左右に倒れていく。倒れながら、業火に包まれていく巨体。
  全ての力を使い切った慎悟は、受け身も取れぬまま全身を地面に叩きつける。駆
け寄った哀華と璃音が体を抱え、体を引きずるように安全な場所に移す。
  「すぐに手当てを...」
  「で、でも...哀華さん...もう...手の施しようが...ありませんの」
  全身の血を失い、腹から臓器を夥しくはみ出させた慎悟は、既に息がなかった。
  「そんなっ...慎悟っ!」
  慎悟の体に取りすがる哀華の手が赤く染まる。その時、気配に気づいた璃音が背
後を振り向く。涙に濡れた璃音の瞳に、眞耶子の裸体が映った。その体は、ぼんや
りと白い輝きを纏っていた。
  「ま、眞耶子さんっ...」
  立ちすくむ璃音の横を通り過ぎると、慎悟の側に跪き、その手を取る眞耶子。
  「慎悟...あなたは死なないわ...私が...私が護るもの...」
  眞耶子の瞳から涙が零れ落ちる。
  「姉さま...ああ、姉さま...許して...許して下さい...ずっと私を見守ってくれた慎
悟を...見捨てることは...私にはできません...すぐに...すぐに参りますから...」
  慎悟の頬に赤みが差していく。
 
 
  二人の唇がほどけ、細く透明な糸を引く。見詰め合う流璃子と東の王。流璃子の
瞳にはもはや抗いの影はなかった。
  「...ああ...」
  深く熱い陶酔のため息が流璃子の唇からこぼれる。
  「素敵なキスでしたよ、流璃子。さあ、あなたの全てを見せてください......」
  東の王は体を離すと、流璃子の全身に視線を走らせていく。いつの間にかあられ
もない姿にされていたことに気づいた流璃子は、全身を桃色の羞恥に染め、下肢を
捻り、両腕で胸を隠す。
  「ああっ...わ、私...どうしてこんな...見ないで...見ないでください...ああ...恥ず
かしい...」
  「恥ずかしがることなどありません。私の素体のどれよりも美しい...さあ、愛さ
せて下さい...その全身を...」
  東の王の端整な顔が流璃子の細い左の首筋に近づき、そっと口付ける。
  「ああっ...!」
  口付けを受けた部分から甘い疼きが全身に走る。東の王の唇は、静かに、ゆっく
りと口付けを重ねながら、首筋から胸元に向けて降りていく。流璃子の両腕は、東
の王の白い肩を押し返そうとするが、全く力は入らず、そっと触れるだけになって
いる。王の唇が鎖骨をなぞる。
  「あはあっ...だ、駄目です...そ、それ以上は...!」
  全身を走る甘美な刺激の深さに怯える流璃子。だが、東の王の青く澄み切った瞳
に見つめられると、流璃子の唇は拒否の言葉を紡げなくなってしまう。王の唇が胸
元を斜めに横切っていき、右腕に下りていく。
  「失礼しますよ...流璃子。あなたの背中も見せてください...」
  右腕をめぐるように口付けると、そっと流璃子の体をうつぶせにしていく。協力
するかのように、自ら体を回してしまったことに狼狽する流璃子。東の王の唇はな
おも流璃子の肌に吸い付くように這い進んでいく。唇が背骨の一つを捉える。瞬間、
流璃子の体がびくりと震える。
  「ん...ふっ...くふっ...んんんっ...」
  甘美な、しかし決して激しくは燃え上がらない埋火のような官能に、流璃子はむ
ずかるような声を上げてしまう。うつぶせにされた顔を左右に振る。指がシーツを
掴み締める。東の王は、口付けで背中を横断しきると、再び流璃子を仰向けにする。
火照った頬を隠すように、流璃子は両手で顔を覆う。
  「どうしたのです?薔薇色に上気した美しい顔を見せてください、流璃子...」
  「...い、いや...恥ずかしい...見ないで...お願い...」
  「恥じらう姿も素敵ですよ、流璃子...」
  くすりと笑った東の王は、左の腕から、美しいカーブを描いてくびれるウエスト
に唇を移す。ぴくりと弾けるように体を反らす流璃子。東の王の口付けは二周目に
入り、胸乳の下を静かに這っていく。優しく膨らむ双乳に責めが及ばなかったこと
に安堵しながらも、流璃子の神経は東の王の唇が触れる部分に集中していく。その
唇が通り過ぎた跡には、残り香のような甘美な疼きが留まり、流璃子の官能を一層
高めていく。優美な形をした臍の上を通り過ぎた唇は、腰骨を吸い、流璃子の右手
首を回ると、再び背面にされた流璃子のヒップに回っていく。美しい青年による、
これまでにない静かで、丹念な愛撫に、流璃子の官能は静かに、だが止めようもな
く燃え上がっていく。
 
 
  美青年の唇が描く優雅な螺旋は下半身に迫り、ついに流璃子の花園に近づいてい
く。陶酔に囚われていた流璃子がそれに気付き、激しく狼狽する。
  「ああっ...い、いけませんっ...そこは...そこだけは...許してっ...」
  くなくなと腰を振り、肌に吸い付く唇を引き剥がそうとする流璃子。
  「煙るような美しい花園ですよ、流璃子。さあ、そこに口付ける栄誉を私に与え
てください...」
  「だ、駄目です...そ、それだけは...い、嫌あっ...」
  流璃子の両手が、今にも花園に覆いかぶさろうとする東の王の頭を押さえる。王
は、あえてその抵抗を封じることもせず、ぎりぎりの微妙な部分の愛撫を繰り返す。
潮のように満ちては引く快感に、流璃子の抵抗は次第に弱まっていく。
  「やめて...んんっ...んあっ...か、堪忍...ふああっ...」
  東の王の唇が薄紫の下草に触れる。そのすぐ下には、桃色の可憐な芽が秘めやか
に隠されている。流璃子は堅く瞳を閉じるが、神経はその一点に集中していく。だ
が、王の唇はそのまま流璃子の右脚の太腿に流れていく。
  「......?」
  安堵とともに、微かに物足りなさを訴えるような光を宿した流璃子の瞳が、東の
王の涼やかな瞳と見つめあう。
  「ふふふ...流璃子。楽しみは後に取っておくことにしましょう...」
  「た、楽しみなんて...そんな...」
  否定する流璃子になおも口唇愛を加えながら、東の王の唇が描く螺旋は、流璃子
の下半身をゆっくりと降下していく。
 
 
  どれほど時間が経過したことだろう。いつしか流璃子のくるぶしが王の唇に捉え
られ、吸われていた。甘美な疼きは今や全身を覆い、流璃子の官能は火のように燃
え盛っていた。華奢な指を噛み、はしたない言葉が思わず口を出そうになるのを必
死にこらえる流璃子。東の王はゆっくりと半身を起こし、流璃子に寄り添うようと、
薔薇色の熱い頬に頬ずりをする。
  「...儀式は終わりましたよ...流璃子...ふふ...あなたの全てを隈なく見せてもら
いました...思った通り、すべてが美しく...愛らしい...」
  「い、いやあっ...おっしゃらないで...は、恥ずかしい...」
  「さあ......もっと深く愛し合いましょう...」
  不意に体の向きを変える東の王。その動きをいぶかった流璃子が、美青年の意図
に気付いて驚愕する。
  「!...そ、それは...!」
  「互いを唇で互いの秘所を愛し合う...今の私達には造作もないことですよ...」
  逆ざまに覆い被さる美青年の身体。流璃子の目前に、思いがけなく逞しい猛りが
突きつけられる。
  「な...!だ、駄目ですっ...そんな...で、できません...?!ひあッ!」
  頬を染めて目をそらして拒絶する流璃子を衝撃が襲う。美青年が流璃子の花園に
顔を伏せ、唇が花弁を捉えたのだ。
  「あ...そ、そんな...あうッ...だ、駄目えッ...あはああッ...やッ...いやあッ...くふ
うッ...や、やめてえッ...!」
  必死に首を振って官能の襲来を拒む流璃子。だが、繊細な部分への口唇愛は、情熱
的に続けられる。快感の拷問に、流璃子は耐えきれなくなる。
  「んんんんッ...いやッ...ああ駄目ッ...はああああッ...ああんッ...ふあああッ...」
  首を仰け反らして激しく喘ぐ流璃子。その唇に、東の王のものが近づけられる。
焦点の合わない目で見つめる流璃子。遂に火のような熱い肉棒が可憐な唇に触れる。
  「そう...包み込んでください...あなたの愛で...」
  ふと顔をあげて囁くと、再び愛撫に没頭する東の王。その唇と舌がもたらす性感
に、流璃子が堕ちる。自ら王の猛りに口づけると、ためらいながらも唇を開き、おず
おずと、しかし深々と呑み込んでいく。
  「おお...光栄です流璃子...おおう...なんと滑らかな...」
  東の王が感嘆の声を放つ。シックスナインというこの上なく卑猥な姿勢。だが二
人のそれは神々しいほどに美しかった。果てしなく続けられる口唇愛撫に、どこま
でも堕ちていく流璃子。
  どれほどの時間が経過しただろう。果てしない快楽の責めの後、ようやく身体を
起こす東の王。
  「...あはああ......」
  深々と挿し込まれていた欲情の証が名残惜しそうに引き抜かれ、流璃子が深いた
め息をつく。流璃子の愛に濡れに濡れた顔を流璃子の火照った顔に近づける美青年。
  「とても可愛かったですよ...流璃子」
  いやいやをするように首を振る流璃子の薔薇色に染まった耳に唇を近づけ、微笑
みを浮かべて何事かを囁こうとする、その時。
 
 
  蒼い寝室に白い輝きが走る。眞耶子の放った破魔の光。それはあまりに遠く、深
い沼のにあるこの場所を照らし出したのはほんの一瞬に過ぎなかった。だが、流璃
子の意識が覚醒させるには充分だった。流璃子を抱きしめていた美しい東の王の顔。
その姿がぼやけ、歪むと、蒼く巨大な蛇の頭がそこにあった。金色の目に、細長く
黒い瞳孔が流璃子を見つめる。口からは、二股に分かれた青紫の舌がちろちろと出
入りしている。
  「!!...きっ...きゃああああっ...!!」
  絹を裂くような悲鳴を上げ、醜怪な化物から必死に逃れようとする流璃子。だが、
蒼い大蛇はその長い胴をしっかりと流璃子の体に巻きつけ、離さない。大蛇は舌を
出し入れしながら告げる。
  「おやおや...あれほど深くかけたはずの術が解けてしまうとは。先ほどの光のせ
いですね......流璃子には最後まで甘い夢を見せて差し上げたかったのに......無粋
な事をするものですね......」
  美青年の姿の時と全く変わらない深い魅力的な声が、却って不気味さを際だたせ
る。
  「離して...離して下さい...!!」
  流璃子の全身に鳥肌が立つ。これまでの陶酔が深かっただけに、嫌悪の情は凄ま
じかった。
  「残念ですが、駄目です。私の愛技はこれからが本番なのですから。」
  大蛇に巻きつかれ、逃れられない全身を必死に捩り、揺さぶる流璃子。その恐怖
に怯えた表情をじっと見据える金色の目。これまでの愛撫が気味の悪い大蛇に加え
られてきたかと思うと、全身が総毛立つ思いの流璃子。だが、裏腹に、熾火のよう
な官能の高ぶりは容易にその体を去ろうとはせず、むしろいっそう激しく燃え立と
うとしていた。
 
 
  大蛇が流璃子の乳房を咥える。先端が針のように鋭い牙が乳嘴に食い込み、甘美
な媚毒を注入していく。
  「きゃあっ...!くっ...?...くはっ...ふうんっ...」
  痛みはなかった。かわりに甘美な疼きが全身を痺れさせていく。ちろちろと出し
入れされる二股に分かれた青紫の舌は、乳嘴と乳暈を這い、しゃぶる。快感が走る。
  「や、やめて...んっ...くふっ...はあっ...」
  もう一つの乳房も生け贄とされ、乳嘴に加えられる媚毒と舌の愛撫によって流璃
子の快感が倍加する。仰け反って、全身を痺れさせる流璃子。
  「ふッ...あッ...あふッ...あああッ...だ、駄目ッ...やあッ...い、嫌あッ...!」
  全身を駆けめぐる媚毒にがくがくと全身を震わせる流璃子。体が熱く、汗ばんで
いく。巻きつく蛇身の鱗の冷たさをつい心地よく感じてしまう。しかし、冷たい蛇
体の一カ所にだけ、灼熱を感じる。神秘の花園に押し当てられる、硬く熱い欲望の
怒張。
  「流璃子...私ももう我慢できません...さあ、一つになりましょう...!」
  下肢を縛めていた大蛇の体が離れると、改めて片足だけを巻き取っていく。大き
く広げられた足の付け根。その羞恥の花弁に熱いものがぴたりと押し付けられる。
灼熱感に息を呑む流璃子。
  「さあ...私の熱い想いを...あなたへの愛を...その身に受け入れてください...!」
  大蛇の媚毒によって全身を揉み抜くような官能に囚われる流璃子。火のような疼
きに襲われた花弁は、流璃子の意志をあっさりと裏切り、大蛇の欲望を受け入れる
ことを求めてしまう。
  「だ、駄目ッ...んあッ...そ、そんな...くふッ...受け入れるなんてッ...あはあッ...
い、嫌ッ...嫌あッ...ああうッ...出来ませんッ...」
  呼び起こされた雌の本能に激しさに、必死に耐える流璃子の理性。
  「...まだ足りませんか。それでは...」
  大蛇は一瞬流璃子の縛めを解き、体を入れ替えて改めて巻きつく。流璃子の顔に
熱いそれが押し当てられる。蒼い鱗に覆われた猛りを眼前にして、激しく狼狽する
流璃子。それだけでなく、今や流璃子の秘密の花弁が大蛇の瞳に覗き込まれいるこ
とに気付くと、先ほどとは全く異なる灼熱の恥辱が全身を焼く。
  「はあッ...駄目ッ...み、見ないでッ...やあッ...!!...はああああッ...くはッ...あ
ふううッ...!」
  「あなたの愛らしい花園は、先ほども見せていただきました...恥ずかしがる必要
などありません...」
  二股の細長い舌が花弁の奥まで差し込まれる感覚に流璃子の体が激しく仰け反
る。さらに、大蛇の毒牙が可憐な花芯に差し込まれる。痛みはなかった。だが、過
敏過ぎる蕾に注入される媚毒が、流璃子の官能を激しく揺さぶっていく。
  「ああッ...だ、駄目ッ...あんんッ...んんんんッ...あはああッ...あうううううッ
...!」
  顔を激しく左右に振って、官能から逃れようとする流璃子。だが、可憐な抵抗を
嘲笑うように、大蛇は口先を花弁の中に押入れ、揺すりたてる。
  「ああああッ!」
  流璃子の理性を裏切り、流璃子の下肢は一杯に開かれ、はしたなく快楽への欲望
を示してしまう。そして、激しい快感の喘ぎに大きく開かれた可憐な唇に、機会を
窺っていた大蛇の醜怪な猛りが、押し入ってくる。
  「?!...だ、駄目ッ...うむむむむッ...むうッ...んむうッ...!」
  驚愕に見開かれた流璃子の瞳。必死に押し出そうと抵抗する流璃子の舌や唇を嘲
るように、小刻みに律動しながら奥深くに侵入していく猛り。真珠の粒のような美
しい歯を当てるも、猛りを覆う鱗には文字通り歯が立たない。やがて咽喉奥にまで
挿入された猛りは、激しくピストン運動を開始する。苦しさに顔を歪める流璃子。
だが、その一方で、その下半身は絶え間ない快感に悩ましく悶えてしまう。双脚に
断続的な痙攣が走り、両足首が引きつるように伸ばされる。
  「流璃子...心地よいですよ...いきそうです...さあ、私の愛を...飲み干してくださ
い...くうッ!!」
  「!むうッ...むむうッ...んんんんッ...!」
  必死に首を振って拒否の意思表示を試みる流璃子。しかし。
  ドビュッ!ビュビュビュッ!ビュルッ!
  忌まわしい欲望の飛沫が奥まで激しく叩きつけられる。その夥しい量に溺れる流
璃子。吐き出すことを許されない流璃子の咽喉は、美しい主の命を救うため、おぞ
ましい獣欲のしたたりを次々と飲み込んでいく。
  ...くん...こくっ...こくんっ...こくっ...
  流璃子の目に汚辱の涙が浮かび、目尻を伝い落ちる。だが、咽喉を滑り落ちる粘
液は、急速に体内に吸収されると、全身を駆けめぐって流璃子の官能をさらに掻き
立てていく。熱く激しい呼吸。上気する頬。潤んだ瞳。全てが欲望に染まっていく。
 
 
  「準備は整ったようですね...それでは...最後の儀式を始めましょう...」
  すっかり力を失った流璃子の全身を解放すると、大蛇は再び流璃子の顔を覗き込
みながら、全身を纏わりつかせていく。あれほどの欲望の放出後も、まったく勢い
の衰えない蛇淫の猛りが、再び羞恥の花弁に押し当てられる。充血して鮮やかな紅
色に染まった花弁を押し分け、ゆっくりと侵入していく青鱗の欲望。流璃子の咽喉
が大きく仰け反る。
  「あッ...あッ...ああッ...ああああッ...!」
  深々と貫かれた衝撃に全身を痺れさせる流璃子の耳穴に、青紫の舌を挿し込みな
がら、大蛇が囁く。
  「ああ...遂に一つになれました...なんと暖かい...流璃子の胎内がこんなにも優
しいとは...素晴らしい...素晴らしいです...」
  呻くように感嘆の声を上げる東の王。開始される律動に翻弄される流璃子。
  「ああッ...んあッ...ああんッ...ふあッ...ひあッ...あはああッ...!」
  自由自在な欲棒の動き。大蛇の思うがままに操られてしまう流璃子があられもな
い姿態を見せる。
  「あはああッ...こ、このままではッ...あふッ...あ、あなたはッ...ああああッ...!」
  必死に言葉を紡ごうとする流璃子。
  「ふッ...くッ...あ、あなたの浄化の光で消滅してしまう...そう言いたいのでしょ
う?流璃子...」
  かろうじてうなずく流璃子の顔を見つめ、そっと耳たぶを咥える大蛇。長い舌が
耳穴に深く挿し込まれる。
  「!...はあああッ...そ、そんなことしちゃ...だめッ...い、いっちゃうッ...やあッ
...あはああッ!」
  「ううッ...いいのですよッ...あなたと...うむむッ...一つになれるなら...くうう
ッ...死すら...本望ですッ!」
  余裕のなくなってきた大蛇が、ラストスパートに入る。官能の虜となった流璃子
の精神が再び幻影に捉えられ、流璃子の前に美しい青年の姿の東の王の姿が甦る。
  「さあ、いきましょう、一緒に、流璃子ッ...!」
  端整な顔。深い声。吸い込まれるような青い瞳を見つめながら、流璃子の性感も
絶頂に向けて昂ぶっていく。
  「やあッ...いきそうッ...はああああッ...だめッ...あはああッ...いっちゃうッ...
やあッ...!」
  「流璃子ッ...私はッ...もうッ...ああッ...流璃子ッ!流璃子ッ!うああああッ
...!!」
  東の王は、端整な顔を一瞬歪めると、流璃子をひしと抱きしめ、その欲望の滾り
を放つ。
  ドクッ...!ドクッ...ドクン...ドクン...!
  直前に一度放ったとは思えないほどの量の粘液が、流璃子の清らかな胎内を犯し、
満たしていく。
  「いっちゃうッ!...あああッ...い、いきますッ!...ふあああッ...あッ!...あああ
ああぁぁッ!!」
  遂に絶頂に捉えられた流璃子が激しく全身を引きつらせる。高々と美しいブリッ
ジが形作られる。下腹部に生じた白光が、輝きを増していく。膨れ上がっていくそ
れは、みるみる蒼い寝室を飲み込み、沼そのものまでも飲み込んでいく。
 
 
  透明な水を湛えた沼のほとりに立つ流璃子。輝くような裸体を白い光が優しく包
み込む。だが、その光は急速に薄れると、流璃子は青黒い巨大な蛇に全身を巻き取
られている。それは、流璃子の全身に浮かび上がった蛇の刺青であった。優美なラ
インを描く左の首筋に刻まれた大蛇の頭。目が爛々と輝く。
  「ははははッ...再会を祝しましょうか、流璃子。いや...母上と呼んだほうがよろ
しいですかな...?」
  聞き覚えのある東の王の声が流璃子の心に響く。
  「...!!」
  呆然と声もない流璃子にさらに声が続ける。
  「成功しました...我が肉体は完全に消滅し、あなたの力の糧となりましたが...私
が丹精込めた秘蔵の精子は、私の精神を乗せてあなたの卵子と結合し、受精卵とな
りました...。」
  呆然と立ちすくむ流璃子に構わず、王は高らかに謳い続ける。
  「あなたの体内に注がせていただいた私の牙の毒液と精液は...催淫効果ととも
...排卵を誘発する効果もあったのです。浄化の光といえど...あなた自身の一部であ
る受精卵まで消滅させることはありません......」
 
魔の受胎告知。
 
  東の王の想念が流璃子の心に送り込まれる。清らかな卵子に潜り込んでいくおぞ
ましい精子のビジョン。恐怖が流璃子の心身を鷲掴みにする。
  「あなたの肉体を支配するのは、私が精魂こめて全身に施して差し上げた蒼き蛇
の紋章......流璃子...あなたは逃れられません...。私はこの上なく心地良く暖かなあ
なたの子宮の中で、優しく育まれながら、再び生まれ出る日を待ちましょう...」
  東の王の唇によって流璃子の全身に描かれた蛇の紋様が一際輝きを増し、流璃子
の意識に急速に卵割を繰り返し形を変えていこうとする受精卵の映像が鮮明に浮
かび上がる。かつてない衝撃に竦み上がった流璃子の理性が次第に混濁していく。
  「...私は今、素晴らしい速度で成長を始めたところです......妊娠おめでとう流璃
子。...出産の日は遠くありません......」
 
妊娠。
 
出産。

 
  遂に理性が恐怖がもたらした混沌に呑み込まれる。流璃子は意識を失い、美しい
裸体が力なく崩れ落ちる。全身を飾る蛇の刺青はさらに輝きを増していく......。
 
  (第四話終了)

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