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堕とされる牝(おんな)
〜Another Story Of “Hakugin No Delmo Sakusen”〜

第1章 負かされる牝

「あなたのデータはすべて頂いたわ。」
嘲りの意を込めた台詞の後、3つの銃声と、3つの破壊音が部屋に響く。
その部屋には3人の女性が三者三様の表情を浮かべ立っていた。
向かい合った相手を小馬鹿にするような瞳で見詰める リエ。
最も慕っている女性のあられもない姿を見て、複雑な表情を浮かべる りおん。
恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にする 藍華の3人が。

藍華はあまりの屈辱と怒りに肩で息をしていた。
今 壊した正面の大画面には、一糸纏わぬ姿で、女性の最も感じる部分や
自分でもトイレと体を洗う時以外触れた事のない最も恥ずかしい部分までも
無慈悲に調べ尽くされている哀れな自分の姿が映っていたのだ。
しかも、年端もいかぬ少女に。
意識を失っていたとはいえ、
藍華のように成熟した女性にとって、これほどの屈辱はなかった。
自分のあられもない姿を見せられ、
今この場で実際に体を弄ばれているような感覚と恥ずかしさを感じる。
いや、客観的に、そして、自分を姉のように慕ってくれ、
また自分も妹のように可愛がっている りおんと
一緒に見ている分、恥ずかしさは増していた。

少しの静寂のあと、藍華はやっとのことで息を落ち着かせ、
「ハァー、ハァ、ハァ、こんなことして、何になるの?!」
藍華とは対照的に冷静な顔をするリエに言葉を吐きつけることが出来た。
「あなたの強さを研究して、私たちデルモゲニィを更に強くするためよ!」
すぐにリエが敵意を込め、また単調で機械的に返答する。
「そんなことさせないわよ!」
そんなリエの態度に藍華は更なる怒りを覚え、そう叫びながら襲いかかっていった。
「あっ! くぅ!」
しかし、怒りにより技の切れが悪く、右パンチ、後ろ回し蹴りと藍華の攻撃は
余裕の笑みを浮かべるリエに、ことごとくかわされ、
「アァァッ! あっく、はあぁぁ!」
逆に延髄に跳び蹴りをくらい、
更に背中におぶさられチョークスリーパーまで掛けられてしまう。
予想外の劣勢が、戦い慣れた藍華を冷静にした。
そして、状況を瞬時に判断して、
リエを床へ頭から叩き付けようと、素早くバク宙するようにジャンプしたのだった。
相手の虚を完全についた攻撃に勝利を確信した藍華の顔と、
未だに憎たらしいほどの余裕を、
いや、せせら笑うかのような表情を浮かべるリエの顔が宙に舞う。

次の瞬間、
藍華にとっては思いもよらなかったこと、リエにとっては至極当然のことが起こる。
グシィィィン!
鈍い音が部屋に響いた時、
後頭部から首筋にかけて重く激しい衝撃を受けたのは、リエでなく藍華であった。
リエは床にぶつかる寸前にチョークスリーパーを解いて、
両手を床に突き落下点をずらすことにより、
藍華の攻撃を流し、更に逆にその力を利用して投げ技を仕掛けたのである。
そう、床に叩き付けられたのは藍華の方だったのだ。
藍華だけが、その事実を理解するのに暫く時間を要した。
藍華は、受け身を取ることも忘れ、そのまま床に倒れ込み、
「ぅふぅ!」
下腹部をしたたかに打ちつけ無様に大股を開いて突っ伏した。
藍華は、勝利の笑みを浮かべるリエの姿を見て、はじめて何が起きたのか理解できた。
そう、負けたのは自分の方であるということに。
時間としてはたいした時間ではないのだが、
藍華には景色がスローモーションのようにひどくゆっくり動き、
その時間が何十倍にも長く感じられた。

床にカエルのように情けなくへばり付く藍華を尻目に、リエは優雅に前転を決め、
「あなたの戦い方は研究済みよ。」
クスリと笑みをもらしながら、屈辱で固まったままの藍華を見下ろし、
勝利の台詞は投げつけた。
藍華は『私の方があんたなんかより1枚も2枚も上手よ。』と言われたような気がした。
事実、リエは心の中でそう思っていたし、
無傷のリエと、痛みで動けず地面に這いつくばっている藍華の姿を見れば、
誰もがそう思っただろう。
藍華の敗北は誰の目にも明らかだった。
いつも近くで藍華の戦いを見ている りおんもこのひわかに信じ難い状況に
動揺していたが、目の前の現実をちゃんと理解していた。
そして、未だに立ち上がらない藍華の身の心配し呼びかける。
「藍華さん!」
りおんはこの後「この子には勝てないわ! 逃げましょう!」と続けようとしたが、
『私がその台詞を言ったら、藍華さんはもっと傷つく』と思い、
すんでのとこでその言葉を唾とともに飲み込む。

この驚くべき現実、あの皇 藍華がまだ幼さを残す少女に1対1の格闘で、
しかも一撃も浴びせることが出来ずに負けたという現実を
受け入れない者が ただ一人だけいた。
それは敗れた当人の藍華である。
頭ではこの現実を理解していたが、認めたくなかったのだ。
幼い頃から体を鍛え、今まで数々の修羅場をくぐり抜け、
そして、同条件下の1対1の戦いでは男にも負けたことのない自分が、
こんな年端もいかない体も未発達な少女に負けたという事実を認めることを
今までの経験で培った自信とプライドが許さなかったのだ。
「ぐっ! くっ!」
しかし、今だ攻撃のダメージで体が痙攣して、いくら踏ん張っても力が入らず、
起き上がることも出来ないというのが現実だった。
悔しさと自分への不甲斐なさで体が震えている。
床に這いつくばっていても、
目だけは自分を見下ろす、幼き恐るべき敵を睨み付けていたが、
これは、不屈の闘志やガッツとかといった奇麗なものでは決してなく、
だだ悔しさや憎しみを相手にぶつけているにすぎなかった。
その行動がより一層、藍華を哀れに見せた。

リエはそんな藍華の姿を見て、いや、その心の中を見透かし、ガッカリしていた。
リエは憎き敵ながら、美しく、強い藍華に興味を持っていて、
また、この作戦で、憧れてさえいた藍華に会えることを楽しみにもしていたのだが、
今、足元に転がっている女は、想像とはかけ離れた、つまらない女であったからだ。
期待が大きかった分、落胆は凄まじく、失望や幻滅といった感情までも抱いていた。
藍華は、汚いものでも見るかのようなリエの眼差しを見て、
惨めさが増し、下唇を噛みながら瞳をわなわなと震わせる。
すぐにでもリエに殴り掛かりたかったが、
未だに体を満足に動かすことも出来ないのである。
藍華はそんな自分の体が腹立しくて、
『動いて! お願い。早く!』と何度も心の中でそう叫び続けた。

その願いが通じてか、体に痺れや痛みが残ってはいたが、何とか動くようになってきた。
しかし、とても戦える状態ではない。
その場から逃げ出すことは出来たかもしれないが、
藍華は愚かにも戦うことを選んでしまう。
その選択により、この先訪れる更なる地獄を知らずに。

「くっ!」
藍華は自分の体を動かすのにさえも呻き声が出る。
それでも、藍華は、『肉体の痛みは我慢できるが、屈辱という苦痛は我慢できないわ』と、
傷ついた体を押して、リエに跳びかかり攻撃を始めるのだが、
とてもではないが、それは攻撃といえるものでなく、
まるで、ケンカに負けた幼き子供が
泣きながら腕を振り回して相手に向かっていくようだった。
「あっ! あっ! あぁっ! あぁ!」
喘ぎ声とも聞こえる、呻き声を漏らしながら、
藍華は徒労と終わるであろう攻撃を無様に続ける。
「ムダ、ムダァ!」
もちろん、リエはそんな藍華の苦しみ紛れの攻撃を難なくかわし、
げんなりとした表情で『自分の負けを認められない人って哀れね』と、
考える余裕まであった。
藍華はかすりもしない自分の攻撃と、
リエの見下すように自分を見る瞳と不敵な笑みにフラストレーションを募らせ、
『くそ! くそ!』と心の中で叫びながら、
どんどんと雑になっていく無駄な攻撃をし続けるのだった。
その時、藍華は、憎たらしいほど優雅に美しくたなびくリエの髪を見て、
いつもなら考え付かない姑息な反撃方法を思い付く。
その無防備な髪を掴んでやろうと思ったのだ、
それほどまでに藍華の精神は追いつめられていた。

藍華は次の攻撃で狙い通りリエの髪を掴んだ。
この戦いで初めて藍華の思い通りにことが進んだ瞬間だった。
藍華の顔からは嬉しさのあまり、一瞬、笑みがこぼれてくる。
『今まで、よくもやってくれたわね。さあ、ここからが反撃よ!』
そして、思いっ切りリエの髪を自分の方に引っ張った。
『これで形勢逆転ね。今まで恨み晴らさせてもらうわよ。』
その時の藍華の顔は、無邪気な少女のようにかわいらしく輝いてさえいた。
しかし、藍華の反撃など、一瞬たりとも存在せず、
また、リエに恨みを募らせることがあったとしても、
この先、一生、恨みを晴らすことなど無かった。

藍華は力の限りそれを引っ張ると黒いものが近くに寄ったのだが、
思いのほか その物体が軽くて驚く、
そして、それと同時に、脇の下を通り抜け背後に回る人影に気付いた。
その人影は髪を後ろで束ねアップにしたリエの姿であった。
今度はすぐに状況を判断できた。
今、自分の手の中にあるのは、かつらで、またこの少女に一杯食わされたのだと。
『やっぱり、この少女の方が1枚の2枚も上手で、私はこの娘には敵わないんだわ。』
藍華の心の中は惨めさと敗北感で一杯になっていく。
そう思っている時には、すでに藍華の体は宙に浮いていた。
リエは藍華の脇の下をすり抜ける時、足を引っ掛け投げ飛ばしていたのだ。
藍華はそのまま胸から床に叩き付けられ、一度バウンドしてから、突っ伏した。
胸に激痛が走ったが、すぐにリエの方を振り向く。
それはまだ戦う意志があるのでなく、恐怖心からであった。

振り向いた藍華の目に最初に映ったのは靴底だった。
「ギャッ!」
次の瞬間、鈍い激痛が顔の両側を見舞う、頭の中で鐘が鳴り響くように痛みが響く。
暫くして、目の焦点が合うと藍華は、もう一度、上方を横目で見る。
そこには自分の横っ面を踏んだままの不敵な笑みで自分を見下ろすリエの姿があった。
「まさか、あんなセコイ手を使うは思わなかったけど、一応準備しといて良かったわ。
しかし、姑息な手段まで用いたのに、
結局、何も出来ずにまた床に這いつくばることになるのなんてね。…惨めね。
ほんっと情けない女。どうです? 今の気分は? やっぱり悔しい?」
リエはそう言いながら、藍華の顔を更に踏みにじった。
藍華は口の中を切り、口の端から涎とともに血が流れてくる。
「グッ! ウッ…」
藍華は自分の顔が醜く歪んでいくのを感じ、この屈辱的な攻撃から逃れるため、
手足をばたつかせ、無様に這って逃げようとするが、
リエにすかさず、右手を掴み取られ、更にその右手を背中の上にねじ上げられ、
片手でリエに関節を極められながら腰に跨がられてしまう。
「あっ! クウゥ…ぐっ。」
藍華は、それでも脱出を試みようと暴れるが、
右手の関節を極められたまま、
リエに後頭部を掴まれ、何度も床に顔面を打ちつけられると、
「ギャァ! ぐわっ! ぐふっ!」
手足をダランと伸ばし動かなくなっていった。





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