「ADVENT」

題名:外伝「哀なる愛の華」

外伝「哀なる愛の華」2

青嵐の章(愛華十二歳)

愛華の日記より

○月×日
  今日、私は女になった。お姉さまはやけに喜んでお祝いしてくれたけど、私はあ
まり嬉しくない。うっとうしいし、気分も良くない。こんなことがずっと続くなん
て、憂鬱。子供を産める身体になったっていうけど、私は子供なんか産むつもりは
ない。私は強くなりたいのに。もっともっと強くなりたいのに。お父様も、お姉さ
まも、ちっちゃな璃音も、そしてあの人さえも守れるくらい......

○月×日
  同世代の男の子達は、前から幼稚だと思っていたけど、本当にだめだ。私を捕ま
えることすらできない。戦士に男も女もないけど、弱い男なんて何の役にもたたな
いじゃない。スメラは尚武の里なんだから、ちゃんと修行して強くなるべきだ。ア
イダから来たあの人のように。

○月×日
  今日はお祭り。宴会の席で、お父様とあの人が議論していた。私にはよくわから
ないけど、けんかではなくて、鬼哭一族の今後についての言い合いらしい。スメラ
の里は、昔から最終戦争の時に神の側について戦うために力を磨いているって聞い
ている。あの人は、宗家をはじめ、スサやアイダにもスメラと同じ方針を勧めるべ
きだと言っていた。お父様はそれぞれの里にはそれぞれの事情があると言って、気
が進まないみたいだった。あの人はアイダ出身だから、やはりアイダの行く末が気
になるのだろうか。私は他の一族にも、一族以外の人間にもまだ逢ったことがない
から良くわからないけど。

○月×日
  今日、バケボノを見かけた。断崖で修行をしていたら突然現れたのでびっくりし
た。あの人に負けてから、口の悪い男の子達に「マケボノ」なんて囃し立てられて、
里を逃げ出してから長い間姿を見せなかったけど、やっぱりまだ里の周辺にいたん
だ。何となく危ない気がして隠れてやり過ごしたけど、相変わらず醜い顔と肥満体
だった。一心に前だけを睨みつけて歩いていたけど、目がやけにぎらぎらと輝いて
いた。そういえばあいつ、お姉さまに気があったんだ。お姉さまが、ある日衣服を
乱して泣きながら帰ってきたのを思い出す。危なく逃げたそうだけど、それからは、
誰にでも優しいお姉さまも、あいつにだけは近づこうとしなかった。今度逢ったら
油断しないようにしよう。

○月×日
  スサの使者とかいう人が来た。今夜はまだ宴会の最中だけど、挨拶が終わったら、
子供は寝る時間だと追い出された。早く大きくなりたい。族長の娘として、一人前
の戦士として、あの人からも一目置かれるように。

○月×日
  スサの使者からの話があるというので、みんな広場に集まった。その人が言うに
は、宗家の一族の長は、一族の滅亡を決定し、スサの一族もそれに倣うのだという。
自分はそれを伝えに来た。スメラとアイダがどうするかについては、それぞれが決
めることであるが、我々は今後数十年かけてゆるやかに消滅していくことになるだ
ろうと言っていた。どういうことなのかよくわからない。あの人に聞いたら教えて
くれるだろうか。

○月×日
  久しぶりにお姉さま一家が来る。璃音ももう二歳。可愛くてしかたがない。私が
生まれた時にお姉様は十二歳で、ずっと私を育ててくれたのだ。そう思えば、私が
璃音の世話を焼いてもおかしくはない。子供なんて嫌いだけれど、璃音だけは別。
璃音を見ていると、子供を産むのもいいかなと思ってしまう。どうして私は璃音が
好きなのだろうか。私のめいだからだろうか。私が璃音をかまっていると、お姉さ
まがすごく嬉しそうにしているからだろうか。それとも......あの人の血を引いてい
るからだろうか。

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 中天からの強い日差し。飛沫が光にきらめく急流で、愛華が人魚のように流れを
遡る。一緒に泳いでいた少年達は遙か後方に置き去りにして、愛華はひたすら上流
へ上流へと遡っていく。岩の狭間から激流が迸る源流に辿り着いた愛華は、大きな
岩場で身体を休める。すらりと伸びた手足を奔放に広げて平たい岩の上に横たわる。
薄物を透して夏の太陽が冷えた愛華の身体を暖めていく。日焼けを気にすることも
なく、その心地よさにうっとりと目を閉じる愛華。
  (気持ちいい......)
  ころんと寝返りを打ってうつぶせになる愛華。頬を岩肌に押し当てる。
  (義兄さん......首尾はどうかしら......)
  今朝早く、剛蔵は近衛の戦士隊を率いて狩猟に向かっていた。野外演習を兼ねた
恒例の行事だったが、里人が総出で見送るのは珍しかった。
  (義兄さんも、すっかり里に溶け込んだわね。)
  結婚当初は里の者にも気兼ねや距離感があったものの、剛蔵の豪快で大らかな性
格はすぐに若者たちの心を引き付けた。そして、他里の者が若統領となったことに
いい顔をしていなかった気難しい乙名達も、スメラに溶け込もうとする剛蔵の努力
を認めずにはいられなかった。その影に、里人全てに慕われている姫香の多大なる
内助の功があったことは言うまでもない。
  荒ぶる魂を鎮めかねた若き日の剛蔵は、好奇心と野心のおもむくままに里を飛び
出し、世界中を放浪したが、その間の多くの人との出会いや体験が、その性格から
圭角を取り去り、代わりに寛容さや包容力を身につけさせていった。そして、剛蔵
は姫香と出会って、これまで決して満たされることのなかった心の渇き-すなわち、
真の愛を得ることができたのであった。
  姫香は完全に心を委ね切れる強く優しい男を、剛蔵は自分を包み込む深い愛を得、
相互に信頼と敬意で強く結ばれる理想の夫婦関係を築いていた。
  (......ったく、子供もできったってのに、いつまでもお熱いんだから......)
  二人のことを考えると自然と苦笑が漏れる。いつまでも新婚のような初々さを残
す剛蔵と姫香だった。だが、愛華にも、二人が相互に深く尊敬し、思いやっている
ことは容易に見て取れた。
  (......ま、お似合いの夫婦ってことなのかしらね......)
  再び仰向けになった愛華は、いつしか軽やかな寝息を立てていた。

 どれほど時間が経過しただろう。ふと日差しが翳り、微かな寒気を感じて愛華が
目覚める。太陽を覆っていたのは、雲ではなかった。
  「あっ...!」
  醜く膨れあがった顔が愛華の眼前にあった。剛蔵との戦いの後、里を逐電した汰
狼が、冥い瞳に獣欲を滾らせて愛華の寝顔を覗き込んでいた。
  驚いて逃れようとする愛華の両腕を、汰狼の手が掴み締める。磔にされたように
岩の上で両腕を広げさせられる愛華。
  「ぐふうう...」
  汰狼の目が細められる。どうやら笑ったようだ。半開きとなった巨大な口からは、
強烈な口臭とともに大量の涎がこぼれ落ちる。汰狼がぐんぐん顔を近づけていく。
  まさに唇を奪われようとする寸前、愛華は勢い良く両膝を折って胸元に引きつけ
ると、つまさきを伸ばして一気に上空に向けて突きだす。見事に汰狼の鳩尾を捉え
たつま先が天に伸びる。
  「ぎょえええっ」
  奇声とともに汰狼の巨体が宙に舞う。
  「ぐおえっ」
  宙を一回転岩に叩きつけられる汰狼の傍らで素早く立ち上がった愛華は、青ざめ
た顔ですぐさま逃走に入る。
  「ぐおうっ...蔦絡根縛陣!」
  背後からの吠えるような汰狼の叫び。同時に愛華の周囲の岩が突如硬度を失って
ぐにゃりと溶け出すと、触手のように愛華の手足に絡みついていく。
  「!!」
  がんじがらめに縛められる愛華。だがその一瞬後、愛華は岩の触手をふりほどく
と再び駆け始める。自分同様、愛華も地の属性であることを悟った汰狼が、地響き
を立てて追いかけ始める。

 愛華は疲労困憊していた。逃げる先々で大地は裂け、草木は絡みつき、岩が槍の
ように突き上げてくる。そのことごとくを中和し、無効化してきたものの、注意力
と精神力を大きく割かれた愛華は逃走に集中できず、後ろから迫ってくる汰狼との
距離はどんどん狭まっていく。里に入る手前の最後の岩場で、ついに汰狼の右手が
愛華の右腕を捉える。そのまま愛華の身体を空中で振り回すと、思い切り岩場に叩
きつける。
  「きゃああああっ!」
  愛華の悲鳴に興奮した汰狼は、残忍な笑みを浮かべるや、繰り返し愛華の身体を
岩に叩きつける。やがて愛華が気を失って動かなくなったことに気付くと、岩場に
放り出し、乱暴に薄物を引き裂いていく。まだ幼いながらも、徐々に女性らしさを
示しはじめた、早春の蕾のような華奢な全身が露わにされていく。無惨にも身体の
あちこちから鮮血を滲ませた華奢な身体は、人形のようにぴくりとも動かない。
  「ぐへへへへっ...あ、愛華も...いい感じになってきたじゃねえかあ...」
  下卑た哄笑を発しながら汰狼が愛華の全身に視線を走らせる。
  「昔、邪魔をした報いだぜ...ひ、姫香の代わりに...おめえをいただいてやるぜ...
ありがたく思いな...ひぇっへっへ...」
  汰狼の太い指が伸び、愛華の幼い肢体をまさぐり始める。薄い愛華の胸を無理矢
理に揉み込んでいく。二本の指で小さな乳首をつまむと、こりこりとこねくり回す。
やがて汰狼はゆっくりと分厚い唇を愛華の顔に近づけていく。
  「んん......んっ......!!...んんんんっ!」
  息苦しさに意識を取り戻した愛華は、珊瑚色の小さな唇に汰狼の醜い唇が強く押
し付けられているのに気付く。奪われてしまったファーストキス。それどころか、
汰狼の巨大な蛭のような舌は、真珠の粒が並んだような歯列をこじあけて、愛華の
口腔内に侵入しようとしている。
  「んんっ...んむうっ...!」
  不気味な感触に怖気を震いながら、必死に手をつっぱらせ、顔を背けて汰狼から
逃れようとする愛華。だが、何度も岩に叩きつけられた全身には打撲による鈍く重
い痛みが走り、力が出ない。汰狼の巨体ががっちりと押さえ込まれた身体はびくと
もしない。やがて力尽きた愛華の顎を強引に押し開いて、汰狼の舌がぬるりと口腔
内に入り込んでいく。柔らかな口内をはい回る汰狼の生暖かい舌の気味の悪い感覚
に、全身に鳥肌を立てながら必死に噛みつく愛華。だが、おそろしく強靱な汰狼の
舌は、愛華の歯などまったく通用しない。やがて愛らしい舌を絡め取られると、激
しく吸われてしまう。激しく乱暴な汰狼の舌技に、意識を失いかける愛華。だが、
その時おびただしく溢れ出した汰狼の唾液が口内に注ぎ込まれていくのに気付い
て驚愕のあまり目を見開く。たちまち愛華の口腔を一杯にしてしまう粘液。汰狼は
愛らしい鼻を残忍に摘む。呼吸を止められた愛華には、抵抗する術は何もなかった。
か細い喉が痛ましく動く。汰狼は、異臭を放つ己の粘液が愛華の喉を下り落ちてい
ることに気づき、満面の笑みを浮かべる。内臓まで犯されるようなおぞましさに、
ぎゅっとつぶった愛華の瞳から涙が溢れ出す。

 窒息寸前になった頃に漸く唇を解放され、大きく胸を上下させて必死に酸素を求
める愛華。その隙に、汰狼は愛華の身体を抱きしめると、痛々しいほどに可憐な乳
首に吸い付く。 
「!!...やあっ!...やめてっ!」
  身悶えして逃れようとする愛華の必死の抵抗ぶりを楽しみながら、思いもかけぬ
繊細さで乳首を唇で挟み、歯を当てて転がし、舌で弄ぶ。汰狼の喉が、獲物を仕留
めた猫科の野獣のように大きく鳴る。上気した頬を必死に振る愛華。
  「ぐえへへへっ...泣けっ...喚けっ...ひえっへっへっへ...」
  やがて汰狼が愛華の両脚を開きにかかる。必死に膝をとじ合わせようとする抵抗
感を楽しみながら、愛華のはかない努力を嘲笑うように両腕で力一杯開いていく。
青白さが残る痛々しいような下肢が、引き裂かれるように目前に晒される。
  「いやああああっ!!」
  あまりの羞恥に消え入りそうな悲鳴をあげる愛華。花園を覆う早春の春草はまだ
まだ淡く、痛々しいまでに初々しかった。両腕でしっかりと愛華の下肢を固定しな
がら、満面に好色の笑みを浮かべながら愛華の花園に顔を近づけていく汰狼。
  「ぐへへへへっ...」
  愛華の羞恥に染まった顔を満足げに見つめるや、股間に顔を埋め、深呼吸して少
女の秘密の匂いを胸一杯に吸い込む。さらに、膨れあがった醜い鼻をぐりぐりと花
芯にこすりつける。
  「嫌ぁっ!嫌あぁっ!お願い離してっ...!!」
  必死に首を振って哀願する愛華に頓着せず、巨大な唇をふたひらの花弁にぴたり
と吸い付かせる汰狼。その内部からは膨れあがった舌が這い出して、秘密の唇を執
拗になぞり、微妙な振動を加えて弄びながら、愛華の胎内への侵入の機会を伺う。
遂に、わずかに開いた花弁の隙間。すかさず巨大な蛭のような青紫の舌が入り込ん
でいく。
  「!!...いやああああっ!!だめええええっ!!」
  あまりの恥辱に泣き叫ぶ愛華。闇雲に振られる顔が深紅に染まり、涙が次々と溢
れ出す。委細構わず、欲望のおもむくままに華奢な少女を陵辱し続ける汰狼。
  やがて、口唇愛で愛華の股間を汚し尽くした汰狼が半身を起こし、改めて愛華の
身体を抱え直す。力なく開いた愛華の両脚の間に巨大を押し込むと、高々と両脚を
肩に担ぐ。そそり立つ巨根は、愛華の細い身体を二つに引き裂きかねないほどの威
容を見せて、滲み出した粘液にてらてらと妖しく輝いている。
  初めて受ける野獣のような陵辱に、息も絶え絶えとなっていた愛華が、その汰狼
の欲望のシンボルを一目見て瞳を一杯に見開く。
  「た...助けてっ!誰かっ!誰かあっ!お父さまぁっ!お姉さまぁっ!」
  「ぐへっ、ぐへっ...む、無駄なんだなあっ...ぐへへっ!」
  悲痛きわまりない愛華の悲鳴すら心地よく聞き流しながら、汰狼の凶器がぴたり
と愛華の花弁に突きつけられる。あまりのおぞましさに全身を震わせる愛華。
  「ぶへへへへ...さあ、いくぜえ...愛華ぁ...」
  暗黒の絶望に掴み締められた愛華の心が、最後に"あの人"の名を叫ぶ。
  「助けてっ!義兄さん!...剛蔵さんっ!剛蔵さああんっ!!」
  愛華の最後の絶叫をせせら笑う汰狼が腰を突き出そうとする。だが、奇跡は愛華
のために訪れた。

 「ぶほうううううっ...!!」
  愛華の小さな身体にのしかかっていた汰狼が横様に吹き飛び、ごろんごろんとド
ラム缶のように転げ回りながら離れていく。
  涙に濡れて滲む愛華の視界に、待ち望んでいたその男が飛び込んできた。
  「大丈夫か、愛華!!」
  瞬間、助かったという実感が涌く間もなく、愛華が剛蔵の胸に飛び込み、しがみ
つく。
  「ようし、よしよし...もう大丈夫だぞ...大丈夫だ。」
  剛蔵も愛華の身体を抱きしめ、優しく頭を撫でる。逞しい剛蔵の身体に抱かれ、
愛華の全身に安堵感が染み渡っていく。
  「立てるかい、愛華?ようし、いい子だ。ちょっとだけ待っててくれよ。お仕置
きをしてくるからな。」
  壊れ物を扱うようにそっと愛華の身体を地面に降ろす。
  「じゃ、すぐ戻るからね。」
  そっと頭をひと撫でし、この上なく優しい笑みを愛華に残した剛蔵がくるりと身
体の向きを変える、遙か先でようやく身体を起こした汰狼に向けられた剛蔵の顔は、
鬼神そのものだった。
  「ぶっ、ぶへっ!」
  剛蔵の憤怒に恐れをなした汰狼が逃走に入る。だがその直後、汰狼の前には剛蔵
が立っていた。朱に染まった顔は阿修羅と化している。
  「や...やってないっ!まだやってないんだっ!だっ...だからっ!!」
  必死に言い訳する汰狼の腹に剛蔵の右腕が深々とめり込む。
  「ぶっ!...ぶほっ!!」
  たまらず膝をつく汰狼の顎を、剛蔵の渾身の左アッパーが捉える。
  「ぶはあああっ!!」
  奇声を上げながら軽々と宙を舞う巨体。数回の縦回転の後、頭から地面に突っ込
む汰狼。地響きとともに周囲が揺れる。
  「『やってない』か...やってたら八つ裂きにしてたところだぜ。二度と愛華に...
そして里に近づくな。いいなっ!!」
  完全に戦闘力を失った汰狼の胸元を左手で掴んで引き摺り上げると、弓を引くよ
うな剛蔵の右の拳が汰狼の顔面に叩き込まれる。
  「ぶぎゃひへええええっ...!!」
  凄まじい勢いで再び地面を転がった汰狼は巨木にぶつかり、それを根本からへし
折ってようやく止まる。うつぶぜに倒れた身体はぴくりとも動かない。
  怒りを鎮めるために肩で何度か息をした剛蔵が、くるりと愛華に振り向く。その
表情は、穏やかないつもの剛蔵のものだった。
  「お待たせ、愛華。野暮用は済んだよ...おやおや、血が出ているじゃないか。こ
れは大変大変っ。」
  呆然と佇む愛華を両腕で優しく抱え上げる。
  「そおれ、お姫さまだっこだ。すぐにお姉ちゃんに手当して貰おうな。それ、急
げや急げっ。」
  わざと剽げた態度の剛蔵の優しさに全身を包まれながら、愛華は剛蔵への思慕が
はっきり恋に変わったのに気付き、そっと目を閉じる。
  (...ごめんなさい、お姉さま。愛華は気付いてしまいました。愛華は...私は、剛
蔵さんのことが好き...大好きなのっ!!)
  里に向かって軽やかに疾走する剛蔵は、一粒の涙が愛華の頬を流れたのに気付か
なかった。
 
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-アスタロト卿「鬼哭という恐るべき戦闘集団が我々に与える脅威と及ぼす影響に
ついて、卿は首相としてどのように認識しておられるのか伺いたい」
  ベルゼバブ卿「鬼哭一族の処遇はこれまで常に我々の懸案事項であり、今後のそ
うであろう。最終戦争に際して彼らが我々か敵かのどちらかに付くことは、彼我の
パワーバランスを大きく崩すことになりかねない。我々としては、彼らを味方に引
き込むべく努力しつつ、最低でも中立を守らせなければならないものと考えている。
最高裁長官たる卿の賛同と協力を心より期待する」-
(「地獄帝国第666回元老会議議事録」より抜粋)

-......地上で入手したオルタネート・メタルとその周辺技術を応用することで、メ
タモルフォーゼの障害となっていた諸々の要素を排除し、純化することとし、その
結果、実験対象K-S01-AT号は、不要要素を「封印球」に排出することで、
計算通りデビルサイダーへと変貌を遂げた。
  ただし、今回の成功事例について留意すべきは、対象となったK-S01-AT
号が、当初よりその形質内の大半がD因子で占められ、G因子をほとんど有してい
なかった点である。本来D-Gバランスが均衡しているはずの当該種族におけるこ
の形質異常については、長年にわたる近親婚の影響などが推測されるものの、現段
階では仮説の域を出るものではなく、なお詳細な観察が必要である。そのため、今
回成功の実験の有効性については、今後なお慎重な検証が必要であることを注記し
ておく。
  K-S01-AT号については、すでにベルゼバブ陛下から引き取りたいとの要
請が来ていることから、地上での運用試験の後、結果良好であれば再調整の上、進
呈を予定している。なお、使用済の「封印球」については、土台となったオルタネ
ート・メタルの有する興味深い性質からして、今後何らかの現象が発生することが
予想外されるものの、一方で不慮の災厄も予想されることから、帝国領内に留める
のは危険と判断した。陛下のご賢察により、地上に向かうK-S01-AT号に携
えさせ、廃棄させることとする。-
(パラケルスス博士著「偉大なる実験記録」第64巻より抜粋)

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