「ADVENT」

題名:#4 蒼き沼の悪夢

第4話「蒼き沼の悪夢」下

  豪奢にして青系統で統一された落ち着いた寝室。流璃子は東の王に抱きしめられ
ていた。アポロンのような美青年の優しく、暖かく抱擁に、うっとりと瞳を閉じて
しまう。
  「流璃子...素敵な人だ。綺麗ですよ...流璃子...」
  囁く東の王の吐息が耳をくすぐる。ぴくっと首を仰け反らせる流璃子。
  「ふっ......は...あん...」
  「何と可憐な声...さあ、もっと聞かせてください...あなたの愛らしい声を...」
  「い...いけませ...ん...こんな......は、話を...もっと話をしなくては...」
  首を振って肩を押し返そうとする流璃子。だがその抵抗はあまりに弱々しかった。
  「私が待ち望んでいた方...これは運命なのです...」
  深い陶酔をもたらす東の王の声に、流璃子の心は止めようもなく傾いていく。
  「...で、でも...!ふあっ...あはあっ...だ、駄目えっ...」
  耳を軽く噛まれ、熱い吐息を吹きかけらる。しなやかな舌が耳穴に差し込まれ、
流璃子の身体がぶるっと震える。
  「流璃子...愛しい人...私のものにしたい...」
  東の王は、流璃子の身体を寝台へ誘う。金の縫い取りのある深い海の色がしみこ
んだような群青のシーツに、流璃子がそっと横たえられる。
  「...いけません...駄目です...ま、待って...下さ...い...」
  純白のワンピースに王の手がかけられると、流璃子の両腕が妨げるように添えら
れる。
  「さあ...あなたの肢体の全てを...私に見せてください...流璃子...」
  東の王の手がそっと流璃子の腕を握り、その手の甲に口づける。
  「あふうっ...!」
  体を走りぬける甘美な疼き。流璃子の抵抗が儚く止むと、両腕を頭上で一つにま
とめ上げられる。
  東の王の指が流璃子のワンピースをなぞるように動くと、ワンピースは触れられ
るそばから白い布片と化し、はらはらと流璃子の身体から舞い落ちる。
  「流璃子...さあ、私の愛を受け止めてください...」
  東の王の端正な顔が流璃子に覆い被さっていく。静かに触れ合う唇。甘い痺れが
全身に走り、うっとりと目を閉じてしまう流璃子。やがてその口づけは、次第に濃
厚なものへと変わっていく。
 
 
  深い闇の底への墜落。慎悟の意識は果てしない暗黒の底へ向かってと沈んでいく。
意識が闇に溶けようとしたその瞬間、光を纏った眞耶子の姿が現れる。
  「慎悟...堕ちては駄目...目覚めて...慎悟......」
  その呼びかけに慎悟の目が開く。
  「マー...ヤ?マーヤなのか...ここは...?」
  「ここはあなたの心の奈落......身体に注がれた瘴気によって、あなたは闇に堕ち
ようとしている......」
  「...そうか......あのゴッドサイダーに...マーヤ!君は...どうやって...ここに
...?」
  わずかに微笑む眞耶子。
  「...ま、まさか...幽体...離脱...?そんな...それは巫女だけの......」
  「聞いて...慎悟...私の体は今、安生というデビルサイダーに自由にされているわ
...」
  「!な、なんだって...!」
  「3年前に...私が...私が殺してしまった赤ちゃん...あいつは...そこにつけこん
で...私の表層意識を支配してしまった...」
  「...ま、待ってろ!今、俺が助けに行くから!」
  「...いいの...私は必ずあいつを倒す...そうすれば、ゴッドサイダーのコントロー
ルは解けるはずよ。...慎悟、意識を現実に戻して...あなたの体は激痛に苛まれてい
るでしょうけど...お願い...耐えて。そして、待っていて...」
  「...ああ、判ったよ、マーヤ。奴を倒して、すぐに君を助けに行く!」
  慎悟の魂が彼方の微かな光へと上昇に転じる。
  「必ずだ!必ず助けるから!」
  上方の光に溶け込むように消えていく慎悟の魂を見送って、眞耶子の幽体も静か
に消えていく。
 
 
  眞耶子の幽体が戻った時、安生の技巧により、眞耶子の全身はすっかり燃え盛っ
ていた。眞耶子の双脚の間に顔を埋めた安生は、指と舌と唇とを巧妙に使って眞耶
子の官能を責め苛んでいる。眞耶子はかっと瞳を見開き、凄まじい快感に激しく喘
ぐ。
  「!!うッ...はああッ...んああああッ...はあああッ...!」
  「ふふふふ...ずいぶん色っぽく泣くじゃねえか...堪らねえぜ」
  顔を上げた安生は、眞耶子の上気した切なげな表情を確認すると、唇を曲げて嗤
う。
  「...俺も最近はいい女にありついてねえからな...」
  濃厚なキスで唇を、口腔を思うさま蹂躙する。
  「んふッ...むう...んむう...ふうッ......はあああッ...」
  ようやく解放された眞耶子の唇から、熱いため息がこぼれる。安生は眞耶子の上
半身を起こすと、仁王立ちで,そびえ立つ雄渾を突きつける。
  「さあ、おしゃぶりの時間だぜ...」
  眞耶子の唇を割り裂くように、怒張を押し込んでいく。
  「...む...くぅ...くふ...」
  喉奥まで挿入され苦しげな表情を楽しみながら、眞耶子の頭を押さえ、ピストン
運動を開始する。
  「どうだ...うめえか...ふふふふ...うぉっ...」
  しなやかな舌が巻きつく感触に思わず声を上げる安生。蕩けるように暖かい口腔
をたっぷりと楽しむ。
  「最高の入れ心地だぜ、眞耶子...もう...いきそうだ...」
  眞耶子の頭を両腕でがっちりと抱え込むと、激しい律動を加える。
  ジュボッ...グジュッ...グチュ...
  苦しげな呻き声とともに、肉ずれのような淫猥な音が響き渡る。
  「おおッ...いくぞッ...眞耶子ッ...いくッ...!」
  安生は背を大きく反らすと、激しい発作とともに、欲望を眞耶子の口内に解き放
つ。
  「う、ううむッ...の、呑むんだッ...全部ッ...!」
  快感に引きつれた男の命令に、眞耶子は首を大きく仰け反らせ、噴射された夥し
い粘液を喉を鳴らして飲み干していく。
 
 
  「そろそろ...とどめといくか...」
  快感の余韻に一息ついた安生。すでに欲望の猛りは回復し、天を衝いてそそり立
っている。白く伸びやかな双脚を抱え、眞耶子にのしかかっていく。熱く硬い猛り
が花弁に押し当てられる。眞耶子の体がびくりと跳ね、腰がわななく。一気に貫い
ていく安生。熱い猛りを受け入れ、激しく体を仰け反らせる眞耶子。
  「ふッ...ふうううううッ!...はッ...はあッ...ああんッ...」
  巧妙な男の技巧に翻弄される眞耶子。安生は、深々と眞耶子を貫き通したことを
確認すると、両足を肩から下ろし、眞耶子の身体を抱きしめ、可憐な耳にいやらし
く囁く。
  「どうだ...いいか...眞耶子...」
  「ああッ...いいッ...いいですッ...安生さん...はああッ...!」
  荒い息づかいの間に、操られるように返答する眞耶子。
  「どこがいいんだ...言ってみろ...」
  「あんんッ...やッ...恥ずかしいッ...んあッ...!」
  羞恥に全身を桃色に染める眞耶子。安生は、黒髪を優しくかきなで、腰にひねり
を加えながら、卑猥な返事を強要する。
  「お×んこだろ?おま×こがいいんだろう?おまん×がいいって言ってみろ、眞
耶子」
  「んはあッ...やッ...ふうんッ...あふうッ...!」
  必死に首を振って抵抗する眞耶子。安生の腰から絶え間なく送り込まれる官能に、
背骨を貫かれ、全身を揉み抜かれるような快感に酔い痴らさせる。
  「言ってみろ...眞耶子...!」
  快感とともに加えられる暗示のような安生の囁きに、遂に眞耶子ははしたない言
葉を口走ってしまう。
  「んんッ...あうッ...い、いいのおッ...お、おま×こッ...いいッ...あああッ...やあ
ああッ...!」
  自分の発した言葉のもたらす羞恥に激しく身悶える眞耶子。安生は満足そうに微
笑み、さらにピストン運動を早めながら、言葉責めを続ける。
  「ふふふ...どうだ、眞耶子...俺は最高だろう...」
  「ああんッ...あ、安生さんッ...い、いいッ...いいですッ...はああああッ!」
  「何がいいんだ...眞耶子を可愛がっているものの名前を...いってみろ...」
  「あああッ...オ、オチ○コ、安生さんのオ○ンコですッ...うあああッ...やあああ
ッ!」
  猛烈な恥辱が眞耶子の全身を焼き尽くす。
  「ふふふ...俺の名は竜だ...竜いくわっていってみろよ...」
  「はあああッ...りゅ、竜さんッ...いいッ...いいッ...ま、眞耶子はッ...い、いって
しまいますッ...ふああああああッ!」
  「...赤ちゃん欲しい...俺の赤ちゃん欲しい...さあ、言ってみろ」
  「あッ...ふあああッ...あ、安生さんのッ...あ、赤ちゃんッ...ほ、欲しいッ...ひあ
ッ...やあッ...んんんッ!」
  安生の思うがままに操られ、屈辱の言葉を口走る眞耶子。
  「ふふふふっ...そろそろいくぞ...膣内(なか)に出してほしいか...ふふふ...」
  「あんッ...くふッ...な、中はッ...中だけはッ...!」
  「欲しいんだろう、眞耶子...」
  腰を激しく捻る。
  「んんんんんッ...は、はいッ...中にッ...中に下さいッ...!」
  「...よおし、いい子だ...ものすごく濃くて熱いのを...たっぷり出してやる...さあ、
いこう、一緒にッ!」
  安生の腰が前後左右に掻き回すように動き、ピッチが一段と上がっていく。眞耶
子の両腕は安生の背に回され、爪が食い込んでいく。
  「眞耶子...眞耶子ッ...ああッ、いくぞッ...ああッ眞耶子ッ!」
  「あ、安生さんッ...だめッ...いやッ...い、いくッ...いきますッ...あああああッ...
い、いくううううぅぅッ!!」
  眞耶子の背が弓のようにしなり、ブリッジを形作る。安生は、眞耶子の中心部に、
滾りたった欲望を叩きつける。
  ビュルッ...ビュクッ...ビュビュッ...ビュクンッ!!
  力尽き、がっくりと眞耶子に覆い被さる安生。眞耶子の両腕が優しく安城の体を
抱きしめる。だが。次の瞬間、眞耶子の下腹部に小さな白い光が生じると、みるみ
る輝きを増して膨れあがっていく。
  「な、なんだっ!これはっ!」
  慌てて起きあがろうとする安生だが、眞耶子の両腕が放さない。
  「は、放せっ!」
  腕をふりほどこうとする安生だが、すぐにその体は白光に飲み込まれていく。
  「馬鹿なっ!精神攻撃ですべての能力は封じた...はず...な...の...にっ...!ば...
ばか...な...」
  安生は光の中にその存在を溶け込ませ、白く消滅していく。巨大な光球が消えた
後には、よろめきながら立ち上がった眞耶子の輝くような美しい裸体だけがあった。
 
 
  慎悟は覚醒した。だがそこには、巨大なシズマの腕に横腹を貫かれ、瘴気を注が
れ続ける地獄のような苦痛だけがあった。
  「がっ!!がああああっ!!」
  絶え間ない激痛にもはや言葉を発することすらできない唇から、絶叫とともに鮮
血が迸る。あまり痛みに狂うことも許されない意識が、逃げ場を求めて再び闇の底
に沈み込もうとする。
  『だ......だめだ......約束したんだ......マーヤとっ!!』
  かろうじて繋ぎ止める慎悟の意識だが、苦痛によりのその思考はたちまち四分五
裂していく。
  「!......慎悟!」
  ようやく意識を取り戻した哀華が、目の前の惨状に息を飲む。
  「いけないっ!あれ以上瘴気を注ぎ込まれては......!」
  形の良い頭を激しく振って意識を統一すると、右手を大地に添える。
  「鬼哭忍法......地の奥義!尖岩槍天衝破!」
  哀華の腕から放たれた波動が地に深く染み込んでいく。突如、シズマの足下から、
鋭く尖った岩が槍のように突き出される。狙いたがわずシズマの右腕を捕らえた岩
槍は、ぶちぶちと音を立てて右腕を食いちぎりながら天を衝く。投げ出された慎悟
の体が崩れ落ちる。
  「慎悟!慎悟!しっかりっ!」
  奥義の発動に消耗した哀華がよろめきながら立ち上がり、慎悟に近づこうとする。
  「哀華さんっ、危険ですのっ!あいつまだ......!」
  上半身を起こしただけの璃音が指を指す。右腕を失ったシズマは傷口から瘴気を
噴出していたが、黒い煙のようなそれはみるみる物質化し、新たな右腕を形作って
いく。
  「そ...そんなっ!」
  青ざめた哀華のそばによろよろと近づいた璃音が、激痛に地面をのたうつ慎悟に
叫ぶ。
  「慎悟さんっ!それ以上は危険ですのっ。仮死の術をっ!撤退しますのっ」
  風の奥義を放つべく、両腕を天に掲げた璃音を、慎悟が制する。
  「がっ...はっ...ま、待て......璃音......待って......くれ......」
  慎悟は横腹に突き刺さるシズマの腕を力任せに引き抜く。出血が噴水のように噴
き出す。あまりの激痛に七転八倒し、全身を海老反らせて痙攣される慎悟。それで
も言葉を続ける慎悟。
  「マ、マーヤ......や、やくそく......か、かならず......たお...す......」
  その時、森の彼方から白い光が差し込む。光は強度を増して膨れあがっていく。
  「あれは......あれは、なんですの!」
  「あ、あいつの動きが......!」
  白い光が森を覆うほどに膨れ上がると、新たな右腕で慎悟にとどめを刺そうとし
ていたシズマの動きが止まる。
  『これだ!マーヤのくれたチャンスだ!』
  右手で横腹を押さえながら、蒼白の表情の慎悟が立ち上がる。塞いだ右手を染め
て、瘴気を浴びたどす黒い血が音を立てて地面にこぼれ落ちる。慎悟は両手を上空
に掲げ、上段の構えを取る。青白い炎が激しく吹き上がり、長剣を形作っていく。
  ずるっ......!傷口から内臓がはみ出していく。苦痛を忘れ、渾身の跳躍を行う慎
悟。シズマの頭上高く飛び上がるや、脳天に長剣を振り下ろす。
  「火の奥義!紅蓮灼尽斬!」
  ズッ...ズズッ......ズズズズッ......!
  シズマの体を縦に両断した炎の剣が股間までを切り下げる。シズマの体は二分さ
れ、朽木のように左右に倒れていく。倒れながら、業火に包まれていく巨体。
  全ての力を使い切った慎悟は、受け身も取れぬまま全身を地面に叩きつける。駆
け寄った哀華と璃音が体を抱え、体を引きずるように安全な場所に移す。
  「すぐに手当てを...」
  「で、でも...哀華さん...もう...手の施しようが...ありませんの」
  全身の血を失い、腹から臓器を夥しくはみ出させた慎悟は、既に息がなかった。
  「そんなっ...慎悟っ!」
  慎悟の体に取りすがる哀華の手が赤く染まる。その時、気配に気づいた璃音が背
後を振り向く。涙に濡れた璃音の瞳に、眞耶子の裸体が映った。その体は、ぼんや
りと白い輝きを纏っていた。
  「ま、眞耶子さんっ...」
  立ちすくむ璃音の横を通り過ぎると、慎悟の側に跪き、その手を取る眞耶子。
  「慎悟...あなたは死なないわ...私が...私が護るもの...」
  眞耶子の瞳から涙が零れ落ちる。
  「姉さま...ああ、姉さま...許して...許して下さい...ずっと私を見守ってくれた慎
悟を...見捨てることは...私にはできません...すぐに...すぐに参りますから...」
  慎悟の頬に赤みが差していく。
 
 
  二人の唇がほどけ、細く透明な糸を引く。見詰め合う流璃子と東の王。流璃子の
瞳にはもはや抗いの影はなかった。
  「...ああ...」
  深く熱い陶酔のため息が流璃子の唇からこぼれる。
  「素敵なキスでしたよ、流璃子。さあ、あなたの全てを見せてください......」
  東の王は体を離すと、流璃子の全身に視線を走らせていく。いつの間にかあられ
もない姿にされていたことに気づいた流璃子は、全身を桃色の羞恥に染め、下肢を
捻り、両腕で胸を隠す。
  「ああっ...わ、私...どうしてこんな...見ないで...見ないでください...ああ...恥ず
かしい...」
  「恥ずかしがることなどありません。私の素体のどれよりも美しい...さあ、愛さ
せて下さい...その全身を...」
  東の王の端整な顔が流璃子の細い左の首筋に近づき、そっと口付ける。
  「ああっ...!」
  口付けを受けた部分から甘い疼きが全身に走る。東の王の唇は、静かに、ゆっく
りと口付けを重ねながら、首筋から胸元に向けて降りていく。流璃子の両腕は、東
の王の白い肩を押し返そうとするが、全く力は入らず、そっと触れるだけになって
いる。王の唇が鎖骨をなぞる。
  「あはあっ...だ、駄目です...そ、それ以上は...!」
  全身を走る甘美な刺激の深さに怯える流璃子。だが、東の王の青く澄み切った瞳
に見つめられると、流璃子の唇は拒否の言葉を紡げなくなってしまう。王の唇が胸
元を斜めに横切っていき、右腕に下りていく。
  「失礼しますよ...流璃子。あなたの背中も見せてください...」
  右腕をめぐるように口付けると、そっと流璃子の体をうつぶせにしていく。協力
するかのように、自ら体を回してしまったことに狼狽する流璃子。東の王の唇はな
おも流璃子の肌に吸い付くように這い進んでいく。唇が背骨の一つを捉える。瞬間、
流璃子の体がびくりと震える。
  「ん...ふっ...くふっ...んんんっ...」
  甘美な、しかし決して激しくは燃え上がらない埋火のような官能に、流璃子はむ
ずかるような声を上げてしまう。うつぶせにされた顔を左右に振る。指がシーツを
掴み締める。東の王は、口付けで背中を横断しきると、再び流璃子を仰向けにする。
火照った頬を隠すように、流璃子は両手で顔を覆う。
  「どうしたのです?薔薇色に上気した美しい顔を見せてください、流璃子...」
  「...い、いや...恥ずかしい...見ないで...お願い...」
  「恥じらう姿も素敵ですよ、流璃子...」
  くすりと笑った東の王は、左の腕から、美しいカーブを描いてくびれるウエスト
に唇を移す。ぴくりと弾けるように体を反らす流璃子。東の王の口付けは二周目に
入り、胸乳の下を静かに這っていく。優しく膨らむ双乳に責めが及ばなかったこと
に安堵しながらも、流璃子の神経は東の王の唇が触れる部分に集中していく。その
唇が通り過ぎた跡には、残り香のような甘美な疼きが留まり、流璃子の官能を一層
高めていく。優美な形をした臍の上を通り過ぎた唇は、腰骨を吸い、流璃子の右手
首を回ると、再び背面にされた流璃子のヒップに回っていく。美しい青年による、
これまでにない静かで、丹念な愛撫に、流璃子の官能は静かに、だが止めようもな
く燃え上がっていく。
 
 
  美青年の唇が描く優雅な螺旋は下半身に迫り、ついに流璃子の花園に近づいてい
く。陶酔に囚われていた流璃子がそれに気付き、激しく狼狽する。
  「ああっ...い、いけませんっ...そこは...そこだけは...許してっ...」
  くなくなと腰を振り、肌に吸い付く唇を引き剥がそうとする流璃子。
  「煙るような美しい花園ですよ、流璃子。さあ、そこに口付ける栄誉を私に与え
てください...」
  「だ、駄目です...そ、それだけは...い、嫌あっ...」
  流璃子の両手が、今にも花園に覆いかぶさろうとする東の王の頭を押さえる。王
は、あえてその抵抗を封じることもせず、ぎりぎりの微妙な部分の愛撫を繰り返す。
潮のように満ちては引く快感に、流璃子の抵抗は次第に弱まっていく。
  「やめて...んんっ...んあっ...か、堪忍...ふああっ...」
  東の王の唇が薄紫の下草に触れる。そのすぐ下には、桃色の可憐な芽が秘めやか
に隠されている。流璃子は堅く瞳を閉じるが、神経はその一点に集中していく。だ
が、王の唇はそのまま流璃子の右脚の太腿に流れていく。
  「......?」
  安堵とともに、微かに物足りなさを訴えるような光を宿した流璃子の瞳が、東の
王の涼やかな瞳と見つめあう。
  「ふふふ...流璃子。楽しみは後に取っておくことにしましょう...」
  「た、楽しみなんて...そんな...」
  否定する流璃子になおも口唇愛を加えながら、東の王の唇が描く螺旋は、流璃子
の下半身をゆっくりと降下していく。
 
 
  どれほど時間が経過したことだろう。いつしか流璃子のくるぶしが王の唇に捉え
られ、吸われていた。甘美な疼きは今や全身を覆い、流璃子の官能は火のように燃
え盛っていた。華奢な指を噛み、はしたない言葉が思わず口を出そうになるのを必
死にこらえる流璃子。東の王はゆっくりと半身を起こし、流璃子に寄り添うようと、
薔薇色の熱い頬に頬ずりをする。
  「...儀式は終わりましたよ...流璃子...ふふ...あなたの全てを隈なく見せてもら
いました...思った通り、すべてが美しく...愛らしい...」
  「い、いやあっ...おっしゃらないで...は、恥ずかしい...」
  「さあ......もっと深く愛し合いましょう...」
  不意に体の向きを変える東の王。その動きをいぶかった流璃子が、美青年の意図
に気付いて驚愕する。
  「!...そ、それは...!」
  「互いを唇で互いの秘所を愛し合う...今の私達には造作もないことですよ...」
  逆ざまに覆い被さる美青年の身体。流璃子の目前に、思いがけなく逞しい猛りが
突きつけられる。
  「な...!だ、駄目ですっ...そんな...で、できません...?!ひあッ!」
  頬を染めて目をそらして拒絶する流璃子を衝撃が襲う。美青年が流璃子の花園に
顔を伏せ、唇が花弁を捉えたのだ。
  「あ...そ、そんな...あうッ...だ、駄目えッ...あはああッ...やッ...いやあッ...くふ
うッ...や、やめてえッ...!」
  必死に首を振って官能の襲来を拒む流璃子。だが、繊細な部分への口唇愛は、情熱
的に続けられる。快感の拷問に、流璃子は耐えきれなくなる。
  「んんんんッ...いやッ...ああ駄目ッ...はああああッ...ああんッ...ふあああッ...」
  首を仰け反らして激しく喘ぐ流璃子。その唇に、東の王のものが近づけられる。
焦点の合わない目で見つめる流璃子。遂に火のような熱い肉棒が可憐な唇に触れる。
  「そう...包み込んでください...あなたの愛で...」
  ふと顔をあげて囁くと、再び愛撫に没頭する東の王。その唇と舌がもたらす性感
に、流璃子が堕ちる。自ら王の猛りに口づけると、ためらいながらも唇を開き、おず
おずと、しかし深々と呑み込んでいく。
  「おお...光栄です流璃子...おおう...なんと滑らかな...」
  東の王が感嘆の声を放つ。シックスナインというこの上なく卑猥な姿勢。だが二
人のそれは神々しいほどに美しかった。果てしなく続けられる口唇愛撫に、どこま
でも堕ちていく流璃子。
  どれほどの時間が経過しただろう。果てしない快楽の責めの後、ようやく身体を
起こす東の王。
  「...あはああ......」
  深々と挿し込まれていた欲情の証が名残惜しそうに引き抜かれ、流璃子が深いた
め息をつく。流璃子の愛に濡れに濡れた顔を流璃子の火照った顔に近づける美青年。
  「とても可愛かったですよ...流璃子」
  いやいやをするように首を振る流璃子の薔薇色に染まった耳に唇を近づけ、微笑
みを浮かべて何事かを囁こうとする、その時。
 
 
  蒼い寝室に白い輝きが走る。眞耶子の放った破魔の光。それはあまりに遠く、深
い沼のにあるこの場所を照らし出したのはほんの一瞬に過ぎなかった。だが、流璃
子の意識が覚醒させるには充分だった。流璃子を抱きしめていた美しい東の王の顔。
その姿がぼやけ、歪むと、蒼く巨大な蛇の頭がそこにあった。金色の目に、細長く
黒い瞳孔が流璃子を見つめる。口からは、二股に分かれた青紫の舌がちろちろと出
入りしている。
  「!!...きっ...きゃああああっ...!!」
  絹を裂くような悲鳴を上げ、醜怪な化物から必死に逃れようとする流璃子。だが、
蒼い大蛇はその長い胴をしっかりと流璃子の体に巻きつけ、離さない。大蛇は舌を
出し入れしながら告げる。
  「おやおや...あれほど深くかけたはずの術が解けてしまうとは。先ほどの光のせ
いですね......流璃子には最後まで甘い夢を見せて差し上げたかったのに......無粋
な事をするものですね......」
  美青年の姿の時と全く変わらない深い魅力的な声が、却って不気味さを際だたせ
る。
  「離して...離して下さい...!!」
  流璃子の全身に鳥肌が立つ。これまでの陶酔が深かっただけに、嫌悪の情は凄ま
じかった。
  「残念ですが、駄目です。私の愛技はこれからが本番なのですから。」
  大蛇に巻きつかれ、逃れられない全身を必死に捩り、揺さぶる流璃子。その恐怖
に怯えた表情をじっと見据える金色の目。これまでの愛撫が気味の悪い大蛇に加え
られてきたかと思うと、全身が総毛立つ思いの流璃子。だが、裏腹に、熾火のよう
な官能の高ぶりは容易にその体を去ろうとはせず、むしろいっそう激しく燃え立と
うとしていた。
 
 
  大蛇が流璃子の乳房を咥える。先端が針のように鋭い牙が乳嘴に食い込み、甘美
な媚毒を注入していく。
  「きゃあっ...!くっ...?...くはっ...ふうんっ...」
  痛みはなかった。かわりに甘美な疼きが全身を痺れさせていく。ちろちろと出し
入れされる二股に分かれた青紫の舌は、乳嘴と乳暈を這い、しゃぶる。快感が走る。
  「や、やめて...んっ...くふっ...はあっ...」
  もう一つの乳房も生け贄とされ、乳嘴に加えられる媚毒と舌の愛撫によって流璃
子の快感が倍加する。仰け反って、全身を痺れさせる流璃子。
  「ふッ...あッ...あふッ...あああッ...だ、駄目ッ...やあッ...い、嫌あッ...!」
  全身を駆けめぐる媚毒にがくがくと全身を震わせる流璃子。体が熱く、汗ばんで
いく。巻きつく蛇身の鱗の冷たさをつい心地よく感じてしまう。しかし、冷たい蛇
体の一カ所にだけ、灼熱を感じる。神秘の花園に押し当てられる、硬く熱い欲望の
怒張。
  「流璃子...私ももう我慢できません...さあ、一つになりましょう...!」
  下肢を縛めていた大蛇の体が離れると、改めて片足だけを巻き取っていく。大き
く広げられた足の付け根。その羞恥の花弁に熱いものがぴたりと押し付けられる。
灼熱感に息を呑む流璃子。
  「さあ...私の熱い想いを...あなたへの愛を...その身に受け入れてください...!」
  大蛇の媚毒によって全身を揉み抜くような官能に囚われる流璃子。火のような疼
きに襲われた花弁は、流璃子の意志をあっさりと裏切り、大蛇の欲望を受け入れる
ことを求めてしまう。
  「だ、駄目ッ...んあッ...そ、そんな...くふッ...受け入れるなんてッ...あはあッ...
い、嫌ッ...嫌あッ...ああうッ...出来ませんッ...」
  呼び起こされた雌の本能に激しさに、必死に耐える流璃子の理性。
  「...まだ足りませんか。それでは...」
  大蛇は一瞬流璃子の縛めを解き、体を入れ替えて改めて巻きつく。流璃子の顔に
熱いそれが押し当てられる。蒼い鱗に覆われた猛りを眼前にして、激しく狼狽する
流璃子。それだけでなく、今や流璃子の秘密の花弁が大蛇の瞳に覗き込まれいるこ
とに気付くと、先ほどとは全く異なる灼熱の恥辱が全身を焼く。
  「はあッ...駄目ッ...み、見ないでッ...やあッ...!!...はああああッ...くはッ...あ
ふううッ...!」
  「あなたの愛らしい花園は、先ほども見せていただきました...恥ずかしがる必要
などありません...」
  二股の細長い舌が花弁の奥まで差し込まれる感覚に流璃子の体が激しく仰け反
る。さらに、大蛇の毒牙が可憐な花芯に差し込まれる。痛みはなかった。だが、過
敏過ぎる蕾に注入される媚毒が、流璃子の官能を激しく揺さぶっていく。
  「ああッ...だ、駄目ッ...あんんッ...んんんんッ...あはああッ...あうううううッ
...!」
  顔を激しく左右に振って、官能から逃れようとする流璃子。だが、可憐な抵抗を
嘲笑うように、大蛇は口先を花弁の中に押入れ、揺すりたてる。
  「ああああッ!」
  流璃子の理性を裏切り、流璃子の下肢は一杯に開かれ、はしたなく快楽への欲望
を示してしまう。そして、激しい快感の喘ぎに大きく開かれた可憐な唇に、機会を
窺っていた大蛇の醜怪な猛りが、押し入ってくる。
  「?!...だ、駄目ッ...うむむむむッ...むうッ...んむうッ...!」
  驚愕に見開かれた流璃子の瞳。必死に押し出そうと抵抗する流璃子の舌や唇を嘲
るように、小刻みに律動しながら奥深くに侵入していく猛り。真珠の粒のような美
しい歯を当てるも、猛りを覆う鱗には文字通り歯が立たない。やがて咽喉奥にまで
挿入された猛りは、激しくピストン運動を開始する。苦しさに顔を歪める流璃子。
だが、その一方で、その下半身は絶え間ない快感に悩ましく悶えてしまう。双脚に
断続的な痙攣が走り、両足首が引きつるように伸ばされる。
  「流璃子...心地よいですよ...いきそうです...さあ、私の愛を...飲み干してくださ
い...くうッ!!」
  「!むうッ...むむうッ...んんんんッ...!」
  必死に首を振って拒否の意思表示を試みる流璃子。しかし。
  ドビュッ!ビュビュビュッ!ビュルッ!
  忌まわしい欲望の飛沫が奥まで激しく叩きつけられる。その夥しい量に溺れる流
璃子。吐き出すことを許されない流璃子の咽喉は、美しい主の命を救うため、おぞ
ましい獣欲のしたたりを次々と飲み込んでいく。
  ...くん...こくっ...こくんっ...こくっ...
  流璃子の目に汚辱の涙が浮かび、目尻を伝い落ちる。だが、咽喉を滑り落ちる粘
液は、急速に体内に吸収されると、全身を駆けめぐって流璃子の官能をさらに掻き
立てていく。熱く激しい呼吸。上気する頬。潤んだ瞳。全てが欲望に染まっていく。
 
 
  「準備は整ったようですね...それでは...最後の儀式を始めましょう...」
  すっかり力を失った流璃子の全身を解放すると、大蛇は再び流璃子の顔を覗き込
みながら、全身を纏わりつかせていく。あれほどの欲望の放出後も、まったく勢い
の衰えない蛇淫の猛りが、再び羞恥の花弁に押し当てられる。充血して鮮やかな紅
色に染まった花弁を押し分け、ゆっくりと侵入していく青鱗の欲望。流璃子の咽喉
が大きく仰け反る。
  「あッ...あッ...ああッ...ああああッ...!」
  深々と貫かれた衝撃に全身を痺れさせる流璃子の耳穴に、青紫の舌を挿し込みな
がら、大蛇が囁く。
  「ああ...遂に一つになれました...なんと暖かい...流璃子の胎内がこんなにも優
しいとは...素晴らしい...素晴らしいです...」
  呻くように感嘆の声を上げる東の王。開始される律動に翻弄される流璃子。
  「ああッ...んあッ...ああんッ...ふあッ...ひあッ...あはああッ...!」
  自由自在な欲棒の動き。大蛇の思うがままに操られてしまう流璃子があられもな
い姿態を見せる。
  「あはああッ...こ、このままではッ...あふッ...あ、あなたはッ...ああああッ...!」
  必死に言葉を紡ごうとする流璃子。
  「ふッ...くッ...あ、あなたの浄化の光で消滅してしまう...そう言いたいのでしょ
う?流璃子...」
  かろうじてうなずく流璃子の顔を見つめ、そっと耳たぶを咥える大蛇。長い舌が
耳穴に深く挿し込まれる。
  「!...はあああッ...そ、そんなことしちゃ...だめッ...い、いっちゃうッ...やあッ
...あはああッ!」
  「ううッ...いいのですよッ...あなたと...うむむッ...一つになれるなら...くうう
ッ...死すら...本望ですッ!」
  余裕のなくなってきた大蛇が、ラストスパートに入る。官能の虜となった流璃子
の精神が再び幻影に捉えられ、流璃子の前に美しい青年の姿の東の王の姿が甦る。
  「さあ、いきましょう、一緒に、流璃子ッ...!」
  端整な顔。深い声。吸い込まれるような青い瞳を見つめながら、流璃子の性感も
絶頂に向けて昂ぶっていく。
  「やあッ...いきそうッ...はああああッ...だめッ...あはああッ...いっちゃうッ...
やあッ...!」
  「流璃子ッ...私はッ...もうッ...ああッ...流璃子ッ!流璃子ッ!うああああッ
...!!」
  東の王は、端整な顔を一瞬歪めると、流璃子をひしと抱きしめ、その欲望の滾り
を放つ。
  ドクッ...!ドクッ...ドクン...ドクン...!
  直前に一度放ったとは思えないほどの量の粘液が、流璃子の清らかな胎内を犯し、
満たしていく。
  「いっちゃうッ!...あああッ...い、いきますッ!...ふあああッ...あッ!...あああ
ああぁぁッ!!」
  遂に絶頂に捉えられた流璃子が激しく全身を引きつらせる。高々と美しいブリッ
ジが形作られる。下腹部に生じた白光が、輝きを増していく。膨れ上がっていくそ
れは、みるみる蒼い寝室を飲み込み、沼そのものまでも飲み込んでいく。
 
 
  透明な水を湛えた沼のほとりに立つ流璃子。輝くような裸体を白い光が優しく包
み込む。だが、その光は急速に薄れると、流璃子は青黒い巨大な蛇に全身を巻き取
られている。それは、流璃子の全身に浮かび上がった蛇の刺青であった。優美なラ
インを描く左の首筋に刻まれた大蛇の頭。目が爛々と輝く。
  「ははははッ...再会を祝しましょうか、流璃子。いや...母上と呼んだほうがよろ
しいですかな...?」
  聞き覚えのある東の王の声が流璃子の心に響く。
  「...!!」
  呆然と声もない流璃子にさらに声が続ける。
  「成功しました...我が肉体は完全に消滅し、あなたの力の糧となりましたが...私
が丹精込めた秘蔵の精子は、私の精神を乗せてあなたの卵子と結合し、受精卵とな
りました...。」
  呆然と立ちすくむ流璃子に構わず、王は高らかに謳い続ける。
  「あなたの体内に注がせていただいた私の牙の毒液と精液は...催淫効果ととも
...排卵を誘発する効果もあったのです。浄化の光といえど...あなた自身の一部であ
る受精卵まで消滅させることはありません......」
 
魔の受胎告知。
 
  東の王の想念が流璃子の心に送り込まれる。清らかな卵子に潜り込んでいくおぞ
ましい精子のビジョン。恐怖が流璃子の心身を鷲掴みにする。
  「あなたの肉体を支配するのは、私が精魂こめて全身に施して差し上げた蒼き蛇
の紋章......流璃子...あなたは逃れられません...。私はこの上なく心地良く暖かなあ
なたの子宮の中で、優しく育まれながら、再び生まれ出る日を待ちましょう...」
  東の王の唇によって流璃子の全身に描かれた蛇の紋様が一際輝きを増し、流璃子
の意識に急速に卵割を繰り返し形を変えていこうとする受精卵の映像が鮮明に浮
かび上がる。かつてない衝撃に竦み上がった流璃子の理性が次第に混濁していく。
  「...私は今、素晴らしい速度で成長を始めたところです......妊娠おめでとう流璃
子。...出産の日は遠くありません......」
 
妊娠。
 
出産。

 
  遂に理性が恐怖がもたらした混沌に呑み込まれる。流璃子は意識を失い、美しい
裸体が力なく崩れ落ちる。全身を飾る蛇の刺青はさらに輝きを増していく......。
 
  (第四話終了)

小説リスト