「ADVENT」

題名:#4 蒼き沼の悪夢

第4話「蒼き沼の悪夢」中

  足元の大地に突如亀裂が走り,大きく裂ける。空高く跳躍したシズマは,突風に
態勢を乱され,着地姿勢を大きく崩す。哀華と璃音が作った機会を慎悟は見逃さな
かった。
  「うおおおおっ!喰らえっ、鬼哭連弾紫砲炎!」
  慎悟の左手からいくつもの紫の火球が放たれる。その全てが無防備なシズマの体
に命中する。爆発し、飛び散る炎。だがシズマの鎧は無傷で光輝いている。
  「...キ...コク...キコク...コロース...ブッコロース!」
  慎悟が炎の剣の間合いに詰める。シズマが大きく右腕を振りかぶる。その拳には
巨大な独鈷杵が握られている。炎の剣と独鈷杵が激突する。閃光とともに巨大な爆
発が生じ、爆風に吹き飛ばされる慎悟。
  「!......慎悟っ、大丈夫?」
  哀華が慎悟に駆け寄る。
  「鬼哭暴竜陣幕!」
  璃音はシズマを囲んで大きな竜巻を作りだす。大量に巻き上げられていく土砂。
やすやすと竜巻を突き破るシズマだったが、視界を妨げられた僅かな隙に三人は姿
を消していた。
  「お、俺の剣をまともに受け切るるなんて......!」
  「ただの独鈷杵じゃないってことね。おそらくゼウスの牙でできているわ。」
  「それは、天界の最硬物質ですの。やっぱりゴッドサイダーですの?」
  「そうだ......あいつはゴッドサイダーだ。俺と、マーヤがここに来る原因を作っ
た......三年前に殺したはずのゴッドサイダーだ!」
  周囲を見渡していたシズマが、気配を察知し、三人の潜む木立に向けて独鈷杵を
放つ。三方に飛ぶ影。シズマの目は、正確に慎悟を捉え、もう一つの独鈷杵を投げ
る。着地点に迫る巨大な影に、慎悟は迷わず炎の剣を投げつける。狙い違わず空中
での衝突する両者。だが、閃光の中から現れたシズマの独鈷杵は、うなりを上げて
慎悟に迫る。慎悟の体を貫くと、独鈷杵は再びシズマの手に戻っていく。
  「し、慎悟!」
  「慎悟さんっ!」
  二人の女忍の悲鳴が重なる。
  「だ、大丈夫だ...きゅ、急所ははずした...」
  吹き飛ばされた慎悟が、右の横腹を押さえ、よろめきながら立ち上がる。
 
  眞耶子の手に、雷の槍が現れる。
  「くくく...ずいぶん強くなったようだなあ、眞耶子。とても敵いそうにないぜ...
だが...」
  笑みを浮かべたアンジョーンが顎で後方を示す。
  「あの戦いの音が聞こえるか?シズマが暴れてるんだ。覚えているか?お前の処
女を奪った奴だよ。あいつは手強いぜ。いろんな改造や実験を受けてるからな。お
かげで頭はおかしくなっちまったが...。」
  嗤いながらゆっくりと眞耶子に迫るアンジョーン。妖しい瞳が爛々と眞耶子の瞳
を見つめる。みるみる瞳の輝きが強まると、その醜怪な姿が次第に歪んでいく。
  「...俺が憎いか...お前を優しく扱ってやった俺が...女の悦びを教えてやった俺
が...」
  アンジョーンの姿が変貌していく。にやけた二枚目の優男...かつて眞耶子を辱め、
快感の絶頂を味わわせた男...安生竜の姿。人の姿に変わりながらも、その瞳の妖し
い輝きは一層強くなっていく。その輝きに捕らえられた眞耶子の瞳が釘付けになる。
  「くくくく...眞耶子。快美を...歓喜を...教えてやったのは誰だ?また抱かれたく
なったか?」
  「...だ、黙れ!」
  静かに歩み寄る安生。激しい眩暈を感じ、左手で頭を押さえる眞耶子。雷の槍を
握る右手がぶるぶると震える。
  「...なあ。俺の子はどうした?...あのとき一緒に作った俺たちの赤ん坊は...どう
したんだ?」
  安生の声が低く、静かに響く。眞耶子は安生の瞳の輝きから目が離せない。不意
に記憶のフラッシュバックが眞耶子を襲う。雪深い山奥の渓流。身を切るように冷
たい渓流。下半身を浸した少女。大声で叫ぶ慎悟の声。
  「...流しちまったのか?...なんてことを...俺の子だったのに...子供には何の罪
もないのに...」
  「...ゆ、許せなかった...あなた達の子供を産むなんて...絶対...許せなかった...」
  「恨むなら...俺を恨め...俺を殺せ...子供に罪はない...赤ん坊に怒りをぶつける
のは間違いだぜ眞耶子...」
  安生は眞耶子の正面に立ち、顔を突きつける。眞耶子の瞳が急速に光を失ってい
く。焦点が合わず、虚ろに開く瞳孔。
  「なぜ殺した...無垢の魂を...なぜ...奪ってしまった...嬰児の未来を...」
  眞耶子の体ががくがくと震え始める。それに気づいた安生は、密かな笑みを浮か
べると、口調を一転させる。
  「...眞耶子。心配するな...償うことはできる...また子供を作ろう...俺達の子を...
もう一度...」
  安生は眞耶子の側に寄り添うように近づき、漆黒の黒髪をそっとかき分けて可憐
な耳を露わにすると、そっと囁き続ける。邪悪な甘さを湛えた深い声が、眞耶子の
理性を急速に奪っていく。眞耶子はいつか焦点の合わない目を彷徨わせ、体を預け
てもたれかかる。
  『くくくく...先生が授けてくれた精神攻撃能力は...抜群だぜ...』
  安生は、優しく眞耶子の体を抱きしめると、そっと甘く囁く。
  「...眞耶子...また...作ろうな...二人の子供を...一緒に...」
  眞耶子の顔をそっと上げると、ゆっくりと唇を奪う安生。甘美な唇をたっぷりと
味わいながら、虚ろな瞳をぼんやりと投げかけている眞耶子の体を静かに横たえて
いく。
 
 
  蒼い美少女の後について果てしない螺旋階段を下る流璃子は、遂に底までたどり
つく。蒼い水がそのまま凝固したかのような床と壁が延々と続く回廊。
  そこにはもう一人の少女が待っていた。にこやかに頭を下げる。二人になった案
内者が奥に誘う。二人の顔や背格好はまったく異なるが、共通するのは、二人とも
怖ろしいほどに美しいことだった。回廊の奥、巨大な扉が音もなく開くと、大広間
があった。燭台の明かりにぼんやりと照らされ、絨毯が伸びる先に、玉座が見えた。
その両脇には様々な美少女達がずらりと並び、流璃子の姿を見ると一斉に頭を下げ
た。
  「ようこそいらっしゃいおいました...主はあちらにおいでです...」
  玉座には細身の青年が座っていた。青白い肌、蒼い髪、青い瞳の凄絶といってい
いほどの美貌。
  「ようこそいらっしゃいました、流璃子。私が、東の王と呼ばれるものです。」
  静かに立ち上がり、穏やかな微笑みで一礼する。吸い込まれそうな澄んだ瞳に見
つめられて、思わず流璃子が頬を赤らめる。美少女達が運んできた華奢な椅子を、
優雅な挙措で勧める青年。流璃子は操られるように座ると、東の王と対座する。
  「いずれ来られることは承知しておりました。西の王、南の王を葬ってこられま
したね。」
  「あ、あの...あなたのお仲間のことは...決して私の本意ではなかったのですが
...」
  あくまで穏やかな東の王の声に、流璃子は自責の念すら覚える。
  「いえいえ...彼らは自らの行いに対する報いを受けたまでのこと。あなたが気に
病むことは何もありません...。」
  東の王は美しい首を振って静かに微笑む。
  「...あの怖るべき南の王は、私について何か言いましたか?」
  流璃子の胸に甦る南の王の最後の言葉。『東の王も...ともに...倒すが...いい』だ
が、流璃子はそれを告げることはできなかった。
  「い、いいえ...特には。」
  「そうですか......」
  天井を仰ぐようにやや首を上向きに傾げた東の王が瞑目する。しばし静止したそ
の姿は大理石の神像を思わせる。佇む美少女達は寂として声もない。
  「それで...私の命も、ご所望ですか...?」
  目を閉じたまま独り言のように呟くその姿は儚げだった。
  「そ、そんな。違います。お力を...お力を貸していただきたいだけです。」
  ようやく開かれた東の王の瞳が湛える悲しげな色。流璃子は慌てて否定する。東
の王は弱々しく笑う。
  「ははは...私の力など、堕天使達の帝国からすれば取るに足らぬものです。私は、
彼らの慈悲によりようやく生きながらえているようなものです。」
  「そんな...」
  反論しようとする流璃子をそっと遮り、儚げな笑顔のまま、言葉を続ける。透き
通った蒼い視線が流璃子の瞳を捉えて放さない。流璃子の瞳に薄い靄がかかってい
く。
  「私の侍女達...どうご覧になりますか?」
  「え...ええ、皆さんとても美しくて...驚きました。魔界にこのような人たちがお
られるとは...」
  「ははは......美しくて当然です。あの娘達は,堕天使達にその身を捧げるために
生まれてきたのですから...」
  「!な、なんですって......」
  「私が生み出したのですよ、あの娘達を。私の保身のためにね。」
  甘いため息。俯いた眼差しにかかる長い睫毛。
  「少々長くなりますが...私の話を、お聞きになりますか、流璃子...?」
  憂いをたたえた瞳。吸い込まれるように流璃子がうなずく。
  (東の王の話は、補遺 Monologue"Deep Blue" 参照)
 
  催眠力を伴う深みのある声が流璃子の心身にまで染み渡っていく。
  「......流璃子。美しいあなたの頼みに私の積年の計画は吹き飛びました。例え、
あなたにして差し上げられることが...共に戦い、共に滅ぶことであろうとも......」
  玉座から立ち上がった東の王は、ゆっくりと流璃子に歩み寄る。流璃子の心の奥
底まで覗き込むような深い瞳。流璃子の瞳孔が開ききり、その視線は何ものをも捉
えられなくなる。
  「...あ...」
  ふらりと姿勢を崩す流璃子。
  「...私は構いません、流璃子。あなたの為に死ねるなら本望です。我が命...あな
たに差し上げましょう...」
  正面に寄せた顔。そっと囁く東の王。
  「...ああ...」
  喘ぐような深いため息とともに、流璃子が陥落する。全ての力を失い、がっくり
と崩れ落ちようとする優美な身体。細い両腕でそっと支える東の王。
  「...行きましょう、我が寝室へ。愛し合いましょう、静かに......」
  美しい侍女達が音もなく開く扉。一斉に叩頭する侍女の列を抜け、流璃子を抱え
あげた東の王はゆっくりと寝室に向かう。
 
 
  「慎悟、意地を張っているときではないわ。三人で協力して戦いましょう。」
  「そうですの。力を合わせますの。」
  よろめく慎悟を庇って、哀華と璃音がシズマに立ち向かう。
  「鬼哭蔦絡根縛陣!」
  哀華が両手を地に付く。波動が大地を奔ると、シズマの足元から長く太い根が現
れ、みるみる両足に絡まっていく。哀華に向けて独鈷杵を投げるシズマ。
  「鬼哭暴歪風圧壁!」
  璃音の周囲から巨大な風の障壁が生じ、独鈷杵の軌道を乱す。
  「慎悟!」
  慎悟は両手を合わせ、一際青白く光る炎で長剣を作り出す。間合いに入るや、気
合いとともに一閃する。
  「いやあああぁっ!鬼哭炎殺一文字剣!」
  シズマの右足を、絡まった根とともに切断する。シズマの巨体が後ろにゆっくり
と倒れていく。
  「ガッ...ガガッ...コロスッ...コロースッ...ブッコロースッ!!」
  立ち上がろうともがくシズマに、続々と地中から現れる根や蔓が巻き付き、動き
を妨げる。
  「とどめだっ!」
  慎悟が上空高く跳躍し、シズマの心臓めがけて炎の剣を投げつける。
  ブシッ!!
  鎧を貫いた剣が、正確に心臓を貫く。
  「グオオオオッ......!!」
  シズマの口から鮮血が迸る。
  「やったわ...!」
  「やりましたの、慎悟さん!」
  勝利を確信した哀華と璃音が着地した慎悟に駆け寄る。その時。
  「...自我...崩壊確認...シズマ・ユニット再起動...」
  明らかに今までと異なる機械的な音声がシズマの口から漏れると、体に絡まる根
や蔓を引きちぎって、シズマが上体を起こす。右手で左胸に刺さった炎の剣を無造
作に抜くと、投げ捨てる。切断された右足を見つけると、切断面を接合する。
  「ま、まさか...」
  たちまち右足を復元し、何事もなかったかのように起きあがるシズマ。
  「...再起動成功確認...シズマ・ユニット自動戦闘モード...瘴気レベル最大...」
  シズマの目が赤く輝きだす。周囲に濃厚な瘴気が立ちこめていく。
  「な、なんですの?ゴッドサイダーなのに、瘴気が吹き出てますのっ!」
  「危険よ。下がって、璃音、慎悟!」
  なおもシズマに迫ろうとしていた根や蔓が次々と腐り落ちていくのを見て、哀華
が叫ぶ。
  黒々とした瘴気の渦の中、シズマが佇立する。が、突如残像を残して消え去り、
驚愕する哀華と璃音の目前に出現すると、目にも止まらぬ高速の拳を叩き込む。吹
き飛ばされた二人は、大木に体を打ちつけて地面に倒れ伏すと、そのまま動かなく
なる。
  「なっ...!」
  驚く間も与えず慎悟に迫るシズマ。貫手が右横腹の傷口を正確に捉える。
  「がっ...!」
  血を吐く慎悟。シズマは貫通した拳を握り締め、慎悟を逃がさない。傷口から鮮
血が迸る。シズマを包む瘴気の渦が腕に集中していくと、慎悟の体内に流れ込んで
いく。その激痛に慎悟が激しく身悶えする。
  「!ぐはっ!ぐ...ぐああああっ!があああああっ!」
  炎を纏った拳でシズマを叩く、足で蹴りつける。だが、微動だにしないシズマは、
なおも瘴気を送り込み続ける。
  慎悟が白目を剥き、泡を吹いて失神する。
 
 
  邪悪な笑みを顔に張り付かせたまま、いたぶるようにじわじわ眞耶子の衣服を剥
いでいく安生。
  「くくくく...うまそうに熟れてきてるじゃねえか...たっぷり楽しませてもらう
ぜ...」
  大きく虚ろに開かれた眞耶子の瞳は、いたずらに安生の笑みを写している。安生
の指が眞耶子の身体を這い始める。三年ぶりに触れる身体の様子を点検するかのよ
うな丹念な動き。髪や顔からゆっくりと撫で回していき、眞耶子の身体が少しでも
反応を見せるや、執拗にその部分を責め続ける。眞耶子の性感を引き出すことに暗
い情熱を傾ける男の手が、眞耶子の優美な双丘の麓にたどり着く。焦らすように螺
旋を描きながらゆっくりと登っていく指先。頂上近くの桃色の乳暈にたどり着くと、
指先が触れるか触れないかという微妙な感触で、乳暈の周りで執拗に円を描く。
  「ん...んん...あう...」
  眞耶子の呻き声とともに、乳暈が粟立っていく。そして、その中央では野苺のよ
うな可憐な乳嘴が紅を増しながら、徐々に立ち上がっていく。間近でその光景を堪
能していた安生は、辛抱できずに唇を近づけると、野苺を口に含む。舌と唇で丹念
に吸い、舐め、転がして賞味を始める。遠くに絶叫が響き渡った。
  「くっくくく...シズマ・ユニットは自動戦闘モードか......その方が優秀なようだ
な...」
  独りごち、なお乳嘴に対する口唇愛撫に没頭する安生。そのため、絶叫が響いた
瞬間、眞耶子の瞳が光を取り戻し、喘ぎ声をあげるために軽く開かれていた唇から、
白い靄のようなものが出て行くのを見落とす。靄は眞耶子の身体から抜け出すと、
森に向けて飛んでいく。眞耶子は魂が抜けたように静かに瞳を閉じると、その身体
は安生の与える刺激に一層素直に反応していく。
  「あふ...んん...ふうっ...はあっ...」
  「くくく...ずいぶん色っぽい声を出すじゃねえか...堪らねえぜ...」
  安生の細い指が滑らかな下腹を滑り、ゆっくりと秘苑へ忍び込ませていく。

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