「ADVENT」

題名:外伝「哀なる愛の華」

外伝「哀なる愛の華」5

 なんど叩いても応答がないことに不審を抱く愛華。
  「お姉さま...入るわよ?」
  そっと玄関に入り、雨具を脱いで居間に上がる。薄暗い室内は、姫香らしく美し
く整えられていたが、人の気配は感じられなう。
  「変ね...気配がないなんて。どこかに行ったのかしら?でも...さっきもお父様の
気配が感じられなかったし...何か妙だわ」
  姫香を探して周囲を見回す愛華。キッチン、バスルーム、トイレ...そして客間や
璃音の部屋にも姫香の姿はなかった。
  (...とすると...残るのは、ここしか...)
  夫婦の寝室の前に立つ愛華。ここで剛蔵と姫香は...そう思うだけで、かあっと頬
が火照り、扉を開けることがひどく躊躇われた。
  (...やっぱり気配はないし...お友達の家にでも行ったのかしら...)
  中を確認せずに帰ろうとする愛華。轟く雷鳴。その時、寝室の中から雷鳴に共鳴
するような微かな物音が聞こえた。
  (...あ...あれは、守り刀の...?)
  中を覗くのは気がひけた。寝台に夫婦の営みの生々しい痕跡でも残っていたらど
うしよう。いや、寝具がちょっと乱れているだけでも嫉妬で頭が真っ白になるかも
知れない。しばしの逡巡の後、思い切って引き戸に手をかける愛華。

 「ぐへッ...そうよッ...こ、これが夫婦ならではの体位だッ...なあッ、姫香ぁッ...
ぎひッ、ひひひッ...」
  対面座位で互いに抱きしめあう二人。大きく広げ伸ばした汰狼の両足の上に乗せ
上げられた姫香の両脚は、汰狼の腰に絡み付いている。正面から貫かれた姫香は、
時折背を仰け反らせながら、汰狼の愛撫と律動に応えている。
  「ふあッ...ああッ...す、素敵よッ、あなたッ...」
   自分から汰狼の唇を求めていく姫香。互いの舌を激しく吸い合い、唾液が交換
される。長く濃厚なキスの後、ようやく離された二人の唇を、銀色の粘液がつない
でいる。
  「おおうッ...姫香ッ...ま、まだこんなに締まるのかッ...やっぱり最高の女よッ...
うううむッ...むむうッ...」
  容易く噴射に導かれそうな姫香の締め付けに耐え、汰狼は姫香の乳房に顔を伏せ、
可憐な乳首に吸い付く。
  「くひッ...大事な赤ん坊に含ませるところだからなぁ...父として具合を見ておか
なきゃな...ぎひひひッ...」
  乳首に愛咬を受け、姫香が首を仰け反らせる。
  「ああッ...感じるッ...姫香、乳首弱いのッ...はああッ...」
  「ぐふふふッ...赤ん坊に乳をやりながら感じたりしたら、勘弁しないぞぉ、姫香
ぁ...どれ、こっちも...」
  もう一方の乳首も吸い尽くす汰狼。喘ぎが一層高くなる。
  「ああんッ...そ、そんな...こ、言葉で虐めないでッ...ふああッ...」
  一際激しい口付けを乳首に加えられ、姫香が仰け反る。ぽんっと音を立てて汰狼
の唇が離れた後には、赤い痣のような鮮明なキスマークが残されている。
  「ぐひッ...そ、そうだ...身体中にキスマークを刻んでやるぞ、姫香ぁ...きっきひ
ひひッ...俺様のものとなった証拠になッ...ぎゃひひひッ」
  自分の下卑た思いつきに激しく興奮する汰狼は、さっそく姫香の優美な首筋に吸
い付く。
  「えッ?...い、いやッ...あなたッ、だ、だめッ!...恥ずかしくて...そ、外を歩け
なくなりますッ...あああッ、そ、そんなに強く吸っちゃいやッ!」
  「くっくくく...ちゅッ、くちゅッ...いいかッ、明日からはタンクトップと超ミニ
で外出するんだッ...むちゅッ...いいなッ、姫香ッ...旦那様の命令だぞッ...ちゅむ
ッ」
  顔、うなじ、肩、胸、腕...姫香の上半身のいたる部分に汰狼の唇が躍り、忌まわ
しい狼藉の痕跡を残していく。
  「ああ、やッ!...あうッ...そ、そんなにッ...ああッ...だめえッ...あなたッ...ゆ、
許してッ...ああ、恥ずかしいッ...」
  上半身をキスマークに覆われた姫香があまりの恥辱に悶える。里人達に凄まじい
狂態の果ての名残を晒す恥辱。だが、その羞恥の炎が更なる快感が連れてくる。汰
狼は結合したまま、触手を伸ばして下半身にまで魔の烙印を施していく。太腿が、
ふくらはぎが、内股が次々と犠牲になっていく。
  「ああッ...あなたッ...いやッ...ひ、姫香ッ...もう外を歩けないッ...はああんッ!」
  たっぷりと施したマーキングに満足した汰狼の抽送運動が一層激しくなり、大き
く仰け反る姫香の背中。だが汰狼の太い腕ががっちりと腰を固定し、さらに密着す
るよう強く押し付けられる。
  「くっくくくく...姫香ぁ...お前は...一生俺の女だッ...いいなッ!」
  「は...はいッ...ひ、姫香は...あなたのものですッ...あはああッ...は、激しいッ...
凄いッ...いいッ...あなたッ、いいいッ」
  「剛蔵とは別れろッ...今日から抱くのは俺様だけだッ...わかったか、姫香ッ...!」
  「あああッ...わ、別れますッ...あの人とはッ...もうッ...はあうッ...ふわあッ...」
  「ぐっひひひ...いい子だ...さあ...また一緒に行こうッ、姫香ッ...二人だけの桃源
郷にッ...そりゃッ...うりゃッ...おおおうッ」
  「あああんッ...またッ...またいっちゃうッ...も、もうだめッ...こ、これ以上いっ
たら...く、狂っちゃうッ...」
  首を左右に必死に揺さぶり、絶頂の到来を拒もうとする姫香。汰狼はそんな姫香
の狂態をさも嬉しそうに眺めながら、さらに腰を激しく動かしていく。
  「ぐふふふううッ...狂っちまえ姫香ッ...壊れちまえ姫香ッ...おおう、姫香ッ...い、
いくぞッ...しっかり孕むんだぞッ...おお、いいッ、いくぞッ、姫香あぁッ!」
  「あああッ、あなたッ...あなたッ...あなたぁッ...た、助けてあなたッ...ああッい
くッ...いっちゃうッ...いッ......はああああああああああッ......!!」
  二人が同時に絶頂を極める。力いっぱい抱きしめ合う姫香と汰狼。どくんどくん
っ......なおも凄まじい勢いで姫香の胎内深くに注がれていく白い欲望の体液。
  「...ああああああッ!!」
  大音響とともに近くの木立に雷が落ちる。その凄まじい光と轟音の中、最後に一
声悲鳴のような喘ぎ声を発した姫香が、がっくりと首を落とし、完全に意識を失う。
  「くおおうッ...ふうううッ...さ、最高だったぜ姫香ぁ。......んん?どうしたぁ...
姫香ぁ...」
  姫香の身体を揺さぶる汰狼。だが姫香の顔はがっくりと汰狼の肩に伏せられたま
まだ。
  「くっくくく......無理もねえ...前に三発、後ろに一発...たっぷりと放ってやった
もんな...絶対、俺様の子を宿したぜ......くくッ、ぐひひひひッ...!」
  汰狼が姫香を抱きしめたまま、人間の姿に戻っていく。その時、正面の引き戸が
すっと開かれた。

 「は、入るわよ、お姉さま...」
  ノックしても何の応えもないことにしばし躊躇しながら、愛華がそっと引き戸を
開く。そこには。
  「!!...ご、ごめっ...!」
  寝台の上に姫香の背中があった。男に抱きしめられた白い裸身に乱れた黒髪がか
かる。剛蔵と姫香の夫婦の営み......慌てふためいて引き戸を閉めようとするその瞬
間、璃音を肩に乗せて森に消える剛蔵の背中の映像が脳裏に甦る。
  (......そ、そんなわけないわ。義兄さんはアイダの里へ......)
  かっと目を見開いて寝台を見つめる愛華。姫香を抱きしめている男と目が合う。
  「たっ......汰狼っ!?」
  「ぐひッ...愛華じゃねえか...ぎひひひッ...な、何だ、おめえも可愛がって欲しい
のか?...ぎひゃひゃひゃひゃ...」
  汰狼が哄笑する。
  「き、貴様っ...お姉さまに...お姉さまに何をしたああっ...!!」
  愛華の闘気が炎のように全身を包む。ほとばしる殺気に瞠目する汰狼。
  「ぐひっ...お、俺様は今日はもう腹いっぱいだ...見逃してやるから帰んな...きひ
っ...」
  動揺を押し隠してうそぶく汰狼。
  「ふ、ふざけるなあっ!!」
  愛華が飛びかかろうとしたまさにその瞬間、汰狼が抱きしめていた姫香を勢いよ
く投げつける。愛華が慌てて抱き止める隙をついて、窓を突き破って外に逃れる。
  「待てっ!」
  すぐさま後を追おうとした愛華だったが、抱きかかえている姫香に意識がないこ
とに気付き、青ざめる。
  「ね、姉さまっ!姉さまっ!目を開けてっ!」
  急いで脈と呼吸を確かめる。ひどく弱弱しくはあったが、どちらも確認できてほ
っと安堵する愛華。姫香のぐったりと力の抜けた身体を寝台の上にそっと横たえ、
大きな外傷がないことを確認すると、押入れから毛布を出して、裸身を覆う。
  「すぐに戻ってくるから......待ってて、お姉さま!!」
  言い置いて、汰狼が突き破った窓の鎧戸を閉めると、寝室を走り出る。戸口に出
た愛華の身体が一瞬輝く。今まで着ていた服が消え、戦闘用の装束に変わる。袖な
しの短衣からすらりとした足を惜しげもなく晒し、ビスチェの胴当てを纏い、太腿
の中ほどまでは極細の鎖帷子で編まれた網タイツとなっている。踵が高い赤くハイ
ヒールで大地を蹴って、愛華が走り出す。

 「ぐひひっ...愛華のやつ...四年前とは大違いだ...いい女になってきたじゃねえか
...じゅるっ...」
  巨体に似合わぬ速さで駆ける汰狼。愛華の裸身を想像して思わず口から漏れた涎
を啜りこむ。
  「だが...やたらに強くなりやがったな...疲れた今の俺様では相手はちときついか
...三十六計...」
  広場に出て、中央に突き刺しておいた奇怪な形状の黒い杖を引き抜き、ばきばき
とへし折ると、凄まじいい握力で握り締めて粉末にまで砕く。
  「証拠を残すなって、先生の厳命だからな...これでよし。あとは...」
  背後に迫る殺気を察知して、汰狼が再び疾駆する。里は両側から巨大な山塊に挟
み込まれているが、その一方の山塊にある、大きな鍾乳洞に向かって走る。
  愛華が広場に出る。急に戻ってきた里の人々の気配。中央に黒い粉末状の物質を
発見して立ち止まる。
  「やつめ...何か仕掛けをしていのか?くっ...もう原型を留めていない......」
  叩きつける雨に混じり、粉末はみるみる黒い液体となって地面に吸い込まれてい
く。しばし立ち止まって汰狼の気配を探る愛華。方向を見定めて再び疾走に入る。
  「あらかじめ計画していたのか...義兄さんが外出することも...」
  汰狼の狡猾な策略に唇を噛み締める愛華。
  「義兄さんに...あの人に何て謝ったら......」
  出発前の会話が甦る。
  (「しばらく姫香に寂しい思いをさせちまう。愛華、よろしく頼むよ。」)
  (「ええ。義兄さんに言われるまでもないわ。姉さまは私が守るから。安心して。」)
  (「はっはは...頼りにしてるぜ、愛華。」)
  「守れなかった......あの人との約束なのに......せめて、せめて奴の首を討って詫
びようっ...!!」
  決意の炎が瞳に宿る。

 鍾乳洞の前、ついに愛華は視界に汰狼を捉える。
  「あいつ......成人の洞窟を目指しているの?」
  その鍾乳洞は、長い間スメラで成人の儀式に用いられてきた洞窟だった。スメラ
の子供たちは、十八歳の誕生日に必ず一人で洞窟の一番奥に赴き、そこにある祭壇
に名前を書いた木札を置き、直前に入った者の木札を持ち帰ることで、一人前の大
人と認められるのである。洞窟自体は数時間程度で往復できる程度の規模で、特に
危険な生物などもいなかったが、伝承によると、これまでに奇怪な生物が出現した
り、洞窟に入ったまま戻らなかった子供もいるということだった。しかし、愛華は
箔付けのための伝説に過ぎないと思っていたし、数年前にはこっそりと探検に入っ
て、何も起きないのに拍子抜けして帰ってきたこともあった。
  「この先は行き止まりなのに......どうして?」
  だが、汰狼は迷わず洞窟に走り入っていく。咄嗟に足止めの術を用いようかと大
地に手をつく愛華だったが、汰狼も土の属性であったことに思い当たる。
  「くっ、やつには効かないか...同じ属性なんて虫唾が走るわ...体術で勝負ねっ」
  数分の遅れで、愛華も飛び込んで行く。
  汰狼は必死に走っていた。真っ暗な洞窟などはもはや苦にならないほど闇に染ま
った身体ではあったが、背後に迫る愛華のスピードは驚異的であった。
  「くそっ...このまま連れて行くわけにはいかねえぞ...何とか...何とかしねえと
...」
  必死に頭を巡らせて姦計を講じる汰狼。やがて。
  「ぐひっ...そうだ、忘れてたぜ...ぐふふふっ...」
  会心の笑みを浮かべた汰狼は、なおも必死に最奥部目指して走り続ける。

 鍾乳洞の最深部。広間のような空間に、発光苔に祭壇がぼんやり浮かび上がる。
祭壇を背に、汰狼が振り返る。大きく肩で息をし、全裸の巨体を汗が伝っている。
突如、汰狼の頬をかすめて祭壇の壁にブーメラン状の手裏剣が突き刺さる。一筋の
血が頬から顎を伝う。
  「そこまでだ、汰狼っ!」
  ポニーテールに仕込んでいた鋭いくないを手に愛華が身構える。
  「ぐぐぐっ...しつこい女だぜ...そんなに俺様に抱かれたいのかぁ?」
  「ふ、ふざけるなっ!もう袋のネズミだぞ汰狼。尋常に勝負しろっ!」
  「ぎひっ...袋のネズミだあ?おめえの目は節穴かよ...ぎゃはははっ」
  「な、なんだと......!?」
  愛華は目を疑った。祭壇の背部にあったはずの岩の壁はどこにも見当たらず、ぽ
っかりと大きく開いた暗い穴が果てしなく続いている。
  「こ、これは......」
  「ぎひひっ...伝承は本当だったって訳だ。ここが滅多に開かない地獄への入り口
よ。だが、おめえを連れて行く訳にはいかねえな......喰らえっ!」
  戦闘体勢に入った汰狼が左腕を凄まじい勢いで愛華に振り下ろす。身をかわしざ
まに愛華のくないが繰り出され、深々と切りつける。
  「ぐおおっ...き、貴様っ、丸腰の相手に武器を使うかっ!」
  「丸腰なのは貴様がうかつなだけのこと。かける憐憫などないっ!」
  愛華が側面の壁を蹴って三角蹴りを見舞う。巨大な胸板にヒット。汰狼の巨体だ
よろめく。
  「あばらが何本か折れたな。次はどこがいい?」
  「ぐええええっ...ちょ、調子に乗るなよ、小娘がっ!」
  胸を押さえて蹲っていた汰狼が豪快な蹴りを放つ。軸足を変えつつ、驚くべき速
度で三発、四発。後方に下がってかわす愛華。五発目のハイキックを屈んで避ける
と、軸足となっていた左足の膝に両脚を揃えた低空の蹴りを叩き込む。
  「ぐぎゃあああっ!」
  膝があらぬ方向に曲がり、地響きを立てて倒れる汰狼。愛華がすかさず高々と跳
躍し、くないを胸元に構える。
  「罪の報いは死あるのみっ!とどめだっ!」
  その時、汰狼が邪悪な笑みを浮かべると、無傷の右腕から空中の愛華目掛けて何
かを投げつけた。漆黒の珠玉が愛華の顔面を襲う。
  「無駄だっ!」
  わずかにくないを動かして易々と弾く愛華。珠玉は脇に反れ......突如軌道を変え
ると愛華のわき腹に激突した。
  「!!......きゃああっ!」
  岩壁に叩きつけられそうになる愛華。とっさに身体を回転させて、両脚で壁を蹴
り、華麗に地上に舞い降りる。
  「小技を...だが、もう終りだっ!」
  汰狼が半身を起こす。
  「ぐひひっ...それはどうかな?自分の身に起きていることが判って言ってるの
か?...ぎひひっ」
  「な、なに......!こ、これは...?」
  わき腹にぶつかった漆黒の珠玉がなおそこにくっついていた。内部に生じた瞳孔
のような模様が愛華を見つめる。と、みるみる奇妙な突起が形成され、そこから触
手を伸びていく。
  「くっ...奇怪な技をっ......は、離せっ!」
  触手は愛華の手を縛り上げて抵抗を封じると、珠玉は愛華の胸元にまで登り、見
事な曲線を描き始めた双丘の中央に座し、光を放ち始める。
  「な......なんだこれはっ......!くっ...ううっ」
  「ぐふふふ......俺様の分身さ......入り口が閉まっちまうから、俺様はもう行かな
きゃならん......代わりにたっぷりと相手して貰うがいいぜ......ぐぎゃぎゃぎゃ...
...」
  よろめきながら立ち上がった汰狼が、ふらふらと闇の奥に姿を消していく。
  「ま、待てっ......うぁ?!あああっ......」
  必死に汰狼を追おうとする愛華が悲鳴を放つ。黒い輝きを一層強くした漆黒の珠
玉は、内部の瞳孔を猫のように細めると、突起を四つに増やし、さらに三本の触手
を追加して本格的な活動を開始する。
  「く...ううっ......な、なにを......ああっ...」
  腕を絡め取った触手の締め上げに、愛華のくないが地面に落ちる。甲高い金属音
と同時に崩れ落ちる愛華の身体。他の触手は、蛇のようにするすると動くと、連携
して愛華の衣服をはだけさせていく。
  「うあっ...こ、これはっ...や、やめろっ...うううっ...」
  ビスチェが捲り上げられ、見事な隆起をみせる乳房がこぼれ出す。二本の触手が
先端部を変形させると、人間の腕のような形状となり、すかさず愛華の両胸を揉み
しだきはじめる。
  「!はあっ...だめっ...いやっ...あああっ...」
  両腕を高々と絡め取られ、汰狼の腕に似た二本の触手に思うがままに乳房を蹂躙
される辛さに、愛華が悲鳴を上げる。触手の指先は、愛華の双丘の頂点にある薄桃
色の蕾を見つけだすと、同時に人差し指と薬指で挟んでこりこりと揉み、捻り、こ
ね回し、中指がその先端をそっと撫で回す。
  「あうっ...や、やめてっ...やあっ...」
  みるみる硬く尖っていく乳嘴。愛華の脊髄にこれまで体験したことのない奇妙な
感覚が押し寄せる。その感覚が、脳髄にまで達すると、愛華は無意識に背を仰け反
らして呻く。その声には苦痛以外の甘い響きがあった。
  その隙に、残る触手が短いスカートの中に入り込み、純白の下着を剥ぎ取りにか
かる。胸の刺激に耐えかねて眉根を寄せていた愛華の瞳が驚愕に見開かれる。
  「あっ...だ、だめっ...離してっ...いや、そこはいやっ...ああ、やあっ...」
  必死に身悶えする愛華のはかない抵抗を嘲笑うように、下腹部を覆っていた可憐
な下着がか細い音をたてて引き裂かれる。外気に晒された愛華の秘苑に押し当てら
れる触手。愛華の花薗の全ての秘密を暴くべく、優しく丹念に、そして執拗に蠢く。
  「やあっ...いやっ...だめだめっ...あああうっ...そこはだめっ、だめなのっ...やめ
てお願いっ...はあああっ...」
  両胸を責められ続けながら、それ以上に敏感な最も恥ずかしい部分までも陵辱さ
れる切なさ。押し寄せてくる初めての感覚のあまりの深さと甘さに狼狽して、激し
く首を振る愛華の両頬は耳まで真っ赤に染まっている。愛華の哀願が通じたのか、
そっと花園を離れる触手。せわしない呼吸をしながら、目にいっぱいの涙をためた
愛華の眼前に、スカートから出てきた触手が姿を現す。突如、変形を開始する触手。
その形状は......。
  「い、いやああぁぁっ!!」
  張り裂けるほどに見開いた愛華の瞳。その前にあるものは、明らかに男の欲望の
猛りだった。松茸のように大きくえらを張り、ぴくぴくといやらしく脈動するそれ
は、愛華に散々その猥褻な姿を見せ付けた後、再び愛華のスカートの中に潜り込ん
でいく。その残酷な意図に気付く愛華。
  「きゃああっ...だめっ...いやっ...それだけは許してっ、お願いっ...ああ、やあっ、
やあああっ...!」
  膝を付けて、ぴったりと脚を閉じる。愛華の抵抗を封じるかのように、両胸を揉
む触手の動きが一段と激しくなる。その快感に一瞬緩んだ膝を割り、易々と愛華の
下半身に潜り込んだ触手は、秘苑とその周辺をゆっくりと楽しむように小突き回る。
やがて触手は愛華の花芯に桃色の真珠を発見すると、熱く脈動する肉柱をこすりつ
けはじめる。
  「!やあっ...そんなっ...だめっ...そこはっ...はあああっ...いやっ...やめてぇ
っ!!」
  長い時間をかけた執拗な責めに、愛華の秘苑は静かに潤いを示し始める。その事
実に驚愕する愛華。
  「だめっ...そ、そんな...どうしてっ...いやなのにっ...ああ、だめなのにっ...ふあ
ああ...ああうっ」
  両胸と股間を襲うとどまるところを知らない触手の責めに、愛華が泣き声を上げ
る。だが、その声には喘ぎが混ざり、媚びるような色彩が次第に濃厚になっていく。
嫌悪感から激しく揺さぶっていた身体も、いつしか加えられる快感によって、悩ま
しくくねり始めている。泉が十分に潤ったことを確認した触手は、まだ誰にも知ら
れていない花芯の奥を征服し始める。ぴたりと突きつけられる灼熱の先端。
  「はあっ...だめっ...そ、そこだけは...許して。お願いっ...助けてっ、義兄さんっ
...義兄さあんっ...!」
  愛華の悲鳴が洞窟内に木霊する。愛華の表情をじっと見つめる珠玉の瞳が嗤うよ
うに震える。腕を絡め取った触手の先端が、愛華の眼前にまで伸ばされ、変形して
汰狼の顔になる。にやりと凶悪な笑みを浮かべる汰狼。一瞬動きを止める三本の触
手。
  「ご、剛蔵さんっ...助けてっ...剛蔵さんっ...ごう...ふあッ...はあああああッ...あ
あああああああッ!!」
  ついに、硬く太い触手が愛華の胎内に侵入する。その苦痛に悶え、叫ぶ愛華。身
体を大きく弓反りに反らせ、ぶるぶると震える。闇をみつめる愛華の瞳から大粒の
涙がこぼれ落ちる。処女喪失に張り裂けそうな愛華の心をさらに蹂躙するように、
三本の触手が活動を再開する。
  「はあッ...はうッ...うああッ...ああんッ...」
  もはや愛華の唇からは、喘ぎ声しか出なかった。胸元の二本の触手は、極限まで
硬く大きくなった乳嘴を責め抜いていたかと思うと、乳暈を隠微に撫で回す。かと
思えば、乳房全体を包み込むように揺すり上げたりして、繊細かつ巧妙に愛華の性
感を引き出している。股間深くに侵入した触手は、ぐるりと回転したてみせたり、
若鮎のような元気な身じろぎをしてみせたりしながら、清らかな愛華の胎内のさら
に奥深くへと潜り込んでいく。それが愛華に与える感覚は、もはや苦痛だけではな
かった。
  「うあッ...んんッ...んあッ...くうッ...はうッ...ああッ...ああんッ...」
  その喘ぎ声が次第に甘く切ないものに変わってきていることに愛華自身が気付
く。全身が熱く火照る。細かな汗の粒が噴き出し、全身をしっとりと濡らしていく。
  (......ど、どうして...どうして感じるのッ......初めてで感じるなんて......わ、わ
たしは...淫乱なんかじゃないッ...違うのッ、違うのにッ!)
  心をあっさりと裏切って触手の責めに反応を示してしまう愛華の身体。愛華は女
という性を呪わしく思う。汰狼の顔に化けた触手が愛華の唇を奪う。差し込まれた
太い舌が、愛華の舌と絡まりあう。
  「うむッ?...むうううッ...くうッ...!」
  一度ならず二度までも卑劣漢に唇を奪われ、屈辱の涙を流す愛華。やがて、子宮
の入り口にまで達した触手が、こつッ、こつッと扉をノックしながら、大きな抽送
運動を開始する。
  「はあッ?...あああんッ...す、すごいッ...ふあああッ...あんんッ...だ、だめッ...
そんなに激しくしちゃッ...はああああッ...!」
  うわ言のように喘ぎ続ける愛華。その全身は汗にまみれ、闇の中にあっても桃色
に輝いてみえる。膣内の触手の動きが早くなる。さらに一段と膨れ上がっていく。
  「ひゃあッ...ああんッ...そんなッ...ああんッ...あふッ...ま、まさかッ...あああん
ッ!」
  (まさか...まさか、射精するのっ...!?そ、そんなッ、だめッ、それだけはダメ
ッ!)
  触手の示す微妙な変化に、愛華の本能が身の危険を察知する。
  「はああッ...だ、だめッ...それだけはッ...あふううッ...それだけは許してッ...や
あッ...やあああッ...はああんッ!」
  度重なるノックに応え、ついに愛華の子宮が降下を開始する。入り口がゆっくり
と開いていく。クライマックスを迎えようとする触手。抜け落ちそうなほどに浅瀬
まで引き抜かれると、そこから一気に奥深くまで貫き、射精を堪えてぶるぶる震え
る鈴口を子宮口にぴたりと押し当てる。そして。
  ドクッ!...ドクンッ!...ドクン!
  熱く濃密な樹液が聖なる愛華の子宮内に夥しく噴出される。女の最も大切な器官
を穢された衝撃に、激しく身体を痙攣させる愛華も、同時に初めての絶頂に導かれ
ていく。 
「はああッ...ご、剛蔵さんッ...剛蔵さんッ...ごめんなさいッ...あ、愛華を許してッ
...ああああああッ!!」
  大きく身体を仰け反らせる愛華の瞳から一筋の涙が流れる。樹液から愛華の胎内
に流れ込んでくる凄まじい負の感情の嵐。憎悪。羨望。孤独。屈辱。翻弄されるま
まに愛華の理性は剥ぎ取られ、その奥底に封じ込められていた黒い感情が目を覚ま
す。嫉妬という名の狂気。愛華の瞳は焦点を失い、瞳孔が大きく開いていく。

 「......ユウゴウカンリョウ......」
  官能に大きく喘ぎ、震えていた愛華の可憐な唇から機械的な音声が漏れる。突如、
四本の触手は形を失うと、愛華の身体に流れ落ちてゆく。身体に溶けるように消え
る触手は薄い皮膜となって愛華の身体全体を隈なく覆う。一瞬、愛華の身体の動き
が止まる。やがて静かに起き上がった女は、栗色の髪に白い肌の愛華ではなく、漆
黒の髪に闇の肌を持った別の存在であった。
  「ぐるるるるるっ......」
  野獣が唸り声が咽喉から漏れる。全身を駆け巡る憎悪。嫉妬。そして破壊と殺戮
の衝動。
  「ぐああああっ...ごおおおおっ...!!」
  洞窟の出口に向けたその女が疾駆していく。全てを破壊し、蹂躙し尽くすために。

 寝台に寝かされていた姫香の目がゆっくりと開く。焦点の合わない瞳がぼんやり
と天井を見つめる。頬に浮かんだ薄ら笑いには、知性の片鱗も見られない。
  突如、轟音とともに、裏庭に雷が落ちる。直撃を受けて燃え上がる大木。衝撃に
家屋全体が激しく揺れ、その拍子に神棚の守り刀が落ちる。姫香の枕元にぽとりと
落ちた小刀。落雷の閃光にも大音響にも無反応だった姫香が、その微かな振動に顔
を動かし、ゆっくりと手を伸ばす。白痴の微笑みを浮かべたまま刀に触れる姫香。
一瞬刀は青白く光り、姫香の全身がびくりと弾ける。姫香の瞳に理性の光が戻って
いく。半身を起こした姫香。毛布がずり落ち、汰狼に蹂躙され尽くしてもなお美し
い裸体が現れる。両手でしっかりと守り刀を握る姫香の身体が、ぼんやりと輝きだ
す。

 スメラの里は殺戮場となっていた。洞窟から突如飛び出た見たこともない黒い女
は、里の家をことごとく破壊し、女子供も容赦なく殺害していく。不意を衝かれた
とはいえ、超絶的な戦闘能力を誇るはずの鬼哭一族が、なすすべもなく次々と討ち
取られていく。
  「統領!大変です!て、敵襲っ!......成人の洞窟から現れた怪物が暴れまわって
います!」
  里人の知らせに獅郎が飛び出す。たちまち参集する近衛隊の戦士達。悲鳴と怒号
が広場から木霊する。
  「デビルサイダーの襲撃か?!大物の悪魔が混じっているのか?」
  「そ、それが...敵は一体、それも女のようなのですが...既に里人の半数以上が殺
害されております。」
  獅郎が眉をひそめる。
  「なんだと......敵一体にスメラがこの様かっ!」
  手にした刀を抜き放つ。青い光が目を射る。
  「スメラの誇りにかけてもわしが討つ......者共、続けっ!!」
  「応っ!」
  広場に向かう獅郎に武装した男達が続く。

 触手が次々と戦士達の身体を貫いていく。黒い女は、火術、風術、水術をことご
とく弾き、土術を中和してしまう。銃や矢や手裏剣は女の使う土術の盾で無効化さ
れてしまう。
  「な、何だと...我々の技を...我々以上に使いこなすとは......一体何者だ?」
  獅郎が唸る。近衛の戦士も既に半数が討たれていた。
  「剛蔵がおれば......し、しかし......」
  獅郎の胸に疑念が湧く。デビルサイダー達は瘴気をよく使うものの、空風火水地
の五輪の術を使ったという話は聞いたことがない。
  「まさか...あれも鬼哭一族なのか?しかし、あれほどの戦闘力を持つ者など...」
  闇を纏った女が獅郎を見つめる。にいっと不敵に嗤う。
  「ぬうっ!スメラの統領、水竜の獅郎参るっ!」
  獅郎が刀を振りかざし、一閃するや、疾走に移る。
  「烈爪刃牙蒼龍覇!」
  剣尖から迸る水が竜の形となって一気に女に襲い掛かる。一歩も動かずに平然と
受ける女。だが凄まじい水圧に一瞬動きが止まる。その隙に剣の間合いに入る獅郎。
  「せりゃあっ!皇神魔流奥義、海裂剣っ!」
  唐竹割りに女を頭から両断する剛剣。しかし。
  「な、なんとっ!」
  頭の直上に突き出した両手を白刃取りする女。妖艶な笑みがこぼれるその瞬間。
  「ごはあああっ!」
  動きの止まった獅郎に、四方から飛来した触手が突き刺さる。
  「ぐはっ...い、今だ...四天王よ...我もろともに、こ、この女を葬り去れっ!」
  片手で刀を持ち、片手で触手の先端をまとめて掴んだ獅郎が、女の動きを止めて
命ずる。非情な指示。だが、日ごろ厳しく訓練された近衛隊四天王は、冷然と四方
に散る。
  「了解っ!合体奥義、鬼哭四獣陣用意っ!青竜招来!」
  「白虎招来!」
  「朱雀招来!」
  「玄武招来!」
  四人が声を揃える。
  「四聖獣浄化鎮斉波!!」
  四匹の怪物が四方から同時に女に襲い掛かった。一瞬、女の背後に巨漢の姿が揺
らめき立つと、玄武が消滅する。残る三匹は女に激突するが、多少揺らめいただけ
で大したダメージは与えられない。
  「い、今のは...汰狼?...た、汰狼なのか...?」
  力尽きてどうと倒れる獅郎。自由になった触手が、四天王を殲滅していく。勝利
の歓喜に、天を見上げて咆哮する女。もはや、敵はいなかった。

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