「ADVENT」

題名:外伝「哀なる愛の華」

外伝「哀なる愛の華」3

野分の章(愛華十六歳)

 「ちょっと天気が心配だわ。延期したらどうかしら?義兄さん...」
  「なあに、璃音も鬼哭の子だ。心配いらんよ愛華。」 
  「あなた、璃音のこと、よろしくお願いします。」
  「大丈夫大丈夫。璃音ももう6歳だもの、な?」
  「うん、大丈夫だよパパ!」
  「璃音、いい子にしているのですよ。パパを困らせてはだめよ。」
  「はーい、ママ。璃音いい子にしまーす!」
  「はっはっは、璃音はいつもいい子さ...じゃ、行ってくるよ姫香。」
  「お気をつけて...あなた。お帰りをお待ちしています。」
  「...ああ!」
  「行ってきまーす、ママ、愛華おねえちゃま!」
  「行ってらっしゃい、璃音。」
  「...行って...らっしゃい......」
  秋の日差しが降り注ぐ中、剛蔵は璃音を肩に乗せ、次第に強くなる気配をみせる
風の中、頼もしい足取りで枯葉の舞い落ちる森の奥へと歩いていった。二人の姿が
見えなくなった後も、いつまでも森をみつめている姫香の横で、愛華も静かに佇ん
でいた。

 (...とうとう...行ってしまった...あの人が...)
  愛華はともすれば溢れそうになる涙を必死にこらえていた。せいぜい一か月の不
在。それなのにどうして別れたばかりの剛蔵がこんなにも恋しいのか。愛華は、も
し姫香がそばにいなければ、身体を大地に投げ打って慟哭したいほどの寂寥感に囚
われていた。だがその外見は、そんな心の裡を一切見せないままに、表情一つ変え
ずにただ立ちつくしていた。
  剛蔵にとっては、久しぶりの里帰りだ。アイダの里は、出奔以来勘当同然だった
が、最近になって父である統領が病に倒れて隠居し、代わって幼少の頃から仲の良
かった長兄が新統領となっていた。これを機に、父との和解と、孫でありアイダと
スメラを結ぶ絆でもある璃音の披露、そして何より兄と今後の両一族の行く末につ
いての協議を行うことが、今回の旅の目的だった。
  「......帰りましょう、愛華ちゃん。」
  長い時間の後、ようやく姫香が森への扉を閉ざした。快晴だった空には、次第に
厚い雲が重なり、吹く風はその強さを増していた。里に帰る道すがら、愛華が姫香
に尋ねる。
  「なんだか雲行きが怪しいわね。お姉さま、二人とも留守なんだし、今夜から実
家に戻ったら?」
  「...そうね。ひとりぼっちの家は寂し過ぎるかもね。」
  「そうよ。お父さまもきっとお喜びになるわ。」
  「じゃあ、家事を片付けたらお邪魔しようかしら。」
  「なによ、『お邪魔』なんて水くさい。お姉さまの家じゃないの。お部屋は私が
掃除しておくわ。」
  「ありがとう...そういえば...ふふふ。」
  「な、なに?」
  「ううん...大したことじゃないけど。愛華ちゃんは、いつから自分のことを『私』
って言うようになったのかなって。昔は自分を『愛華』って言ってたのにね...うふ
ふ。」
  「...そんな、もうずっと昔の話よ。忘れちゃったわ。」
  苦笑いをして誤魔化した愛華だったが、胸の裡には心の叫びがこだましていた。
  (...いいえ、それは嘘。私は覚えている。忘れるなんてできない。そう、私が『私』
になったのは、許されるはずのない愛を知ってしまったあの日。野獣のようなあの
男に思うがままに蹂躙され、遂に処女まで奪われそうになったその瞬間に、あの人
が助けに駆けつけてくれた、あの夏の日。)
  里への道を辿る二人の美女。その艶やかな後ろ姿を見つめて、樹林の濃密な下生
えの中で双眸が燃えていた。吹き荒ぶ風が激しく木立を鳴らす。
  (...剛蔵は行ったか...ぐっふふふふ...姫香...姫香ぁ...姫香ぁあああっ!!)
  声にならない想いが膨れあがる。そのものは、殺気を放つことを必死に耐えてい
た。
  (...もう少しだ...もう少しの辛抱だ...待ってろよ姫香ぁ...ひ、姫香ぁっ...ぐひっ
...ぐひひひひっ...!)
 
  お茶でもという誘いを断って若統領屋敷の前で別れた愛華は、自分が住む統領屋
敷に向かう。八年前に姫香と剛蔵が結婚して新居を構えて以来、ここには獅郎と愛
華が二人きりで住んでいた。昼間は手伝いの娘達も来てそれなりに賑やかだったが、
さすがに夜は寂しかった。まだ幼かった愛華は、寂しさに耐えかねてしばしば姫香
達の新居を訪れては泊まったものだった。当時を思うと、愛華はわがままいっぱい
だった自分を叩きたくなる。だが、新婚夫婦にとってはとんだ闖入者であったろう
に、剛蔵も姫香もいつも嫌な顔一つせずに歓待してくれた。そればかりか、次の日
も泊まっていけと言われ、その気になった愛華を獅郎が連れ戻しに来るほどだった
のだ。
  そんな日々も、璃音が生まれてからは変わった。相変わらずしょっちゅう遊びに
行ってはいたものの、泊まっていくことは滅多になくなったのだ。愛華は感じてい
た。姫香と剛蔵と璃音が形作る小さな輪の中では、所詮自分はよそ者になってしま
うことを。姫香と剛蔵は相変わらず優しく迎えてくれたし、璃音も愛華によく懐い
たが、愛華の心の中に芽生えた微かな疎外感だけは、決して拭い去ることはできな
かった。
  風が激しく窓を鳴らす音を聞きながら、愛華はかつて姫香が使っていた部屋に入
る。衣類などはほとんど新居に運ばれていたものの、娘時代の家具や装飾などはほ
とんどそのまま残されている。剛蔵と喧嘩したらいつでも戻ってこいと、愛華は姫
香に口癖のように言っていたが、結婚後に姫香がこの部屋に泊まることはついぞな
かった。
  (...八年ぶりにもなるのね。お姉さまがこの部屋に戻るのは...)
  定期的に掃除してある部屋はほとんど汚れておらず、簡単な掃除だけで足りた。
姫香が使っていた椅子に座り、テーブルに頬杖をつきながら、愛華は物思いに耽る。
  (...お父さまがいて、お姉さまがいて、私がいて。それで十分だった。ずっとそ
のままだと思っていた。だけど...無常の時は流れて...あの人がやって来た。)
  そっと目を閉じて回想に浸る愛華。
  (...最初は邪魔者だと思っていた。けど...違った。あの人と触れあううちに、私
の心は次第に傾いていった...そして...)
  可憐な唇から甘いため息がこぼれる。
  (あの日。私の心は決まってしまったの。止めることなどできなかった。これは
運命なの?私の心も...身体も...今では全てあの人のもの...他の人の愛なんかいら
ない。誰にも触らせはしない。だけど...だけど......)
  頭を抱え込む愛華。細く長く白い指が、優美な髪の中に入り込み、かきむしる。
  (...あの人は永遠にお姉さまのもの。あの人の目に映るのはお姉さまだけ。あの
人が愛するのもお姉さまだけ......どうして?......どうして?)
  愛華の瞳から涙が落ちる。テーブルに滴り落ちる深い透明な悲しみ。
  (なぜあの人は私を愛してくれないの?......それはお姉さまがいるから。なぜ私
はあの人を愛してはいけないの?......それはあの人がお姉様の夫だから。私の義兄
だから。......それだけ判っていながら、なぜ私はあの人を愛し続けるの?なぜ私は
あの人を諦められないの?なぜ...なぜ......)
  愛華の涙は慟哭に変わる。テーブルに突っ伏して、愛華はいつまでも泣きじゃく
っていた。厚い雲に覆われてすっかり暗くなってしまった空からは、愛華の心に共
鳴するかのように大粒の雨が降り始める。愛華は気付かなかった。その時、姫香の
身に降りかかっていた恐るべき凶事に。

 家を揺さぶる不気味な風音もかき消すような明るいハミングを響かせながら、ピ
ンクのエプロンを纏った姫香が居間を掃除している。幼子がいるにも関わらず、屋
敷はどこもかしこも全て綺麗に整頓されていた。
(もう新婚さんでもないのだけれど...)
  姫香はふと鏡に映った自分の姿を見て苦笑する。新婚当初に剛蔵がプレゼントし
てくれた、フリルをたっぷりあしらったエプロンを纏った姫香は、まるで少女のよ
うに初々しく可憐に見えた。
(...さすがにそろそろ胸が痛いわ。うふっ、でも留守中に替えたら、あなたはがっ
かりしちゃうかしらね。)
  剛蔵が戻るまではその可憐なエプロンを使い続けることを決意する姫香。微笑み
を浮かべたまま、くるりと軽やかにターンして愛に溢れた家を見渡す。
(...お風呂もトイレも綺麗になったし...寝室は最初に掃除したけど、一応確認して
おこうかしら...)
  ふと姫香の身体に熱い剛蔵の抱擁の感覚が蘇る。みるみる頬を赤らめていく若妻。
しばしの別れを惜しんだ剛蔵が、昨夜は情熱的に姫香を求めたてきたのだ。激しく
も優しく、愛と思い遣りに満ちて繰り返された夫婦の営み。剛蔵のいつになく熱情
のこもった愛撫に応え、姫香も放恣に乱れてしまったのだ。その記憶が鮮明に思い
返されてくる。
(...いやだっ。私ったらなんてはしたない...)
  恥ずかしい記憶を振り払うように首を振って寝室の引き戸を開く。
  桃色のカーテンの閉まったその部屋は薄暗かった。そしてさらに暗い闇が蟠って
いた。闇がにいっと嗤う。よく見知った顔。そして、二度と見たくなかった顔。
  「!!...きっ...きゃっ!」
  飛び退いて扉を閉めようとする姫香。だが遅かった。巨大な掌が姫香の左腕を捉
え、内部に引きずり込む。必死に戸を掴む右手を易々と振り解くと、寝室は姫香を
呑み込み、音もなく引き戸を閉ざしていく。
  そして、悪夢が始まった。

 優美な曲線を描く姫香の身体が真っ白な寝台に仰向けに横たえさせられる。姫香
と剛蔵、愛しあう二人の寝室を汚す侵入者。みしみしと寝台を軋ませながら近づい
て、姫香を見下ろすその顔は、見間違うべくもなくあの汰狼だった。
  「ぐへっ...ぐへへへっ...ぐえへへへへ...」
  狂喜のあまり言葉もない汰狼は、崩れそうに緩んだ顔のままで姫香の両腕を頭の
上で一つにまとめると、器用に細引で縛り上げ、その先端をマットの底深くにまで
突っ込んで易々と固定してしまう。好色そのものの視線を、美しい獲物の身体に丹
念に隈無く走らせると、未だ驚愕から覚められず、唇を震わせたまま声もない姫香
の身体に、奇声とともにむしゃぶりついていく。
  巨体が姫香にのしかかる。汰狼が姫香の長く艶やかな黒髪に顔を埋め、胸一杯に
深呼吸して、その芳香に酔い痴れる。熱く、大きく、分厚い唇がうなじに押しつけ
られると、初めて姫香の唇は悲鳴を放った。
  「...やっ!いやあっ、やめてっ、やめてくださいっ!」
  身体を振って逃れようとするが、のしかかる汰狼の身体はびくともしない。
  「ぐへへへっ...ああ...いい匂いだあ、姫香ぁ...こうするのを...ずっと、ずうーっ
と夢見てたんだぜえ...」
  顔を振って姫香のうなじに唇を揉み込むようにする汰狼。
  「ぐへへへへへへっ...い、生きてて良かったっ...ぐ、ぐひひひっ...」
  その小さな瞳は膜が張ったように鈍く光り、もはや知性のかけらも感じさせない。
しばらくの間、姫香を抱きしめてうなじに顔を埋めて姫香の香りに耽溺したまま動
かない汰狼。だが、やがてその両腕が、ゆっくりと、しかし淫らに動き始める。
  「!だめですっ、放してください、汰狼さんっ!」
  姫香の哀願を一顧だにせず、可憐なエプロンを引き裂くと、優雅に着こなした衣
服を荒々しくはだけさせていく。胸元が露わにされ、雪のように白い双丘の麓が汰
狼の視界に入る。
  「ぐ、ぐへへっ...」
  汰狼の芋虫のように蠢く太い指が姫香の胸元を這う。指先が丘の頂上を目指し始
める。
  「ああっ...やあっ...汰狼さんっ、だめっ...いけませんっ!」
  身悶える姫香の身体の揺れすら楽しみながら、汰狼は姫香に添い寝するようにぴ
ったりと身体をつけ、ついに太い腕を胸元深くに差し入れると、柔らかなふくらみ
を思うさま揉みしだく。
  「ぐへっ...ああ...いい触り心地だぜ...ひっひひひひ...」
  「だ、だめです汰狼さんっ。私は人妻なんですっ。どうか、どうか無体なことは
やめてくださいっ」
  必死に汰狼の良心に訴えかける姫香。だが、汰狼はかつてはわずかに残していた
良心をきっぱりと捨て去っていた。
  「ぐっ、ぐひひひっ...ひ、人妻ってのが燃えるんじゃねえか...よお姫香ぁ、夫の
目を盗んで他の男と情事に耽る気分はどうだい?...くっ、くひひひひっ...」
  爆発しそうな興奮をこらえながら、やわやわと繊細に、そして執拗に姫香のふく
よかな乳房を揉み続ける汰狼。姫香の官能の炎を呼び起こすことに執念を燃やす。
そのおぞましい感覚に必死に耐え続ける姫香。やがて汰狼の腕の動きが一層大胆に
なると、大きくはだけられた胸元から、ついに形の良い乳房がこぼれだし、その全
貌をあますところなく示してしまう。見つめる汰狼の目が喜びに細められる。
  「くひっ...くひひっ...た、たまんねえおっぱいだぜっ...ぐひひひっ」
  辛抱たまらず白い乳房に武者振りつく汰狼。左の乳房の頂上を可憐に飾る紅の蕾
を分厚い唇に含むや、歯と舌とを総動員して、吸い、舐め、ころがし、しゃぶり、
舐り尽くす。右の乳房は、背後から回した右腕が鷲掴みにし、姫香に背徳の快感を
与えようと淫らな動きを示す。
  「ああっ...やあっ...許してっ...だめ、だめですっ、汰狼さんっ...!」
  姫香の必死の懇願も、もはや一匹の淫獣と化した汰狼には全く通じなかった。や
がて汰狼は、自分が口中に含んで弄んでいる姫香の蕾が、固くしこり始めたのに気
付く。それは、単なる刺激に対する生理的な反応に過ぎなかったが、姫香が感じて
いると思い込んだ汰狼は、ますますいきり立っていく。
  「ぐへっ...ぐへへっ...乳首をこんなに固く立たせやがって...スケベな女だなぁ、
姫香ぁ...おめえは夫以外の男の方が感じるんだな...ひっひひひっ...」
  「ち、違います...感じてなんかいませんっ...離して...!ああっ...」
  汰狼が姫香の蕾を咬む。甘咬のつもりだったが、加減を知らない汰狼の歯が乳首
に食い込み、姫香が思わず苦痛の呻きを漏らす。だが、汰狼はそれすらも快感を訴
えるものと勘違いする。
  「ひっひひひ...エッチな身体をしてやがる...なあ姫香よぉ...剛蔵のいない時は、
いつもこうやって男を咥え込んでたんじゃねえのか?」
  完全に妄想の世界に入ってしまった汰狼。いくら訴えかけても無駄なことを悟っ
た姫香は、汰狼の言葉責めには一切反応を示さず、脱出する術を見いだすことに傾
注する。寝台の上の神棚には、亡き母が宗家からスメラの里に輿入れした際に携え
てきた守り刀が安置されている。「空」の属性が込められているというその小刀は、
姫香の婚儀の際に獅郎から授けられたものだった。
  (...あの刀に手が届けば...)
  だが、神棚までの一メートルに満たない距離が、今の姫香には果てしなく遠かっ
た。
  「ひっひひひ...姫香...姫香ぁっ...」
  漸く乳首を解放した汰狼は、調子に乗って両の掌でやわやわと乳房を揺すりたて
ながら、姫香の唇を求めにかかる。
  「ああっ...だ、だめですっ...キスは...キスはいけませんっ...いやあっ!」
  剛蔵以外知らない、果実のように甘い芳香を放つ華麗な唇に迫っていく、醜く膨
れあがった不気味な色合いの汰狼の唇。強烈な口臭が吹き付けられる。姫香は狼狽
を隠せず、顔を左右にそむけて必死に逃れようとするが、執拗に追い回してくる汰
狼の唇は、頬や鼻に吸い付きながら徐々に近づいていき、とうとう姫香の唇を捉え
てしまう。
  「!!...うむうっ...んんっ...んむうっ...」
  初めて知った夫以外の唇。その禁断の感触に姫香の両目は大きく見開かれ、全身
が震える。さらに汰狼の舌が軟体動物のように蠢きながら這い出すと、姫香の唇を
割り、必死に食いしばる歯列の奥への侵入を試み始める。姫香の抵抗が手強いと見
るや、汰狼の右腕が姫香の身体をなぞりながら降ろされていき、すらりと伸びた下
肢のつけ根の部分にぴたりと押し当てられる。
  「!!...んんっ...んむっ...ああっ...!」
  貞淑な人妻の身体に加えられる信じがたい恥辱に、思わず高い悲鳴を発する姫香。
すかさず汰狼の舌は素早く姫香の口腔内に侵入し、蹂躙を開始する。思うがままに
口内を暴れ回る汰狼の舌が、人妻の舌を探していることに気付き、震え上がる姫香。
しかし、必死に隠そうとする努力もむなしく、桃の果実の一片のような甘美な舌が
ついに探し当てられ、異様に長く太い汰狼の舌に絡め取られてしまう。
  「あふっ...んんんっ...むうっ...くふっ...」
  穢らわしい暴漢に舌を吸われる屈辱と切なさに、姫香の大きく黒目がちな瞳から
真珠のような大粒の涙がこぼれ落ちる。
  美しい人妻の唇を奪ったことに有頂天になった汰狼は、ついで、異様なほど粘度
の高い、強い臭気を放つ唾液を姫香の清らかな口内に流し込み始める。
  「...んむっ!くうぅっ...んんんっ...くむっ...」
  この上ない汚辱感。姫香の口内がおぞましい粘液に汚されていく。小さな口内を
たちまち満たしてしまう汰狼の唾液。飲み下すことを求められていることに気付い
た姫香が激しく動揺する。だが、拒む術も見いだせないままに、汰狼の左手の指に
可憐な小鼻を摘ままれ、呼吸を妨げられた姫香は、絶望とともにその粘液を飲み下
すことを強要されてしまう。
  「...くうっ...くふっ...こく...こくん...こくっ...」
  (...ああ...あなた...あなたっ...助けて...!)
  あまりの汚辱感に、姫香の両の瞳から止めどもなく涙が溢れ出す。
  「ぐひっ...ひひひ...うめえかぁ?姫香ぁ...くっくくく...たぁっぷり味わえよ...」
  何度も夢想してきた、己の唾液を姫香に飲ませるという行為。汰狼は、会心の笑
みを浮かべる。さらに唇を重ねながら、右手を姫香の下半身の探検に出発させてい
く。高価な生地を使用した華麗な巻きスカートの隙間から潜り込む淫らな指。
  「ひっひひひひっ...もうすっかりぐしょぐしょじゃねえのか?...ここはよ...」
  汰狼の指が姫香の下腹部を守る薄い下着にぴたりと押し当てられる。唇を塞がれ
てくぐもった悲鳴をあげる姫香。
  「!!...な、なんだと...!」
  汰狼の顔が憤激に赤黒く染まっていく。姫香のその部部には、湿り気さえも感じ
られなかった。
  「ど、どういうことだっ!」
  太い指が絹の下着にかかり、強引に引き下ろす。布の裂ける短く鋭い音とともに、
下着がむしり取られていく。
  「いやっ!だめですっ!お願いそこはっ!」
  悲鳴を無視して、汰狼の指が直接姫香の花園に触れる。そればかりか、強引に花
びらを割り裂くと、太い指を押し込んでいく。無理な挿入がもたらす苦痛に呻く姫
香。だが、汰狼が期待するものは、その痕跡すらも見いだせなかった。
  「...姫香ぁ、貴様......感じてないってのか......俺様の責めを......」
  小さく引きつったような声でうめく汰狼。
  「...そうです......暴力で私の身体は奪えても...私の心までは決して奪えません...
私は、夫以外の殿方に心を許すようなことなどは、決して...」
  屈辱に耐えて凛とした表情で声を振り絞る姫香。
  「ぐぐぐぐぐぅっ......あくまでも貞淑な人妻面を貫くって訳かい...ご立派なこと
だなぁ、姫香ぁ。ち、畜生っ......そ、それなら、心まで強引に奪ってやるまでのこ
とよっ!」
  寝台の上に膝立ちして、両腕を振り上げて汰狼が咆吼する。その声が人間離れし
ていくことに気付いた姫香がはっと顔色を変えて見上げると、汰狼は次第に人間か
らかけ離れた姿に変貌しつつあった。全身を覆う長い剛毛。触手のようにどこまで
も伸びていく鼻。まるで二本足で立つマンモスのような奇怪な姿がそこにはあった。
  「そ...その姿は...汰狼さん...ま、まさか...あなたは...」
  「ぐあっはっはっはっ...そうよ姫香ぁ。俺様は生まれ変わったのよ。」
  触手となった鼻を高々と上げて、汰狼が雄叫びを上げる。
  「あ...悪魔に魂を売り渡してしまったのですか......なんということを...。なぜ、
なぜです?鬼哭一族のあなたが...」
  涙声の姫香。その声音には、深い悲しみと憐憫とがあった。
  「ぐへへへへっ...戦いに敗れて...女を奪われて...皆から馬鹿にされて...里からも
追い出されて...お、俺様にこれ以上どうしろっていうんだっ!ええっ!?...どうし
ようも...どうしようもねえだろうがぁぁっ!!」
  うなり声を張り上げる汰狼の目に一瞬光るものが見えた。
  「もう遠慮しねえ...俺様の新たな力を見せてやるぜぇ、姫香ぁっ!くっくくく...
思い知れ剛蔵っ!てめえの愛する女房を、底なしの快楽地獄に叩き落としてくれる
わっ!」
  雷鳴が遠く轟く。激しい雨音が寝室を包んでいく。

 汰狼の鼻は、まるで象のそれのように太く長く伸びる触手と化して、姫香の全身
を這う。乱れた衣服の隙間から入り込み、ひっそりと息づく花弁を撫で、優美な曲
線で構成される腰や腹をなぞり、ねっとりと乳房を嬲り、そして首筋を這い上がっ
て顔に達する。あまりに不気味な感触に、顔をそむけて震える姫香の唇にたどり着
くと、力づくで顎を開かせ、たちまち口腔の奥深くに押し入っていく。咽喉の奥に
向けてどこまでも侵入してくるこの上なく不快な感触と息苦しさに身悶えする姫
香。
  汰狼の目が嗤う。いきなり、喉奥まで達した鼻の先端から夥しい粘液が噴出する。
穢れた体液を直接胃の腑に流し込まれていく汚辱感に、姫香の美しい顔がくしゃり
と歪む。
  「ぐへへへっ...ちょっとだけ辛抱しな姫香ぁ。すぐ...良くなるぜえ...ひっひひひ
ひひ...」
  汰狼の粘液にまみれた触手が引き抜かれると、酸素を求めて姫香の胸が激しく上
下する。美しく盛り上がる豊かな双丘が大きく揺れる。
  「はっ...はっ...はっ...はあっ...ああっ...はああっ...」
  次第に呼吸に喘ぎが混じていく。姫香の全身がみるみる桃色に染まっていく。小
さな汗の粒がびっしりと浮かび上がり、瞳が熱を帯びたように潤んでいく。
  「あっ...ああっ...な、なにっ?...何をしたのっ、汰狼さん...ああっ...」
  無意識に両腿を擦り合わせていることにも気付かず、姫香が呻く。その声にはす
でに濃厚な媚びが含まれている。
  「ぐふふふふっ...媚薬の味はどうだぁ、姫香ぁ?俺様の体内でこさえた、処女も
悶え泣くような強烈なやつだぜぇ。たあっぷり飲ませてやったからなあ...けけけけ
っ...熟しきった身体をもてあました人妻には...たまらねえだろうがぁ...ぐひひっ
...どうだぁ?すげえ効き目だろう?...げひひひひひっ」
  汰狼は太い腕を動かして、姫香の残った衣服をゆっくりと、丁寧に剥いでいく。
汰狼の指が触れるたびに、姫香の身体がびくりと反応する。
  「あ、ああ...いや...やめて...やめて...ください...汰狼さん...はあああっ、やぁっ
...」
  昂ぶっていく官能。切なげに目を閉じて哀願する姫香。
  「くけけけっ。男を誘うような淫らな声だぜえっ、姫香ぁ。抱いて欲しいんだろ
う、俺様によ...きひひひひっ」
  ゆっくりと時間をかけて下着までをも取り去っていく汰狼。そして、寝台の上に
膝立ちした汰狼の眼下には、艶めかしく身体を揺らしている姫香の大胆なヌードが
広がっている。
  「ああ...ど、どうして...だ、だめ...だめです...いやぁ...」
  姫香は絶え間なく襲いかかってくる衝動と必死に戦っていた。抱かれたい。強く
抱きしめられたい。熱く硬いもので激しく貫かれたい。男ならもう誰でもいい。今
まで感じたこともない欲望が全身を駆けめぐり、炎のように燃え盛る。汰狼の媚薬
の効果...そうは思っても、姫香は自分自身の中に潜んでいた思いもかけない欲求に
苦悩する。
  「ぐげげげっ...み、見かけによらず意志の強い女だな、姫香ぁ。あれだけ俺様の
媚薬を飲まされていながら、なお狂態を晒さずにいるとはな...」
  汰狼が煩悶を耐えしのび続ける姫香の切なげな顔を頼もしそうに見つめ、本気で
褒めそやす。
  「ぐふう...貞淑そのものの若妻の身体を奪うなんざ...男冥利に尽きるなぁ...げっ
へへへ...どおれ...」
  汰狼が不気味な色の液体の入った三本のアンプルを取り出す。
  「こいつをプレゼントするぜぇ、姫香ぁ......先生が作ったとびっきりのヤクよ。
効き目はお墨付きだぜ......きっつい副作用があるって話しだが...くっくくく...こ
の世のものならぬ快楽の世界を味わえれば......戻って来れなくなっちまっても構
わねえよな...なあ、姫香ぁ...ひっひひひひひっ。」
  恐るべき汰狼の台詞に姫香の表情が凍り付く。汰狼は、「ラスネールの爪」と書
かれたアンプルをぺしっと軽くへし折ると、触手で中身を吸い込んでいく。
  「ぐふふふ...どこから注入してやろうかぁ...ぎひゃひゃひゃひゃっ...」
  含んだ麻薬で先端部が膨らんだ触手が姫香の全身を彷徨い、狙いを定めていく。
  「ここかぁ?んんー?それともここかなぁ?」
  「や...やめて...お願い...お願いします...ゆ、許してください...私には、夫も娘も
...」
  既に激しい官能の嵐に翻弄され続けて息も絶え絶えの姫香が弱々しく嘆願する。
触手が右の乳房に触れる。びくりと激しく震える姫香の身体。
  「ひひひっ...いようしっ...ここだぁっ!!」
  乳首をしっかりと咥え込み、ぶしゅっと奇怪な薬品を注入する触手。
  「あ...ああっ...ああああっ...」姫香の全身が小刻みに痙攣する。
  「まだだ...まだまだいくぜぇ、姫香ぁ...ぐへっへっへ...!」
  二本目の「サルガタナスの牙」をへし折る汰狼。恐怖に引きつる姫香の美貌。左
の乳房に伸びる触手。その美丘までもが贄に供されると、姫香の全身の痙攣はぶる
ぶると一層激しくなっていく。
  「くくくっ...ど、どうだぁ、姫香ぁ...すげえだろう...ひっひひひっ...さあ、と、
とどめをさしてやるぜ...覚悟しなあぁ、姫香ぁっ!」
  触手が「アスタロトの猛り」と記されたアンプルに入った最後の麻薬を呑み込ん
でいく。その汰狼の分身は、なおも気品を失わなっていない姫香の神秘の花園を這
い回り、桃色の繊細な肉芽に触れる。ぎくりと首を大きく仰け反らせる姫香。
  「...かはっ...ああっ...ふあっ...はああっ...あ、あなた...わ、わたし...も、もうっ
...ごめんなさいっ、あなたっ...あああっ...り、璃音...璃音っ、許してっ...ママは...
ママはもうっ......」
  姫香の目から絶望と悲哀の涙が一筋こぼれた。
  「...いくぜぇっ......喰らえっ、姫香ぁあっ!!」
  ぶしゅうっ...!凄まじい凶毒が最も敏感な花芯に注がれていく。その瞬間、姫香
の身体が弓なりに大きく仰け反る。
  「がッ...はあッ...うあッ...あ、あなたッ...許してッ...許してあなたッ...あなッ...
ふあッ...はあああああああああんッ!!」
  厚い雲で真っ暗になった天空から電光が降り、雷鳴が轟く。かつてない絶頂の中、
姫香の理性が消し飛んでいく。

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